第一話
大戦末期、東部戦線などにおいて、
一人の余りにも無名な歩兵が、
現在はベルリンの防衛の最前線にて奮戦していた、
「クッソー、ツィタデレ作戦で勝ってればこんな事にならなかった筈だ」
そんなことを愚痴るのは歩兵員『エルケンバルト』だ、
抱えているのは後に、
殆どのアサルトライフルの先祖とも言える『StG44』であり、
現在は弾倉交換の真っ最中である
「うっわ!未だあんなに居るのか!?」
潜望鏡のような形をした望遠鏡、
正確には拾った着弾観測機材を使い、
ソ連の爆撃で廃墟となった煉瓦の民家の窓枠から身を乗り出させずに確認する、
「ゲッ!!SU-76!!」
森の奥から出てきたのはソ連の代表的な自走砲、
その76.2mm口径の主砲が、
此方の民家を狙っていた
「引き上げろ引き上げろ!!」
その場に居た仲間の歩兵を引き連れて、
民家の入り口に颯爽と走っていく
『パウッ!』
と言う発射音とともに、
民家が大きな火の玉に包まれ、
2階が崩れ落ちてきた、
運良く逃れたエルケンバルトに、
またも災難が降りかかる、
「ドイツ兵ダ!」
「捕マエロ!」
「逃ゲルゾ!」
「逃ガサン!」
口々に言うソ連兵が小銃を乱射してきたのだ
「ヘタクソドモメ!」
そう言ってSU-76が発砲し、
その榴弾は見事、
エルケンバルトの走る路地の足元に命中し、
エルケンバルトの身体を引き裂いた、
(あぁ、死ぬって、こうなのか、ヒトラー総統、せめて私に戦車があれば、このベルリンを...)
思考はそこで、途絶えてしまった、
彼が息絶えたとともに、
路地の奥からIV号戦車J型シュルツェン装備車が姿を現した、
「オノレヨクモ仲間ヲ!!」
『パウッ』
発砲音とともにSU-76が大爆発、
ソ連の歩兵員も大慌てで鹵獲した『パンツァーファウスト』を構え、
めっためたに叩き込む、
しかし相手はシュルツェン装備で余り効いていない様子であり、
逆に砲塔の丸い穴が『ポン』と言う音とともに、
何かを吐き出す、
これは内装型の近接防御兵器で、『S-マイン』と言う跳躍榴散弾地雷を飛ばし、
周りの歩兵を殺傷する装置である、
※ちなみに、これは作者の無駄知識であり、本当にあるので調べて見てはどうでしょうか?
おっと、話がそれた、
IV号戦車もそのS-マインをポンポン飛ばすのでいくらソ連兵でも持ちこたえられなかったのだ、
IV号戦車の周りはいまや屍の山である、
『パウッ』
と言う音とともに、
IV号戦車の装甲が吹き飛んだ、
そして、T-34が森の中から我が物顔で現れる、
T-34の85mm砲はIV号戦車を一発で大破出来る威力を持つのだ、
ティーガー重戦車にも、ちっとばかし効く、
そんな攻防戦が、
今でもベルリン市内を砲撃音に染め上げていた
「うぅ、こ、ここは?」
「わしの書斎じゃ、」
重々しい高級感のある重厚感漂う木の机と、
同じく重々しい高級感のある重厚感漂う本棚がそこには有った、
「あ、あんたは誰だ?全く知らんのだが...」
「そりゃそうじゃろ、わしは神なんじゃからな」
そう言って、神は何かの書類にサインしていく
「ふむ、歩兵をやっていたのか?」
「はい、」
「エルカン...名前は?」
「エルケンバルトです、普段はエルと呼ばれています、」
「ほーん、で、榴弾で死んだと書いてあるが...?」
「いえ、多分そうです、」
「なるほどなるほど、III号戦車の戦車長と書いてあるが?」
「はい、クルスクで愛車を撃破されまして、今は歩兵です、」
ちょっとした拷問である、
その後も質問攻めに遭うエルであった、
「あの、今頃言うのも何なんですが、」
「なんじゃ?」
「...本当に神様ですか?」
「...知らんかったのか?」
「始めに言ったでしょう...全く知らんのだが、って...」
頭を抱えてイスに座り込むエルと、
驚きの顔をしている神、
