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盲目の彼女





盲目の彼女








ねむれ


ねむれ


ほしがよぞらをつれてやってくる


だからぼうや

ぼうや

よいこね


ゆりかごにはいっておねむりなさい


ふかい

ふかい


ねむりのそこへ




歌が聞こえた。

昔よく聞いた子守唄だ。

その時はどうしてもその歌が怖くて、ずっとアイルを抱き締めていた。


今聞こえている歌はとても心地良い。

子供をあやして包み込むような――――


「イギル、起きてる?」


――歌声だったのになぁ。

「んー…」


「あー、起きてなかったな!ダメよぉ、ここの朝は早いのだから」

酷く穏和な声に眉根をよせる。




誰だ?








…………ああ、メリウスさんか。



覚醒しきっていない頭でそんなことを考えていると、穏和な声の持ち主、基メリウスさんが布団に近付いてきた音がした。


と思ったら布団を捲られていた。


「ほら、早く起きて。私が魔法のお稽古つけてあげるから」


魔法…………


「俺魔法使いじゃないし」

メリウスから布団をひったくって再び潜る。

しかしメリウスは有無を言わせずに布団を奪い返し、畳み始めた。


「さむい〜!!」


「ほら、早く食事をいただいていらっしゃい」


「食事?」


どこでその食事とやらをいただけば良いのか分からず聞き返す。


だが帰ってきたのは金属が地に当たる鈍い音とメリウスの驚愕の声だった。


「あーーーーー!!!」


鼓膜を揺るがす音に肩が跳ねる。

何事かと見やれば彼女の手には黒一色の剣が握られていた。


「もうっ、こんなところに大事な剣を置いて行くだなんて!…ちゃんと持っていて貰わないと…」


そう言う流れで剣を手に取り、かなりの至近距離に体を乗り出してきた。


「イギル!!」


「な…なに?」


「朝ごはん食べてからで良いわ、アイルにこれを届けてきて頂戴」


ずいっと黒い塊を押し付けられる。


「それってどこに行けば良いの?」


重い鉄を両手で持ち上げ、尋ねる。


「あ…そうね、じゃあ一緒に行きましょうか」


「良いの?」


「他の人には内緒よ?」


人差し指を唇に当てて笑う。

その姿を見て、脳裏に人影が過る。

しかしそれが誰なのか分からなかった。

ぼんやりと影が映るだけで、姿が見えないのだ。


でも、何だかとても懐かしいような……そんな気がした。



自分のテントからでて、他のテントを縫うようにして歩くと特別目につくテントを発見する。


通常のテントは中央に長い柱があり、それを取り囲むようにたっている数本の柱が、ドーム型の天井と壁を作りあげている生地を支えている。

そう言う構造だ。


しかし現在目の前にあるテントは、言うなれば屋根だ。


四方に並ぶように柱がたち、その上に雨避けが被さっている。その隣では火が煌々と燃え上がっていた。


恐らく屋根の下にある机で食事を摂る仕組みだろう。今も大きな皿を抱えている人がちらほら見受けられた。


俺はメリウスの後についてそこへ足を踏入れる。


「ヘレナ、今すぐ出せるものはあるかしら?」


辿り着くなり叫ぶメリウス。

得意の人見知りが発動して吐きそうだ。

メリウスの陰に身を潜めた。




鍋を抱えて現れたのは同じくらいの年頃の女の子だ。


茶色い髪を編んで右肩から下げている。

おどおどしているもののどこか暖かいイメージを感じた。

しかし彼女の瞳はどこか遠くを眺めているようで、何とも言えない違和感を覚えた。


「ぇっと…残り物で作った炒め物なら出せますけど…」


「じゃあこの子に出して貰っても良いかしら?」


その質問にヘレナはふんわりと表情を緩める。


「はい、今、出しますね」


それだけ答えて調理場であろう場所へと駆けていった。


ゆっくりと歩いて行く彼女を見送っていると隣から声が掛けられた。


「凄いでしょう、彼女」


「え?」


「目、見えてないのよ」


「はぁ!?」


思わず大きな声をあげてしまった。

目が見えないとは、文字通りの意味だろうか?

