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われら肉球防衛隊!  作者: 沙φ亜竜
第2章 今日も肉球はぷにぷにです!
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-2-

「キシャーーーーーーーッ!!」


 休み時間になり、ぼくたちがいつものようにミューちゃんを隠しているウサギ小屋の横まで来ると、なにやら尋常ではない威嚇の鳴き声が聞こえてきた。

 その鳴き声は、明らかにミューちゃんが発したものだ。


「なんだ!?」


 ぼくたちは顔を見合わせ、ミューちゃんのもとへと急ぐ。

 クラスの違ういちごや、学年も違う南ちゃんや希望くんはまだ来ていなかった。

 つまり、ぼくたち同じクラスの五人が、こうして真っ先にミューちゃんのもとへ駆けつけたことになる。


 その場にいたのは、ぼくたちの他には、ミューちゃんと、そしてもう一匹。

 みるくちゃんが用意したフリフリのピンクの衣装を着たままだから、毛を逆立てているかはよくわからなかったけど、ミューちゃんは完全に威嚇のポーズ。

 そのミューちゃんと対峙しているのは、一匹の黒い猫だった。


「わっ! 黒猫なんて、不吉だよっ! 幸せのお祈りしないとっ!」


 相変わらず夢ちゃんの食いつき方は、ちょっとずれている。

 幸せのお祈りって、なにさ?


「なんなんだ、この猫は!?」

「ミューちゃんのお友達かなぁ~?」


 拳志郎の叫び声のごとき言葉に、みるくちゃんがいつもののんびりとした声を添える。

 う~ん、みるくちゃんも、夢ちゃんに負けず劣らず、ずれてるなぁ……。

 ぼくの周りって、なんだかみんな、ちょっと変わってる人ばっかりなんだよね。

 ……もちろんぼくは普通だけど。


「バカね! こんなに威嚇し合ってて、友達なわけないでしょ!」


 とそこへ、いちごが遅れて駆け寄ってきた。

 遅れてきたとはいっても、状況を見ておおよその会話内容は察しているのだろう。


「ええ~? でも、ケンカするほど仲がいいって言うよぉ~?」


 いちごの正常なツッコミにも、そんな受け答えを返すみるくちゃん。やっぱり、ずれている。

 一方のいちごは一見普通っぽく見えるけど、なにせいちごなのだ。

 拳志郎を打ちのめしたほどだし、女格闘家とか姐御とかってイメージがあるのだから、どう考えても普通とは言えないだろう。


「ちょっと降人くん! あんた、なにか失礼なことを考えてるような顔してるわよ!?」

「な……ちょ、え!? いや、べつに、ぼくは、なにも……!」


 突然いちごから鋭い目つきで睨まれたぼくは、思わずどもってしまう。

 というか、羽浮姉ちゃんに続いて、いちごもエスパー!?

 ぼくの周りって、どうしてこうも変な人ばっかりなんだろうか。


「はっはっは、降人は思ったことがすぐ顔に出て、とてつもなくわかりやすいからなぁ!」


 焦りまくっているぼくを尻目に、拳志郎はそう言って笑っていた。

 そ……そうか、ぼく自身がわかりやすいだけなのか……。


 謎は解けたけど、納得のいかないところではある。

 とりあえず、気をつけるしかないか……。


 と、今はそんなことを考えてる場合じゃないや。


「キシャーーーーーーーッ!!」

「シャーーーーーーーーッ!!」


 目の前ではいまだに、ミューちゃんと黒猫が威嚇の声をぶつけ合っていた。


「……うわ……、大丈夫かな……?」

「ミューちゃん、すごい声を出してますよね……」


 そのあいだに、希望くんと南ちゃんもやってきたけど、ぼくたちのそばに着くなり思わずそんなつぶやきを漏らしていた。


「とりあえずミューちゃんにとって、あの黒猫が威嚇すべき相手ってことだけは、間違いなさそうだねぇ~」(ふぁさっ)

