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きっかけを欲す





きっかけを欲す








海が赤く染まってくるのを視界の隅に捉える。


今なら3秒あれば眠れるのではないかと思うほどに眠い。

よく考えてみたら昨日から一睡もしていないのだから、朝方に限界を迎えるのは当たり前ではないか。

いつもなら9時に寝て6時に起きる健康優良児なのだ。



そんなことを考えながら走っていた。

目指しているのはメリウスのテント。


そんなに遠い距離では無いのだが…


私は先程から必死に走っていた。



現実には走っていると思っているのは自分だけで、私はその場に立ち尽くしているだけだったのだが。


厳密に言うとメリウスのテントへ向かおうと自分のテントを出たものの、あまりの眠気にその場で立ち尽くしたまま走る夢を見ている。

なんという都合の良い夢だろうか、ある意味では悪夢でしかないが……


「おうっ、お前大丈夫か?」


何者からかかけられた聞き慣れない言葉にやっと目を覚ます。


見れば同じくらいの歳の男の子が肩を揺すって顔を覗き込んできていた。


「だ…大丈夫だけど?」


あまりにも必死な顔に内心マジびびりしつつ答える。


「ホンマかぁ?何で朝方にこないなところに立っとるんよ」


「メリウスさんに会いに行こうかと…」

「何でこの直線距離で迷っとるん!?あと数歩やん!ある意味希少やで?」


呆れたように言う彼にぐうの音も出ない。


確かにずっと走っている割に目の前にあるはずのテントに辿り着けなかったのは不思議ではあった。


しかしそれ以上に気になることが1つ。


「こんな時間にここにいるあなたは誰?」


「唐突やな!そして今更やな!!」


困ったように叫ぶ彼にこちらが困ってしまう。

するとわざとらしく咳払いをしてからやっと質問に答えてくれた。


「俺はロナ!今朝の狩りに行くところなんよ」


「狩り?」


「おおっ、昨日の晩から罠を仕掛けとったからな」


「ああ、鳥」


「そないな顔せんといて!傷付くから!!」


どうやらそこまで凄い顔をしていたのだろう。

だって鳥を狩るだなんて難易度の低いこと言うから。


「鳥やって捕まえるん難しいんやで?あの硬い羽で凪ぎ払われでもしたら命にも関わるし」


それだけ言うとロナは誰かに呼ばれて森の方へと走り去ってしまった。


言い逃げされたと思うが言い返すのをぐっと堪え、メリウスのもとへと向かう。


あまりの眠気の為か、今まで感じていた焦燥感が無くなっている事には、気が付かなかった。



メリウスに呼び掛けながら中へ入る。


彼女は既に起きていたようで優しく微笑んで迎えてくれた。


「どうしたの?」


メリウスに問われて口をひらく。


彼女には不思議と安心感をもたらす雰囲気があった。

それが反乱軍の中でも皆に慕われる理由の1つなのだろうと思う。


「イギルが、お父さんとお母さんって誰のこと?って………」


その言葉を聞いてメリウスが顔をしかめる。


「忘れてしまったということ?」


私は首を振った。


「わかんない…でもなんとなくそんな気がして…」


「双子の妹が言うんだから間違い無さそうね」


そこまで第六感を信用されても…


そう言おうかと思ったが、確かにその言い分は納得出来ると思い至り口をつぐむ。


メリウスは私に向かってこんなことを話し出した。「彼の記憶のなかで、森の奥で暮らしていたのはあなたと彼の2人きりになっているようよ」


「…何それ……」


「こんな話を知っているかしら?精神的なショックを与えられ過ぎた人は精神が崩壊し、狂ってしまうという話よ」


開いた口が塞がらない。


そんなことを今話すのは、イギルがその状態に陥っていると言うようなものではないか。


メリウスは此方をチラ見してから続ける。


「精神的なショックを一部の専門家達はストレスと呼ぶわ」


その事実に唾を呑み込む。メリウスは小さく溜め息をついた。


「もしかしたら彼は、自分の精神を守るために、無意識に両親の存在ごと辛い記憶を揉み消す道を選んだのかも知れないわね」


「もう…思い出さないってこと?」


「分からないわ。何か、切っ掛けが必要なのかも」


切っ掛けと言われても思い付く節を持ち合わせてはいない。


「私はどうすれば……」


不安をそのまま口にした。

するとメリウスは私を元気付けるように、ぎゅっと引き締めていた頬を緩めた。


「笑ってあげて。今のイギルにとって、肉親はあなただけなのだから」


メリウスを見上げる。


するとタイミングを見計らったようにテントの入り口が開いた。


「リーダー!今日の獲物は大量やで、見てみぃな!!」

入るなりかなり空気を読めていない発言をしてきたのは先程の少年、ロナだ。


彼のテンションに便乗するようにメリウスが元気な声をあげる。


「本当ね、大きな鳥がこんなに沢山!」


ロナはメリウスの後ろに人影を発見して視線を移す。

パッチリと目が合うと彼は年相応の笑顔を浮かべた。


「お!お前さっきの…」


「!!!?」


突然叫ぶロナにかなりビビる。

顔に何か着いているのかと心配になったが彼は全く別の事を言い出した。


「そう言やぁ名前聞いてへんかったな〜って思っとったんよ、教えて」


「あ…いる……」


「え?何か居るん?鳥ちゃうくって?」


「え、ちゃぅ…違う」



とんだ勘違いに訂正を入れようと口を挟む。

しかしロナの癖の強い喋り口調が移ってしまった。


恥ずかしい。

顔が熱い。


1人恥ずかしさに悶えていたのだが、ロナは気にすること無く…と言うか気付いてすらいなかったのだが…。


「え、ちゃうん?もしや人ならざるモノ的なあれか!?あれなんか!!?」


「え、お化け!?やだやだやだやだやめよーよ怖いよ!!……ってそうじゃなくて」


「なんなんよ早よ言えや、怖い」


「逆ギレ!?まさかの逆ギレ!!!?」


最早ここまでくると叫んでいるだけである。

それを見かねたメリウスがやっとのことで口を開いた。


「2人ともちょっちょ…」

かんだ…


「リーダー…そこでかんだらアカンって」


「ちょっと、そういうこといわないでよぅ!」


涙目で語る彼女と呆れたように笑う彼に向けて叫びたい。


「自己紹介をさせてください!!」


あ…叫んでた……


でもやっと話を聞く体勢をとってくれたようだ。


ホッと溜め息を吐いて自己紹介を始めた。


「アイルです、イギルの双子の妹です。宜しくお願いします」



以上、終了。

自己紹介をさせてほしいと叫ぶまでもない内容量だったようだ。


それを聞いてメリウスがポンと手を合わせた。


「そうそう、ロナにこの子をカスティルの所へ連れていって貰いたいのよ」


「師匠んトコに?」


「ええ、カスティルにもそろそろ二番弟子を持って貰おうかと思ってね」


訳が分からず首を捻る。

そんな私を見てメリウスが微かに笑った。



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