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われら肉球防衛隊!  作者: 沙φ亜竜
第1章 肉球の平和は、ぼくたちが守る!
6/30

-6-

 ガサゴソ。

 ぼくは今、自分の家の冷蔵庫をあさっていた。

 あっ、お刺身が買ってある。……よし、赤味をひと切れ、持っていこう。


 あのあと、ぼくたちは話し合った。

 みんなで給食を少しずつ残して食べさせるだけじゃ、ミューちゃんのエサとしては足りないだろう。

 それじゃあ、どうしようか?

 いろいろと考えた末、放課後と朝にも、家からなにか持ってくることになったのだ。


 食べ物類を家から毎日持ってくると、親に見つかって問題になるかもしれない。

 だから、順番を決めて交代で持ってくることに決めていた。

 提案したぼくから順に、という話になったため、放課後になって一旦家に帰ったぼくは、こうして冷蔵庫を物色しているのだった。


 と突然、その背後に人影が忍び寄る。


「降人、なにやってるのさ?」

「うわあっ!?」


 あまりに大げさな声を上げて振り返ったものだから、声をかけた本人のほうも目を丸くして驚いていた。


「ね……姉ちゃんか、びっくりした……」


 そう、それはぼくの姉ちゃん、猫宮羽浮(ねこみやはーぷ)だった。

 羽浮姉ちゃんは、ふたつ年上の中学二年生。

 いつも明るく元気なところは、なんとなく夢ちゃんと似ていなくもない。


 ただ、これも夢ちゃんみたいと言えなくもないけど、微妙にずれている感じだから、姉としての威厳はないと言っていいだろう。

 さらにはなんというか、色気もまったくないというか、胸なんてペッタンコで……。

 お父さんに似たのか、ぼくよりも背は高いのだけど、女性らしさは皆無なのだ。

 もっとも、お母さんに似てしまって背の低いぼくも、あまり男らしい感じとは言えないわけだけど。


 ともあれ、姉ちゃんがモデルさんみたいに女性らしい雰囲気だったとしても、弟から見たらべつになんとも思わないのが普通かもしれない。

 とすると、ぼくは色気のない姉ちゃんだと思っているけど、他の男性から見たら、すごく魅力的ってこともあるのかも……。


 ……う~ん……。いや、それは絶対にありえないな……。

 ぼくはそう結論づける。


「びっくりしたのはこっちのほうだってのさ! まったくもう~! ……ていうか、あんた今、失礼なことを考えてなかった?」

「え? べ……べつになにも考えてないってば!」


 姉ちゃん、あなたはエスパーですか?


「ま、それはいいわ。それで? いったい、なにしてんのさ?」

「いや、その、べ、べつに、なんでもないよ!」


 思いっきり焦りまくりながらも、ぼくはどうにかごまかそうと必死になる。

 いくら姉としての威厳はないと言いきっていても、二歳年上の姉ちゃんには敵わないことも多い。もしバレてしまったら、やっぱり問題になるだろう。


「ふ~ん……?」


 姉ちゃんは、あからさまに怪しいものを見るような視線を向けてきた。

 冷や汗がたらりと背中を伝って流れ落ちる。

 見つめ合ったまま、時計の音だけが響いていた。

 沈黙に耐えきれなくなったぼくは、


「あっ、それじゃぼく、急いでるから!」


 と言い残し、逃げるように姉ちゃんの前から走り去っていた。



 ☆☆☆☆☆



 急いで羽浮姉ちゃんの前から走り去ったけど、ぼくはしっかり、赤味ひと切れをゲットしていた。

 手でつかんでいたから、ちょっと生温かくなっちゃってるかもしれないけど……。

 とにかく、それを持ってみんなが待つ学校へと向かう。


「遅いぞ、降人!」

「ごめんごめん! 姉ちゃんに見つかりそうになって……。結局これしか、持ってこれなかったよ」

「わっ、お刺身だよっ! 豪華だねっ!」

「いやいや、たくさん入っていくら、とかで売ってるやつだから、豪華ってわけじゃ……」

「でも、ひと切れだけ? さすがに足りなくない?」

「う……、そう言われると、返す言葉がないけど……」

「いいから~。早くミューちゃんにあげようよぉ~」

「ふっ、そうだねぇ~。ミューちゃんの可愛い食事姿を拝見したいよねぇ~」(ふぁさっ)

