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第十八話

1945年、5月


第三帝国は崩壊した、

戦争は終わり、生き残る戦いが始まったのだ、


家々が並ぶ街道を、

避難民とVK3001(P)が並走する、

ソ連軍の攻撃で道端の家が何件か燃えていたが今は構っていられないのだ、


「兵隊さん、乗せてくれ~」

「いいですよ、どうぞ」

「コラー!アダム!!いい加減にしてくれぇ!!」

何しろ車体の上は避難民でごったがえって居るのだ


「戦車の上に居ると弾丸が来たらイチコロでやられるぞ!?いつソ連軍と出くわすかも分からんし!!サスペンション不安だし!!!」

「ほっとくわけにはいかんよ、始めた戦争が負けで終わったんだ、これくらいはやってらやんとな...」


逃避行はいつしか敬老会や子ども会の集団旅行と化してきていた、

時速は10、ソ連の戦車からは逃げられるはずが無い、


「少尉さん、うちの子供がおしっこと...」

「ええい!走りながら立ちションしろ!」

「おーい、のせてくれ~」

「またかよ...」


もちろん、

点検もサボれないぞ


「おーい、まだかー」

「このヤロウ!覚えとけよ!!」

「お前が色々乗せるからだろ...」

「アダムさん大丈夫ですか???」

「大丈夫大丈夫、アイツは頑丈だから」

「理由になってねぇよ!」


そして、

雲行きも怪しくなってきた、

見える町見える町すべてが砲撃などで破壊されて燃えているからだ、


「街道から降りてろよ!俺が偵察に行ってくるから!」

今度はロキが女装して町に入っていく

トールも勿論ついて行く


この時期になると、

西へ通づる街道はすべて難民とソ連軍の捕虜になるまいとするドイツ部隊で充満渋滞していた、


「うわ~...こりゃ街道は使えないな...」

そうやって単眼鏡で見ていると、

森の中に人工物を見つける、


「BA-64装甲車...攻撃部隊を呼んでるな!街道が血の海になるぞ!!」

「ロキ!!ソ連戦車だ!!!」

「馬鹿!!走らせるな静かにしろ!!!」

「ざっと30は居ったぞ!何があったんだ!」

「...やっぱりそうか」


町の向こう側の丘を土煙が包む、

T-34だ


「街道の友軍を見捨てるわけにはいかない、俺たちは少しでも時間を稼ぐ、主砲も使うし、撃たれもする、戦車の上は危険だみんな降りて自分の足で逃げてくれ」

「ロキさん、それは無理です、私たちはただの一般人です、軍人とは違います、ここで降ろされてもいずれ捕まります、それをあなた方は分かっているはずです、お願いします」

「しかしだな、一般人を戦闘行動に巻き込んではいかんし...」

「このままでは駄目ですか?ロキさんが、最善を尽くしてくださるのなら、結果に文句はつけません、」

「ええい!ヤケクソだ!!かさばる荷物は捨てろ!みんな砲塔の後ろに固まれ!子供たちを砲塔とシュルツェンの隙間に!」

「誰か装填手をやってくれ!!」

「アダム!土手に隠れて500m前進!まずは偵察車を喰ってやる!!砲撃と同時に右手の森へ突っ走るぞ!!お嬢さんは見張りを頼む!!」

「はい、あ、御祖母ちゃん頭引っ込めて...」

「あんまりしがみつくな、砲塔が回らん」

「耳をふさげ!!撃つぞ!!」


トリガーは、確かに引かれた

撃ちだされた砲弾は土煙を残し、

目標のほうへ飛んでいく、そして、


「はずれた!?この照準器狂っとる!」

「そういやぁお前、砲を撃ったことあるのか?」

「無い!」

「馬鹿野郎ぉぉぉ!!!!!!!」

「構わん前進だぁぁぁ!!!!!」

「街道の人たちも気がつきました!」

それと同時に

ソ連兵も気がついた


最高時速60km/hと言っても芋畑なので半分出ているかも怪しい、

下手すれば半分以下かもしれない、


射撃距離、700m、

発砲から弾着まで一秒、

その間に約6m動けるだけだ


「狙ってます!!」

「砲口が黒い点になったら合図しろ!!」

アダムがエーファに指示を出す、


少女の視力が頼りだった、


「黒点です!!」

「1、2、3、...ロキ行くぞー」

「全員摑まれぇぇぇ!!!」

「ブレーキ!!!!!」

0.3秒後、

T-34発砲、


T-34の85ミリ砲は一発でドイツの軍馬、Ⅳ号戦車を大破できる

コイツ(VK3001(p))も例外ではない


「いてて!」

「ぐへぇ!」

「きゃー!」

ブレーキが効き車体が止まり慣性の法則で難民は前に投げ出されそうになる、


