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森を抜けた所





森を抜けた所









北へ向かって森を抜ける。

先程からずっと走り続けている足が痛い。

酸素を求めて息が上がり、視界から光が無くなってきた。



すると目の前に開けた場所が現れた。

森を抜けたのだ。


「おい、誰かいるぞ」


少し離れたところに誰かの声が聞こえた。

そこで緊張の糸が切れたのか、私は意識を手放した。




ふわふわとする頭の中でふわふわとした感触がある。

お布団ふかふか〜ずっとこうしていたい。

等と考えているとどこからかイギルの声が聞こえてきた。


「……ィル…アイル……………アイル!!」


私の名を呼び続けるイギルを薄目を開けて見る。


彼は泣きそうな顔で手を握っていた。


「どうしたの?」


そう尋ねると泣きそうな顔がみるみるホッとした顔に変わる。


イギルがこんなに表情を面に出すだなんて珍しいと思ったが、よく考えてみると森を抜けてからの記憶がない。

恐らく気を失っていたのだろう。


「アイルまでいなくなっちゃうかと思った…」


大きく息を吐き出しながらイギルが言う。

握られた手を握り返しながら素直に謝罪した。


「何があったのか教えてくれる?」


「うん」


布団から起き上がってスペースを開けるとイギルが隣に入ってきた。


「森を抜けたところで会ったのは反乱軍の基地の見張り番だったんだ」

抑揚の無い声で言うイギルに相槌をうつ。


「で、アイルが倒れちゃったからここまで連れてきて貰って、そのまま軽く事情を説明したんだ」


「事情を?」


「そう。ここのリーダーがね、魔女だったんだ。だから俺の髪を見たら直ぐに話を聞いてくれたよ」


「そう…お母さんの事は話した?」



そう聞いたが答えを聞く前に誰かが2人のいるテントに入ってきてしまった。


「具合はどうかしら、妹さん起きた?………あら?」


部屋の中を見回しながら聞いてきたと思うと、2人のところで視線がピタリと止まった。


不思議そうに首を傾げる姿に状況を理解したイギルが口を開く。


「髪が黒い方がイギルだけど?」

「ああ、そうそう。本当にそっくりね、一卵性双生児だっけ?もっと分かりやすくしてよ」


「無理じゃね?遺伝子なんかまるっきり一緒だぜ?」


「マジかよぉ、勘弁して」


「いや、こっちの台詞じゃね?」


「あのー…」


いつまでも続きそうな言い争いに横槍をいれる。


「どなた?」


すると彼女が慌てたように答えた。


「ああ、ごめんなさいね。私はメリウス、この反乱軍のリーダーよ」


「あっ!あなたがそうでしたか」


朗らかな笑顔を浮かべるメリウスに笑顔で答える。


「お母さんからよく話を伺っていました。困ったことがあるときにはあなたが助けてくれるからって」


「お母様?」


「………エリミナです。イギルが話しませんでしたか?」


「伺っていないわ。そう、エリミナの…彼女元気?」


彼女の言葉の節々に言い様の無い違和感を感じる。何故状況を何も理解していないのだろうか。


「あの、私たち奴隷狩りに遭ったんです」


「ええ、大変だったわね。でももう大丈夫よ、私が責任を持って家まで返してあげる」


「お母さん達は連れていかれたんですよ?」


その瞬間彼女の動きが静止した。

見開いた目でこちらを見ている。


すると突如として動き出した。

すごい早さで布団へとよってくる。

そのままの勢いで2人の布団を捲った。


メリウスの目に写ったのは父から預かった剣だ。


それを見ると同時に落胆したようにため息を吐き出し膝を折る。


「そう…彼等が……」


力なく呟くメリウスに何と声をかければ良いのか分からないでいると、彼女の方から声をかけてきた。


「イギル、少しアイルを借りても良いかしら?」


それから今度は私の方を真っ直ぐに見詰めて言う。


「女同士、2人きりでお茶しましょう」


私は何も言わずに頷いた。



「で?何があったのか説明してくれる?」


「はい」


リーダーのテントに入り、ここに来るまでの出来事を事細かに話して聞かせる。

話をする間、メリウスは横槍をいれる事なく相槌をうちながら聞いていた。


「そう…大変だったわね。

安心して、あなた達の事はうちで責任もって育てるから」


「ありがとうございます。……ところで、あの…私からもいくつか質問をしても宜しいですか?」


色々と聞き込むチャンスだと思いそんな事を言ってみた。

メリウスは快く許可してくれる。


「えっと…盗賊達がイギルの黒髪に反応していました。何かあるんですか?」


「黒は魔力の色なの。だから魔法使いは皆真っ黒い髪をしているわ」


「魔法使い以外に黒髪の人間はいないんですか?」


「そうね…染めたりする人はいるけど真っ黒にはならないから」


成る程。それで盗賊達の目の色が突然変わったわけだ。


「では次です。あなたと両親の関係はなに?」


2人の間に一瞬だけ沈黙が立ち込める。

それからメリウスがぽつりぽつりと話し始めた。


「あなた達の両親は昔領主をやっていたの。とても優秀な民族だと言われていたわ…でもそのせいで、国の迫害に遭うようになってしまったの」



生唾を飲み込む。

まさかこんなところで両親の秘密を知ることになるとは思っていなかった。


「奴隷狩りの被害も深刻化してきて、私達はバラバラに土地を離れたのよ。

その中で国に反抗しようとしているのが私達ってところかしら」


「じゃあお父さん達は何で森の奥なんかに…」


「領主が国に反抗したら反乱軍じゃない領民達まで危険に晒すことになるでしょう?

それに、あんた達双子を守らなくちゃいけなかったしね」


メリウスは気づかないうちに低くなってしまっていた声を明るいトーンに戻して手を叩いた。


「さて、ここにいるからには強くなって貰わなければね。いつ戦うことになるかわからないのだから」


「はい!」


私はメリウスの言葉に大きく頷いた。


話が終わると直ぐにイギルのいるテントに戻る。


「イギル?」


呼び掛けるが返事がない。ただの屍のようだ。


布団に近付いてもう一度名前を呼ぶと寝惚けながらも反応を返してきた。

屍ではなかったらしい。


「イギル、何でメリウスさんにお父さんとお母さんの事を話さなかったの?」


ずっと気になっていた質問を投げるとイギルは顔をしかめて返してきた。




「………え?」


帰ってきた返答を聞いて愕然としてしまった。

もう一度聞き返そうとするが既に寝に入っているらしく何の反応も帰ってこない。


「ああ…嘘でしょう……」

両手で顔を覆って座り込んでしまう。


「お父さんとお母さんって、誰の事?」


イギルがそんな事を聞いてきたから。



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