表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
われら肉球防衛隊!  作者: 沙φ亜竜
第5章 肉球は世界を救う!
30/30

-6-

「あっ、いらっしゃ~~いっ!」


 夢ちゃんの元気な声が響く。


「……いらっしゃい、お兄ちゃん……」


 希望くんも、いつもながらの控えめな声ではあるものの、精いっぱいの笑顔でぼくを迎えてくれた。

 ……最近、なぜか希望くんは、ぼくのことを「お兄ちゃん」って呼ぶようになったんだよね……。

 以前は、降人さんって呼んでいたはずなのに。どうしてだろう……?


 あのあと、夢ちゃんはトラ縞の猫を家に連れて帰った。


 夢ちゃんの住むアパートはペット不可だったのだけど、もともと家族四人で住むには狭いと考えていたため、別の物件をずっと探していたようで、ご両親はすぐに行動を開始した。

 そして、晴れてペット可のアパートに引っ越した。


 夢ちゃんの家は四人と一匹という構成に変わり、頻繁にお客さんが訪ねてくるようになった。

 そのお客さんというのは、ぼくなのだけど。


 無類の猫好きなのに、お母さんが動物嫌いだから猫を飼えないぼくの家。

 それを不憫に思ったのか、夢ちゃんはいつでも遊びに来ていいと言ってくれた。

 そんなわけで、夢ちゃんの厚意に甘え、こうして「トラちゃん」と遊ぶために、ぼくはかなりの頻度でお邪魔している。


 そう、トラちゃん……。

 夢ちゃんはトラ縞の猫に、そんな名前をつけていた。

 いや、その、なんというか、そのまんますぎて、逆にツッコミようがないくらいだ。


「トラちゃ~~んっ! 降人くんが、遊びに来てくれたわよ~っ!」

「にゃ~~ん!」


 ともあれ、呼ばれたトラちゃんのほうも、喜んでいるみたいだから、まぁ、いいよね……。


 それにしても……。

 やっぱり室内で猫ちゃんと遊べるのって、すっごくいい! 癒される! もう最高っ!

 ぼくはトラちゃんの頭を優しく撫でながら、にへら~っと、妙な笑顔を浮かべていた。

 ただ、いくらクラスメイトで友達だとはいえ、こんなに頻繁にお邪魔して、夢ちゃんには悪いかな、と思わなくもないのだけど。


「にゃははっ! そんなこと、気にしなくていいよっ! というか、どんどん来てくれたほうが、嬉しいというか、なんというか……、って、なに言わせるのよもう、恥ずかしいわねっ!」


 などと言いながら、夢ちゃんは顔を真っ赤に染めながら、壁やら床やら、希望くんやらトラちゃんやらぼくやらを、パシパシと叩く。


「痛たたたた、ちょっと、夢ちゃんってば!」

「あ、あう~っ! ごごごごごごごめんなさいっ!」

「……お姉ちゃん、はしゃぎすぎ……」


 希望くんから控えめなツッコミを受ける夢ちゃん。

 だけど、どうしてこんなに、はしゃいでるのだろう?


 ……やっぱり、猫が家にいるからだよね。

 夢ちゃんって、ほんとに猫が大好きなんだなぁ~。

 ぼくも夢ちゃんみたいに、猫と一緒に暮らせる生活になりたいよ!


 そんなことを考えていると、希望くんがじーっとぼくの顔をのぞき込んでいた。


「ん? 希望くん、どうしたの?」

「……お兄ちゃん、猫と一緒に暮らしたいって、考えてる……」

「うっ!」


 バレバレだった。

 でも希望くんは、続けてこんなことを言う。


「……いい方法があるよ。……お姉ちゃんと、一緒に暮らせばいい……」

「な……っ!? の……希望っ! こら、なに言ってるのよ、あんたはっ!」


 夢ちゃんがさらに顔を赤くしながら、慌てた声を上げる。


「え? ぼくがこの家の子になるってこと?」


 養子縁組とかっていうんだっけ?

 まぁ、確かにそうすれば、トラちゃんと毎日遊べることにはなるけど……。

 さすがに、いろいろと問題があるんじゃないのかなぁ?


「……そうじゃなくて……。今は無理だけど、将来的には、籍を……もごご!」

「こ……こら、希望~っ!」


 夢ちゃんは眉をつり上げて、希望くんの口を思いっきり手で塞ぐ。


「え……? セキ? 教室の席? それとも、風邪でもひいた?」

「……やっぱりお姉ちゃん、前途多難……」

「????」


 ぼくには、なにがなんだかわからなかったけど、夢ちゃんと希望くんの姉弟は、揃ってため息を漏らしていた。



 ☆☆☆☆☆



「にゃ~ん!」


 そんなぼくたちの様子を、なんとなく楽しそうに見ているトラちゃん。


「そういえばさ、トラちゃんって、あのニャンコ神社にいたでしょ?」


 ぼくはちょっとだけ気になっていた件について、話してみることにした。


「うん、そうねっ」

「あのとき、オメガがたくさんの猫を操って、ぼくたちはあの神社に連れていかれたけど、もしかしたらトラちゃんって、オメガに操られてきたわけじゃなくて、もともとあの神社にいたんじゃないかな」

「え? どうしてそう思うの?」


 夢ちゃんの当然のごとき疑問に、ぼくは言葉を続ける。


「あの神社、猫宮神社っていう名前でしょ? あそこって、ぼくの親戚が宮司をやってるんだよね。だから何度か、遊びに行ったこともあるんだけど……」

「あ、そうだったんだっ。そうだよね、降人くんの名字と同じ名前の神社だもんねっ。結構珍しい名字だと思うし、考えてみたら当たり前かもっ!」

「うん。それでね、神社に遊びに行ったとき、こんなトラ縞の猫がいるのを見たような気がするんだ。まぁ、珍しい猫じゃないだろうし、別の猫かもしれないけどね」


 軽く笑いながら、ぼくは自嘲気味に言う。


「猫好きの降人くんが、見間違うってこともないと思うなっ! ……あの神社ってさ、猫の神様を祀ってるんだよねっ? ってことはもしかして、トラちゃんがその猫の神様だったりしてっ! にゃはははっ!」


 ぼくの意見を聞いた夢ちゃんは、名前どおりの夢見がちな言葉を響かせると、いつもの元気な笑い声を振りまいていた。

 とはいえ、夢見がちなお話、とは言いきれないのかもしれない。

 現についこのあいだまで、ぼくたちの目の前には、人間の言葉を喋って二足歩行までする猫がいたのだから。


「にゃ~ん!」


 夢ちゃんの笑顔に合わせて、トラちゃんが鳴く。

 ぼくがふと目を向けると――。


 ニヤリ。


 ほんの一瞬ではあったけど、普通の猫とは思えないような、そんな意味深な笑みをこぼしたように、ぼくには見えた。

 ……ぼくはそれを、見なかったことにした。


以上で終了です。お疲れ様でした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ユーザー登録されている方は、もしよろしければ評価していただけると嬉しいです。

宜しくお願い致しますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