『ハズレー』

『クソッ!ヤツラベテランダゾ!200ヒケ!』


ここからは

アダムの砲撃回避術である、

エルケンバルトはこれを射線回避術とよんでいる、

もっとも、この回避術はエルケンバルトが実行し、アダムに叩き込んだものである、


最も原始的な回避術であり、

射線のかわし方でもある、

ブレーキと急発進をまぜると結構な効果があるのだ、

ドイツ戦車兵マニュアルにはこのような細かい修正射撃はするなと書いてある、


『アレ!?チカイゾ!?』

『200ノバセ!!』

『ア!ズルイ!!トマラネェノ!!』

『バカ!トオスギル!!』


「落ちるー」

「ひー」

「おたすけー」

「オギャァァー」

「あちち!」


とりあえず双方ともに悲鳴が上がっている

そしてけが人なしで森へ逃げ込んだ


「アダムさんお見事!」

「まだまだこれからよぅ!」

今度はロキが張りきった


「こういう場合は必ずいやな予感がするんだが...」

まぁまぁ、


「砲塔を後ろへ向けるみんな前へ移ってくれ」

「えぇー!!?まだやるんですか!?」

「当たり前だ!急げ!」

ゆっくりとその砲塔を旋回させる、


旋回速度は28°/s

ティーガー戦車の砲塔旋回速度は24°/s、酷い時は18にまで落ち込む、


大して変わらないのである、

車体前方に大勢が乗るようなスペースは無い、

そのため全員砲塔の上によじ登るかシュルツェンに摑まっているかして対処している、


「よーし止まれ、街道の連中に時間を稼いでやる」

砲口を覗いて照準を決める、これがよくあたるのだ


さっさと照準を決めたら弾込めて撃つのみ、

景気良く一発撃ちだした


『イテェ!』

『ヤリヤガッタナ!!』

一輌のT-34が撃破された


『テメェッ!』

『ヤッタナ!!』

『ブタヲコロセ!!』

『ナメヤガッテ!!』


「やばぁ...(←来ると思ってなかった人)」

「だからやめろって言ったのにぃ...いやな予感しかしねぇよ...」

「ツベコベいっとらんで前見て走れ!!」

「どーせ前しか見えんよーだ」

「きゃー」

「あれー」

「わぁー」


森の中を逃げ回る、

すると、突然視界が開ける、


もう全員ヘロヘロである、


「なんだ?飛行場か?」

「いや、アウトバーンだ」

アウトバーンは危険だが構ってられない、

全力で西へ向かうのみ


「追ってきました!撃った!!」

「走れ!」

近くに着弾する、

乗っている人たちが衝撃波で悲鳴を上げた


T-34の方がはるかに早い、

追いつかれるのは、時間の問題となった


「弾込めて、やられたら直ぐにみんな逃げろよ」


この瞬間、

戦車の指揮はすべて一人の少女にゆだねられた、


前方にも戦車のシルエットが見えた、

もはやこれまでと、誰もが思ったそのとき、


「前方に戦車郡!!」

「このまま進んで!!」

「「え!?」」


全員が戸惑う、


「みんな手を振って!アメリカ軍よ!!」

「きゃー!」

「ワンワン!」

「わぁー!」

「撃つな!」

「ヘルプ!」


『待て撃つな!何だありゃ!』

『ソ連が民間人を乗せて走る戦車に砲撃してます!』

『インディアン!?』

『本物の紳士を見せてやれ!』

『イギリスじゃねぇんだからさぁ...』


「アダムさんブレーキ!!」

戦車だって横滑りはする、

本当だぞぉー


一度の体験だけでエーファは射線のよけ方を学習したのだ、

恐るべきドイツ少女


そして流れ弾はアメリカ軍M4シャーマン戦車へ


『と!!』

『やりやがったなー!!!』

『撃てー!!!』


『アメリカグンダゾ!?』

『ヤツラナチストナレアイナンダ!!』


こうして、

アウトバーン上の不意遭遇戦は幕開けし、

いわゆる冷戦の引き金になったのである、かもしれない...


もはやボロボロのVK3001(P)を気にする者は居なかった

いつ姿を隠したのかも、知る者は居なかった、


ただ、


「T-34!!」

「後退後退!!」

「撃ちました!!」

「全員降りろぉ!!!」




その日のソ連の戦闘記録よれば、

アメリカ軍と殴り合っていたアウトバーンの近くで、

民間人を乗せたティーガー戦車らしき車両の撃破記録が残っていたりする、

民間人はすべて無事アメリカ軍が保護、車体は、どこかへ消えてしまったと、

記されている、







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