第十一話
見事に、的のど真ん中に主砲弾を命中させたシトシも小さくガッツポーズをとった、
キューポラから顔を出し、エルンが特設テントの元帥ににっこりと笑顔を送る、
元帥も拍手でエルンの笑顔を受け取る、
そして、サッと演習場の西側の工場の様な倉庫に合図を出す、
恐らくは、老整備士だろう、
と、車内の誰もが、いや、特設テントの人達も流石に予想がつかなかった様だ、
倉庫の横の扉…、では無く倉庫の正面大扉が開き出したのだ、
「一人の人に随分豪華な演出だな、流石は元帥だ、」
「映画みたい…」
そんな話をして居ると、
倉庫の正面大扉は中に光が届くまでに開いていた、
「……いや、いやいや。嘘だろ…。」
「だ、大丈夫、現実よ、」
倉庫の中から出て来たのは老整備士ならぬ、
我が祖国ドイツの試作188㌧超重戦車、
フェルディナント・ポルシェ博士とヒトラー総統の欲望とロマンの塊、
そう、迷彩柄を身にまとったふくよか過ぎる大鼠、
マウス超重戦車だ、
最も出会いたく無かった戦車でもある、
しかし、待てよ、国防軍整備倉庫から出て来たんだ、
もうあっちの所持物って事か、
そう考えて一先ず安心する、
特設テントの前にマウスが止まり、
全員が唖然としているその瞬間に、砲塔のハッチが開き、
中からモグラみたいな爺さんが出てくる、
「おい元帥!ワシにこんなもんを操縦させて、そんなに楽しいか!」
ちっと小太りな爺さんだ、
例えるならラピュタのハラ・モトロだ、
「さーて、何の事かな?」
とぼけた顔で元帥が答える、
「どうでした?乗り心地は?」
子供みたいな無邪気な顔で元帥が聞く、
「…のろいな、しかし、整備のしがいがある、」
「のろいのは承知の上です、使えますかね?」
「使える、ただどうもエンジンが不安でな、やはり、出力不足じゃ、」
「しかし、我が国にはもう要件を満たす発動機はありません」
「…仕方あるまい、ワシがいじっておく、」
実際、マウスには史実より強力な1300馬力の発動機が載せられて居るが、
マウスを完璧に動かそうとすると1800馬力はひつようである、
ちなみに、ここに爺さんの実力を書くと、
あの焼玉エンジンをたった1分で発動させる事ができる、
ボケーとエンジン音を聞いて居るだけでどこが壊れて居るかが分かる、
とりあえず、何でも整備出来ちゃう、
爺さんの短所は、
口が悪い、
とにかく頑固、
弩乱視、
と、まぁ、短所より長所が遥かに勝る爺さんだ、
話がそれるが、
現在でもエルベニアとの雰囲気がピリピリして居る大八洲国防軍作戦部は、
元ドイツ兵のエルンに質問攻めをして居た、
「もし、相手が確実に攻めてくるとしたら、先ずは一旦このアーパ山脈の大八洲に流れ込む二つの渓谷、第9地区のファウト渓谷、第8地区のセカドゥ渓谷に鉄壁の防衛線を張ってください、敵の攻略部隊に打撃を与えた所で、電撃戦を行います、」
『で、電撃戦!?』
作戦部主要員が全員素っ頓狂な声を上げる、
「よするに、機甲部隊の高い機動能力を活用した戦闘教義です、」
「高い機動力を持つ戦車なんて、」
「我が国では甲二型快速戦車、同盟国のダッチラント共和国ではⅠ号自走砲とⅡ号戦車、装甲指揮車などの装甲車輌と運搬車輌のみです」
「うむむむ…、少ないなぁ、」
「少ないなら戦術面で補えば良いです、問題は、いつ来るかどうかです、」
こればかりは流石のエルンでも分からなかった、
両国家の亀裂は、
日に日に深くなっていく…
次回へ…