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われら肉球防衛隊!  作者: 沙φ亜竜
第2章 今日も肉球はぷにぷにです!
9/30

-3-

 さっきの黒猫は、いったいなんだったのだろう?

 疑問に思いながらも、ぼくたちには授業があるため、ミューちゃんをその場に残して去るしかなかった。


 タイミング悪く移動教室の授業が続き、結局昼休みになるまで、ぼくたちはミューちゃんのもとへ向かうことができなかった。

 移動教室の授業じゃなかった、別のクラスのいちごや南ちゃん、希望くんに行ってもらうように話はつけてあったけど、ぼくたちと会う時間はないから状況も聞けない。


 ミューちゃんは、大丈夫だろうか?

 またあの黒猫が来て、ひどいことになっていたりはしないだろうか?

 ぼくはなんだか悪い予感がして、心配で心配でたまらなかった。


「ま、きっと大丈夫だ。いちごが様子を見に行ってくれてるんだから。な?」


 そう言って、拳志郎はぼくを落ち着かせようとしてくれたけど。

 実際、心配したって今のぼくにはどうしようもない。それは自分でもよくわかっている。

 だけど、それでもどういうわけか、嫌な予感は膨れ上がるばかり。


 昼休みになっても、給食を食べ終わるまでは教室を出てはいけないことになっている。

 だからぼくは大急ぎで給食をたいらげ、というよりも、ミューちゃんにあげる分をいつもより多めに隠し持って、勢いよく教室を飛び出した。


「あら、猫宮くん、もう食べ終わったの?」


 雪菜先生が驚きの声を上げているのは聞こえてきたけど、ぼくは止まることなく廊下を走る。


「こら、廊下は走っちゃダメよ~……」


 と叫んでいる先生の声は、すぐに聞こえなくなった。ぼくはすでに曲がり角を曲がり、下駄箱に到達していたからだ。

 素早く靴に履き替え、そのまま中庭を通ってウサギ小屋の横へと向かう。


 そこにはまだ、ぼく以外の人は誰も来ていなかった。

 ただ、別の招かれざる客が、ミューちゃんを取り囲んでいた。


「ミュー……」


 困ったように弱々しく鳴くミューちゃんと、その周りを取り囲む、たくさんのウサギたち。

 そう、それはウサギ小屋の中で飼われているはずのウサギたちだった。


 何種類かのウサギがいるらしく、灰色だったり、白かったり、黒と白のまだら模様だったり。

 様々なウサギたちが今、ミューちゃんを取り囲んでいる。

 そしてそのウサギたちは、徐々にミューちゃんへとにじり寄っていく。

 そんな緊迫した場面で、ぼくは到着したのだ。


「わっ!? なんでウサギが? って、そんなことを考えてる場合じゃない!」


 ぼくは大きく足音を響かせながら、ミューちゃんのそばに駆け寄る。


「こら~、ミューちゃんから離れろ~!」


 ぼくの大声と足音に気づいたからだろう、一斉にウサギたちがこちらに目を向け、逃げるようにミューちゃんのそばから散っていった。


「ミュー!」


 ミューちゃんがあたかも、助かりました、とでも言うように鳴き声を上げながら、ぼくにすり寄ってくる。


「大丈夫だった?」

「ミュー、ミュー!」


 ぼくの問いかけに、ミューちゃんは返事をしてくれているかのように、ミューミューと鳴き続けていた。


「ちょっと、降人くん、どうしたの!? って、なによこれ!? ウサギが……!」


 そんなぼくとミューちゃんのもとへ、いちごが駆けつける。


「降人、大丈夫か?」

「ふっ、なんだか、大変なことになってるみたいだねぇ~」(ふぁさっ)

「うわわわっ! ウサちゃんたちが、大変っぽいかもっ!? これは由々しき事態だよっ!」


 さらに同じクラスの三人も、続々と向かってきた。


 その中にみるくちゃんの姿はない。ちょっとトロいみるくちゃんは、給食を食べ終えるのにも時間がかかるからだ。

 ぼくが急いで教室を出たことを知って、他のみんなと同様、すぐに追いかけたいとは思ったに違いない。

 でも、一部をこっそりとビニール袋とかに入れてごまかすとか、そんな裏技的なことを、みるくちゃんが実行に移せるわけはないのだ。

 というか、そもそもそんなこと、思いつきもしないのだろう。

 昼休みが終わるくらいに現れて、「ごめんねぇ~、あたち、トロくてぇ~」と涙目になりながら謝ってくる姿が目に浮かぶ。


 と、今はそれよりも、目の前の状況をどうにかしないと。


 確かにミューちゃんの危機は去ったと言える。

 でも、逃げ出したウサギたちを捕獲しないと、状況的に考えて、ぼくたちが悪者にされてしまう事態は避けられない。


 ウサギ小屋を見てみると、カギをかけて閉められているはずのドアが開け放たれていた。

 周囲にはぼくたち以外に誰もいない。ということは、ぼくたちが犯人だと疑われてしまう可能性が高い。

 もちろんぼくたちは犯人じゃないけど、そんな言い訳が通じるわけもないだろう。


「ミュー……」


 ごめんなさいね……。

 弱々しく鳴くミューちゃんは、そう謝罪しているように見えた。


「あ……、服になにかが……」


 よく見ると、ミューちゃんに着せてある服の中に、野菜や牧草の切れ端なんかが引っかかっていた。

 いや、引っかかっていたというよりも、故意に入れられたとしか思えないような感じだ。


 ふとウサギ小屋に目を向ける。

 小屋の中でいつもエサが置かれている場所を見てみると、そこにはなにも置かれてはいなかった。

 給食の時間より前にウサギのエサを用意しておくことになってるはずだから、おそらく三時間目の休み時間にはウサギ当番の人がエサを置いていたはずだ。


 犯人はどうやってかカギを手に入れてドアを開け、小屋の中からウサギのエサを持ち出してミューちゃんの服の中に入れた。

 きっとミューちゃんは、植え込みと壁のあいだに敷いてあるタオルの上で眠っていたのだろう。猫は一日の三分の二くらいは寝ているというし。


 そのうちに、ドアが開け放たれたままだったせいで、おなかをすかせたウサギたちが小屋から出てきしまい、エサの匂いを嗅ぎつけ、ミューちゃんを取り囲むに至った。

 そういうことだったのだろう。


「これは、誰かがミューちゃんをいじめてるってこと……?」


 ぼくは思考を巡らせ、小さくつぶやく。

 と、そんなぼくを現実に引き戻す声が響いた。


「降人くんっ! それより、こっちを手伝ってほしいんだけどっ! ウサちゃんたち、捕まえて小屋に戻さないとっ!」


 夢ちゃんが悲痛な叫び声を上げる。

 夢ちゃんだけではなく、拳志郎も将流もいちごも、あとから来ていたらしい南ちゃんや希望くんも、逃げたウサギを捕まえるために走り回っていた。

 どうやらみるくちゃんだけは、まだ来ていないみたいだったけど。


「あっ、そうだね、ごめん!」


 ぼくは急いでミューちゃんをタオルの上に戻し、逃げ惑うウサギたちの捕獲部隊に加わった。


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