「うん、そうだね。でも、だからといって、ぼくたちが手を出してもいいものなのかな?」

「う~ん……。猫には猫の世界のおきてとか、あるかもしれないわよね……」


 将流の言うことはもっともだったけど、ぼくもいちごも、どうしたらいいか判断しかねていた。

 と、そんな中。

 素早く反射的に行動を開始していた人が、ひとりだけいた。


「こら、ダメでしょっ! 同じニャンコ同士、仲よくしなくちゃっ!」


 そうたしなめながら、夢ちゃんが黒猫を背後から抱きかかえる。

 猫ってかなり、敏感な動物だと思うのだけど。

 夢ちゃんはそんな黒猫の背後に気づかれないうちに回り込んで、さらには抱きかかえるという荒業を、いとも簡単にやってのけたのだ。


「ミギャッ……!?」


 いきなり抱きかかえられた黒猫が、驚いたような鳴き声を上げる。

 ジタバタともがき暴れる黒猫だったけど、夢ちゃんの束縛から逃れることはできなかった。


 う~ん、さすが夢ちゃんだ。

 夢ちゃんって、可愛い動物とかが関わると、とんでもない力を発揮するんだよね。

 ……ま、ぼくも人のことは言えないか。


「あっ、このニャンコ、オスだよっ!」


 不意に夢ちゃんはそう言うと、抱きかかえた黒猫の両足を持ち上げて、股をおっぴろげさせた。


「ミギャウッ!?」


 さっきまでにも増して、ジタバタともがく黒猫だったけど、当然ながら夢ちゃんの腕から抜け出せるわけもなく。


「あっ、ほんとね」

「わぁ~、可愛いねぇ~!」

「ほんとだ。小っちゃくて可愛いですね。……あっ、べつに、他意はないですよ?」

「にゃはははっ! 他意ってなによ~っ?」


 なんというか、主に女子たちがとってもハイテンションではしゃぎ始めたような気がする。


「はっはっは! まだまだ発展途上って感じだな! おれのなんて……」

「は~い、下ネタ禁止! 猫ちゃんだったら可愛いけど、あんたたちの話なんて、可愛げがないんだから!」


 拳志郎もその輪に加わろうとしたのか、なにやらおかしな方向に突き進もうとしたところを、絶妙なタイミングでいちごが止める。

 このふたり、やっぱり息ピッタリだなぁ。


「むっ。そういうことは、実際に見てから……」

「ぎゃ~~~っ! このバカ、なにしてるのよ!」


 ごそごそと腰のベルトに手をかけ始めた拳志郎の顔面を、いちごは思いっきりグーで殴る。

 その様子を見て、拳志郎の妹である南ちゃんは思わず頭を抱えているようだった。

 おバカなお兄ちゃんを持ってしまって、頭が痛いです。とでも考えているのだろう。


「はっはっは、いいパンチだったぜ!」

「アホか! ってか寄るな触るな近づくな! 半径三メートル以内に入るんじゃない! このお下劣野郎!」

「にゃははははっ! 拳志郎くんといちご、楽しい~っ! ……あっ!」

「ミギャッ!」


 拳志郎といちごの夫婦漫才(とか言ったら殴られそうだけど)を見て大笑いし始めた夢ちゃんは、つい黒猫を抱きかかえていた腕の力を緩めてしまったのだろう。

 ここぞとばかりに気合いの鳴き声を上げた黒猫は、するりと夢ちゃんの腕をすり抜け、そのまま裏門のほうへと一目散に逃げていってしまった。


「ああ~~~っ、わたしの黒ニャンコちゃんがっ!」

「あんたのじゃないでしょ!」


 残念そうに叫ぶ夢ちゃんに、いちごがツッコミを入れる。


「ミュー……」


 弱々しく鳴いたミューちゃんの声は、ぼくにはなんとなく、ため息のように聞こえた。


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