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ありあけ幻奇譚  作者: 浜月まお
第十一幕 太陽の希望
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「なんだか笑顔がひきつってるようだけど?」


「そうと決まれば荷造りね。旅装束もあたしに相応しいものを揃えるわよ。こんな煤けたナリの連中と一緒に行くならなおのこと、あたしの華やかさで少しでも泥臭さを緩和してあげないと。

 葛葉、あとであんたの着物も見立ててあげる。髪の色に合う染めの、動きやすいやつをね。まったく、いくら旅の最中って言ったって、もうちょっと身なりに気を配りなさいよ」


 よく喋りよく笑いよく毒を吐く。「瑞宝を託すに足るかどうか試す」などと言って戦いをふっかけてきたのはつい先刻のことなのに、今度は旅について行く気満々になっている。なかなか忙しいことだ。


「ああ、でもその指飾りはいいわね。瞳の色と調和してるし、作りも上品だし。それに穢れ避けの術が仕込んであるでしょ」


 驚いた三人の視線がリッカに集中する。

 刑部姫が持たせてくれた財宝の中にあった指飾り。うっとりするような深い色合いの琥珀には、毒気を吸収して持ち主の周りを清めるための術がかけられている。葛葉たちは実際に試してみるまで分からなかったというのに。


「なぜ、それを」


「見れば分かるわよ。たしかに上手いこと覆い隠してあるけどね。こういう、人が隠そうとしてるものを見つけるのって、あたし得意なのよねえ」


 リッカは無造作に言った。「どうせなら揃いの耳飾りもあればいいのに」という感想は、椀から立ちのぼる湯気と共に三人の間を素通りしていく。


「ともかく、このリッカ様が同行するからにはとっとと怨霊を封印するわよ。美しくね!」


 無下にはできない申し出である。怨霊は無数の命を喰らって徐々に強大になっていくが、リッカのような卓越した術の使い手がいれば対抗できる可能性は大きくなる。

 ならば助力を請うのが当然だろう。たとえそれが、どれほど奇抜な変わり者であったとしても。


「……風変わりといえば、あの押しかけ鴉天狗も、慣れればどうということもなくなったしのう」


 木霊たちの里にいた時とは打って変わって大人しくしている雲取を一瞥し、葛葉は口の中で呟く。

 山中で雲取の初襲撃を受けてから早三日。忌々しいことに、もう半ば旅の道連れとして受け入れてしまっている自分がいた。

 面妖なほど美しいこの鵺にも、顔をつき合わせていればそのうち慣れるのだろうか。若干の不安と共に見つめる葛葉に、リッカは機嫌よく笑いかける。


「そうだ、旅をしながら術の稽古をつけてあげるわ。あんた構成の組み方が大雑把なのよ。力押しばっかりでどうするの」


「うっ」


「せっかく妖力があり余ってるんだから、それを活かせるようにもっと構成の練度を上げなくちゃ。立ち回りとの併せ方もまだまだ工夫できそうだし」


「これリッカ、あまり無茶をしてはならんぞ。おまえの教え方は過激なのだから」


 微妙に怖い里長の発言は聞かなかったことにして、葛葉は隣に端座する清白を見上げ、視線で問いかけた。

 性別の件を抜きにしてもリッカの個性は強烈である。当然ながら清白も戸惑いを隠せない様子で、だが結局は頷いた。


 解き放たれた怨霊は世界を揺るがす災厄そのもの。戦える者がなりふりかまわず全力で立ち向かわねば、この世は根こそぎ踏み荒らされてしまう。躊躇っている場合ではないのだ。

 頭では分かっていてもこみ上げてくる不安を無理に飲み込んで、葛葉はリッカと里長に頭を下げた。改めて感謝を述べ、丁重に助力を請う。


「……ねえ葛葉。なんだか笑顔がひきつってるようだけど?」


 リッカの指摘も、この際聞こえなかったことにしておいた。




続く



葛葉たじたじ、清白空気、雲取呆然。

このままだと奇人変人に引きずられてお話がずるずる進みそうで怖いです(笑)

細かなプロットもなく、お題から閃くままにフリーハンドで書いている感じのこのシリーズ。

いろんな意味で先行きが心配です。


さて、これにてストックが切れたので更新はしばしお休みとなります。

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