「文句言って悪かったわ。ともかく降人くん、早くそれ、ミューちゃんにあげちゃって」

「うん。ほらミューちゃん、お食べ!」

「ミュー!」(がじがじがじ)

「うわぁ~、かっわい~! はにゃ~んってなっちゃう~!」

「食べてる食べてるっ! ああ~、ヨダレが出ちゃうわっ!」

「夢、あんたってどうしてそう……。ほら、ハンカチ」

「うにゅっ。いちご、ありがとうっ! ぱくっ!」

「うわっ! ハンカチを食べるんじゃない! 口の周りを拭けってことよ! ああ、もう、べちゃべちゃ!」

「へ~、猫じゃん! やっぱりね。あんた、隠れてこんなことしてたんだ」

「うん、そう、猫……って、え!?」


 突然加わったひとりの声に、ぼくは驚いて振り返った。


「やほ~、久しぶり~! みんな今日も仲よく集まってるのね~!」

「あ~、降人くんのお姉さんだぁ~!」


 みるくちゃんが、いつもどおりの間延びした声を上げる。

 そう、ぼくたち六人の背後で前屈みになってのぞき込んでいたのは、楽しそうに笑顔を浮かべた羽浮姉ちゃんだった。


「わわっ! わたしたちの秘密基地に侵入者だよっ! これは由々しき事態だよっ!」

「むっ、夢ちゃん、侵入者呼ばわりはひどいな~! なにを隠そう、わたしはあなたたちの味方なのさ。ほら!」


 夢ちゃんの言葉に、姉ちゃんは右手に持ったビニール袋を掲げる。

 そこには、何切れかのお刺身が入っていた。



 ☆☆☆☆☆



「降人が赤味をひと切れ持って、慌てて学校に向かったみたいだったからね。ま、だいたい予想はついたから、お刺身をもう少し持って、追いかけてきたってわけさ」

「羽浮さん、わざわざすみません」

「いえいえ、いいのよ~。相変わらずいちごちゃんは、礼儀正しいわね~」

「猫かぶってるだけだろ」

「なんですってぇ~!?」

「相変わらずみんな、仲よしみたいね~! 安心したわ!」


 姉ちゃんにバレてしまったぼくたちは、観念して今までのいきさつを全部話した。


「なるほどね。わかったわ、わたしも協力する! 協力者は多いほうがいいでしょ?」


 なんだか姉ちゃんはノリ気だった。


「あっ、それならおれも、(みなみ)にミューちゃんを見せてやりたいな」

「おおっ、だったらわたしも、希望(のぞむ)に見せたいよっ!」

「いいじゃんいいじゃん、みんなで協力しちゃおう~!」


 どういうわけだか、いつの間にか姉ちゃんが場を仕切って、拳志郎と夢ちゃんの言葉を受け入れていた。

 ちなみに南ちゃんっていうのは拳志郎の妹で、希望くんというのは夢ちゃんの弟だ。

 確か南ちゃんは四年生で、希望くんは三年生だったかな。


「ふっ、肉球防衛隊も、徐々に規模が大きくなっていくねぇ~!」(ふぁさっ)


 前髪をかき上げながらそう言う将流の言葉に、姉ちゃんは驚くほどに食いついた。


「きゃはははは! なにそれ~、バカっぽい名前~! もう、最高~~~!」


 おなかを抱えて大声で笑い始める姉ちゃん。

 そんなふうに言われると、命名したぼくとしては恥ずかしくなってしまう。

 でもすぐに姉ちゃんは、


「いいわ、年長者としてわたしが隊長になったげる!」


 と言い放った。

 ……言い放った途端、


「きゃはははは! 隊長だって! ヤバ、すごいバカっぽい! ウケる~!」


 涙まで流しながら、思いっきり笑い転げ始めてしまったのだけど。


 そんな様子を見てぼくは思う。

 羽浮姉ちゃん、あんたが一番バカっぽいよ、と。

 だけどそんなこと、口が裂けても言えはしないのだった。


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