気まずい雰囲気が部屋には漂う、
「分かった、わしが神と言う事を証明すればいいんだな?」
「うん、まぁ、そうですねぇ」
「じゃ、こうしよう、わしがお前を生き返らせる、これで良いな?」
「すいません、装備のほうも...」
「何が良いのかね(何としてもコイツにわしの力を...)」
「戦車を下さい、(これで百人力だ)」
お互いの内心がもれている、
...事を知っているのは読者だけだ
「分かった、今この瞬間に撃破された戦車...あ、丁度一両壊れたな、ここに転送しよう、」
「有難う御座います、(何の戦車だ?まさかIII号戦車か?I号II号戦車は勘弁だぞ、)」
「よっこらしょ!!!」
鬼の面相にでも成ったかとでも言うくらいに顔を真っ赤に染める神、
今はその集中力を研ぎ澄ましていた、
すると、
あっと言う間に部屋の真ん中に戦車が現れ、
エルが素っ頓狂な声を上げた
「どうじゃ?」
ぜいぜいと息を切らして神は聞く
「...え、」
「ん?」
「えぇーッ!!」
「ははは!驚いたじゃろ!」
「何でコイツが!!!」
「(ズコーッ)、な、何じゃ?」
「何で欠陥兵器が...」
『オマエ!!イマ欠陥兵器ト言ッタナ!!』
「げ、総統閣下...」
『お前ノ事ハ覚エトクゾ!許サンカラナ!』
「...あれ、声が聞こえるということは、死んだんですか?」
『ベルリンハモウ終ワリダ、アジアノ遊牧民メ(※ソ連)、劣等メ、蛮族メ!(PAN!)』
「...あの者、ここでも自殺したぞ...おい、」
「...総統らしいや。」
部屋の真ん中に倒れる血まみれのヒトラーをおいといて、
話を進める、
「で、欠陥兵器?とは、どういう事かね?」
「説明しますよ?」
と、ここで、
目の前に居る戦車の説明に入る、
世界でも稀なガソリン=エレクトリック駆動で、
50トン級の重戦車、
勝手に地面に埋まり、
エンジン出力不足で、
キャタピラも壊れやすい
※ちなみに、こう言う方式を取った戦車は他にも居り、機械発電駆動と言う方式で進むTOG 1重戦車とTOG 2重戦車があるが、どちらもイギリスで、作者が知っているのはこれ位でもある...
作者愛しの重戦車、『ポルシェティーガー』である、
「(かわいそうに)、どうやらこの戦車、弾薬を使い果たして爆破処分のところだったらしい、」
「らしい?」
「で、ソ連兵に鹵獲されて、」
「え、ソ連兵が居るって事ですか!?この中に!?」
「待て待て、人の話を聞け、それで、馬鹿なソ連兵どもは、間違えて爆破装置を動かしたらしい、で、」
「ここに居る、と、言う訳ですか、ソ連兵も居るんですか?」
「いや、居らん、なぜならくじ引きで決まったことだ」
「...くじ引き?」
「いやすまん、言葉のあやだ、忘れて結構、」
「くじなんですか?」
「おっと時間じゃ、いってらっしゃい!」
「ちょっと人の話を...
また、
意識が遠くに飛ばされた、
「おい、起きろ」
いや待てよ、
何でポルシェティーガーが実戦配備されているんだ!?
第653重駆逐戦車大隊に何両か居るとは聞いたが、
その内の1両なのか!?
「おい、何時まで寝てる?」
大体、
第653重駆逐戦車大隊はエレファント重駆逐戦車が大半の筈だぞ、
その指揮車なら分かるが、
実戦配備は、
何時改造したんだよ!?
「起きんかい!!(ピッシャーン!)」
「いでででで...」
漸く目が覚めたエルケンバルト、
華麗なビンタが彼の頬には叩き込まれていた
「いててて、...ここは?」
「ここは大八洲国の国境近郊の第九地区、で、あなたは誰?」
「俺は、エルケンバルト、お前、女か」
「そうよ、問題でも?」
「いえ、ありません、(男だったら殴り返してたぞ...)」
「あれは、貴方の戦車かしら?」
「...あぁ、そうだが?」
こうして、
エルケンバルトという無名歩兵員の奮戦は、
始まったのであった