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われら肉球防衛隊!  作者: 沙φ亜竜
第5章 肉球は世界を救う!
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-2-

「まさか、こっちの世界でここまでの力が出せるなんて……!」

「ふぉっふぉっふぉ! この世界にいる以上、おぬしはどうせ大した力は出せまい。じゃが、わらわは違うのじゃ。備えあれば憂いなしというやつじゃな」


 ミューちゃんとオメガは、互いに構え、じわりじわりと間合いを詰め始める。

 と――。


「にゃ~~~~っ!」


 辺りを取り囲むように並び、今までのやり取りを黙って見ていた猫たちが、一斉に動いた。

 ターゲットは――ミューちゃん!

 オメガが、猫たちを操って飛びかからせたのだ!


「な……っ! 卑怯だぞ!」

「ふっ、なんとでも言うがよいわ。要は勝てばよいのじゃ!」


 ぼくの叫び声にも涼しい顔でそう答えるオメガ。

 ミューちゃんの仲間であるぼくたちの動きを封じておいて、自分は手下の猫たちを使って攻撃させるなんて!


「ふぉっふぉっふぉ、わらわにとって、この世界の猫はいわば忠実なるしもべ。じゃからこそ、わらわたち魔界の住人がこちらの世界に来ると、猫の姿を取ることになるのじゃからの。精神的な根源が一致しておるのじゃ」


 オメガがごたくを並べているあいだにも、猫たちは次々とミューちゃんに襲いかかる。

 しなやかな身のこなしで、四方八方から迫りくる猫を華麗に避けているミューちゃんではあったけど。

 あまりにも相手の数が多すぎる。

 いつまでもつかは、わからない。


 ぼくたちが守ると誓ったミューちゃんが今、目の前で危険にさらされている。

 にもかかわらず、ぼくたちには成すすべもないなんて。

 身動きすら取れない現状では、いくら助けたいと念じたところで、どうにもならなかった。


 もう、諦めるしかないのか……?

 ぼく以外の肉球防衛隊のメンバーも、苦い表情をしながらも諦めきっているのか、ミューちゃんへの声援すら止めてしまっていた。


「ふぉっふぉっふぉ! 今はこうしておぬしらの動きを封じるだけしかできぬが、わらわの真の目的まで、もうあと一歩というところまで来ておるのじゃ!」


 ミューちゃんへの攻撃は、猫たちに任せていれば問題ない。

 そう考えているのか、余裕の笑みを浮かべたオメガは、聞いてもいないのに語り始める。


「これが世に言う、冥土の土産ってやつなのねっ!? 貴重な体験だわっ!」


 夢ちゃんがなぜかちょっと嬉しそうに叫ぶ。

 瞳もキラキラと輝いてるし……。

 こんな絶体絶命の状態だというのに、夢ちゃんはいつもどおり、マイペースだ。


 ――いや、そのほうがいいのかもしれない。


「わらわの真の目的は、猫たちの支配だけなどといった、みみっちいものではない。人間どもを含めたすべての生けとし生けるものの上に立つ、真の意味での支配者になることなのじゃ! ふぉーっふぉっふぉっふぉっ!」


 オメガのいやらしい笑い声が響く。

 そんな中、ぼくは微かに動くだけのこぶしを固く握り、オメガを睨んでいた。


 沈んで諦めきってしまったら、その時点ですべてが終わってしまう。

 未来がどうなるかは、誰にもわからないのだ。


 こんなケバいおばちゃん猫なんかに、世界を支配されてたまるものか!

 ミューちゃんは、ぼくたちが守る!

 そう誓い合ったんだ! その決意に嘘はない!


 ここで勝手に諦めてオメガの支配を受け入れてしまうのは、ミューちゃんを見捨てることと同義だ。

 もしミューちゃんを見捨ててしまったら、魔界の王位継承権はシグマに移ってしまうだろう。


 ミューちゃんの弟だというのにカリスマ性のかけらもない、あのシグマが魔界で最高の地位に納まり、なおかつ、こんなにケバいおばちゃん猫が人間や動物たちを支配するなんて。

 地獄以外のなにものでもない。


 諦めた時点で、そんな未来へと向かって、歯車が動き出してしまう。

 諦めたら、負けなのだ!