確かにそれならば先程感じた違和感の説明は出来るが…

だとしたら何故あんなにも確かな足取りで歩けているのか…


そう言えば前に本で読んだ覚えがある。

全く目の見えない子供が生まれることが稀にあるのだと。

世界的にも例を見ないその症状に犯されている人間がこんなにも近くにいるとは…


「あのこが皆のご飯を?」


「そうねぇ、暇な人が手伝うシステムではあるけど…基本的にヘレナが中心に回ってるわね」


まるで我が子を自慢するかのように説明する。


その姿に、彼女がどれだけヘレナを信頼しているのか伝わってくる。


その誉れを帯びた表情に視線を逸らせなかった。

どうしても、どこかで見たような気がしてくるのだ。

その時、誰かがこちらに掛けてくるのを視界に捉えた。

息を切らせながら走ってきた彼はメリウスの前で立ち止まり、叫んだ。


彼女は寂しそうな微笑を浮かべていた。



「リーダー!!いつもの時間にテントに居ないからびっくりしちまったじゃないですか!」


メリウスは決まり悪そうに苦笑し、後ろを振り返る。


「ニアタ、もうそんな時間だったかしら?」


「堪忍してください、あんたを探すのは俺達なんですから」


「ごめんなさい、すぐに戻るわ」


そう言う男の口調から感じられるのは苛立ちではなく純粋な心配だ。


でも…だからこそ、彼女の笑顔が曇ってしまっていた様にも思う。

メリウスはこちらを振り返ると頭を下げた。


「本当にごめんなさい」


大人が子供に頭を下げるという異常事態に困惑してしまう。

顔をあげるようにいうと、彼女は寂しそうな微笑を浮かべていた。

その視線が逸らされるのを見て同じ方向を窺う。


そこにはヘレナが何も言わずに立っていた。

目は見えていない筈なのに状況を理解しているように、無表情でこちらを向いている。

そんな彼女にメリウスは呼び掛け、言った。


「この子を泉に連れていって欲しいのよ」


「泉……カスティルさんのところ?」


「ええ、お願いね」


「分かりました」


そのやり取りをした後、ニアタと呼ばれた青年はメリウスを連れていってしまった。


後ろ姿を呆然と眺めていると背後から声がかかった。

「ご飯、出来ましたよ………こんなものしかお出しできなくて申し訳無いですけど」


とても言いづらそうに眉をハの字に歪める。

その姿に、なんだか無性にイライラしてしまったのは何故なのだろうか…?


「………ありがとう」


一応礼儀としてそれだけ言うと、彼女が置いてくれた皿の目の前に座る。

手を組んで俯かせた額につける。そっと目を閉じた。


「海の慈悲に感謝を、大地の恵みに祈りを、陽の光に愛情を捧げます……」


いつも通りの言葉を発してから食べ始める。

意味は………多分読んで字の如く。


しかしヘレナはそんな俺の事を珍しい物でも見るように眺めていた。

視線が向けられている事がどうしても気になって、

折角味わおうと思っていた食材を口の目前で止めてしまった。




大口を開けて上目遣い気味に固まっている状態の俺はさぞアホ面を見せていたことだろう。


「……何?」


声が不快を滲ませてしまったことは堪忍して欲しい。そんな不機嫌オーラ全開の言葉を受けてヘレナは肩を強張らせる。


如何にも恐怖心を抱いています、という様子だ。


「いえ…あのっ……色々と変わった人だな…………と思って……」


煮え切らない返答に更に苛立ちが高まる。


「変わってるって?」


「…ぁ……ここの人達は皆、ご飯の前に手を組んだりしないし…それに……」


ヘレナが視線を逸らす。

言い難いと言うより、本気で困っている。


「テレパシーが使えない人に初めてあったから…」


……………まぁ、それは困るよね。


抑、そんなものの存在自体俺は知らないもの。

何も答えないまま視線を手の中にあるフォークに移す。

先程口内に入れ損ねた物を今度こそ頬張った。



うまっっ!!




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