「そんなことは、させない! ぼくたちは、そしてミューちゃんは、絶対に負けない!」


 ぼくは、今まで出したことのないほどの大声で、力強く言い放つ。


「そ……そうよ! あんたなんかに、支配されてたまるもんですか!」

「ま、ぼくとしては、可愛い女の子にだったら支配されてもいいんだけどねぇ~」(ふぁさっ)

「……将流くんは黙ってなさい! 隊長命令よ!」

「ふえぇ。動けなくてつらいけどぉ~。でもあたちだって、肉球防衛隊の一員だもん~! 絶対に、負けたりしないんだからぁ~!」

「……ぼくも、負けない……」

「もちろん、みなみだって負けないです! 頼りないお兄ちゃんと一緒に、頑張ります!」

「はっはっは、頼りないだけ余計だがな!」

「冥土の土産はもらっちゃったけどっ! でも、もらうだけもらって、勝っちゃうもんねっ!」


 みんなも、ぼくの言葉でいつもの勢いを取り戻してくれたんだろう。口々に決意を叫ぶ。


「そうです! 可愛い教え子たちには、指一本触れさせませんよ!」


 普段は適当すぎる雪菜先生までもが、熱血教師のごとく、全身に炎をまとっているかのように熱くなっていた。


「ふぉっふぉっふぉっ! 口だけは達者じゃのぉ。もっとも、今は口だけしか動かせないじゃろうが。ふぉふぉっ、苦しゅうないぞよ。たっぷりと楽しませてもらうおうかの!」


 と、オメガの余裕も、ここまでしか続かなかった。


「ええ、楽しませてあげるわ! このわたくしがね!」


 ミューちゃんが、澄んだ声で高らかに宣言する。

 見ればいつの間にか、ミューちゃんの周りには、倒れた猫たちが無数に横たわっていた。


「な……っ!? これはいったい、どうしたというのじゃ!?」


 オメガは焦って汗をまき散らしながら、きょろきょろと辺りを見回し、もともと歪んでいた顔をさらに醜く歪ませていく。


「はっはっは! そんなに汗をかいたら、厚化粧がはがれちまうぜ?」

「くうううううううっ!」


 拳志郎のバカにしたような茶々に、オメガは顔を真っ赤に染めながらうなり声を上げる。


「油断させるために、わたくしは猫をひたすら避けていただけ。力はすべて、わたくしのほうに受け継がれているんだから。もとから勝ち目なんてなかったのよ!」


 そう言って両腕を広げるミューちゃん。

 と、それに合わせて猫たちが起き上がる。

 疲れて倒れた猫たちはオメガの支配が解け、ミューちゃんが新たに支配し直した。

 そんなところだろうか。


「いいえ、違うわ。襲いかかってくるあいだに、すべての猫たちの支配を上書きしたの。その場で指示を与えて、倒れたふりをしてもらっていた。それだけのことよ」


 ぼくの考えを、ミューちゃんが自ら訂正する。

 ぼくは口に出したわけではなかったけど。

 オメガでも思考を読めたのだ。その上を行くというミューちゃんにだって、同じことくらいできてもなんら不思議はない。


 それにしても、あれだけたくさんの猫たちを、しかも、オメガによって支配されている状態にあった猫たちを、いとも簡単に支配し直してしまうなんて。

 ミューちゃんとオメガの力の差は、歴然としていた。


「ぐ……、なにゆえそこまで力が残っておるのじゃ!? 確かに魔界ならば、おぬしの力は最大級じゃろう。じゃが、この世界に入った時点で、力は大幅に制限されるはずじゃぞ!?」

「それはそちらも同じことでしょう? 秘伝の薬は、なにもお城の倉庫だけに眠っているというわけじゃないのよ」

「なんじゃと!?」

「泉を越えてこちらの世界に来ると、王家の力はほとんど出せないほど弱くなってしまう。それを抑える効果のある薬……。お城の倉庫にあるその秘伝の薬を使ったのよね? でもあれは、薬ではなかったの」


 ミューちゃんが言うには、その薬は昔から魔界の各地にあったのだという。ただし、薬ではなく、飲み物として。

 一般人には、その薬の効果はまったくなかったのだ。

 特殊な力があるのは王家の血筋を受け継ぐ者だけ。だからこそ、民衆を支配する立場になったとも言える。


 木の実から作られるその飲み物は、甘酸っぱくて美味しいため、嗜好品として一般にも広まっていた。

 安くはないものの、それほど高級というわけでもないから、王家の人たちはまったく見向きもしていなかった。

 だけど、町に出て一般人の生活を見て回り、食事を振舞ってもらったりした際に、ミューちゃんはそのことに気づいた。

 お城の倉庫にある薬をイタズラ心で舐めてしまったことがあり、そのときの味と一般人の飲んでいる飲み物の味が同じだったからだ。


「シグマが使っていた薬だってそうよ。倉庫にある秘伝の薬と言われていたけど、単なる果実酒だったの。古くから家畜なんかを手なずけるために使われていたらしいわ。もっとも、こっちの世界の動物たちには効果が強すぎたみたいで、わたくしたちも手こずってしまったけど」


 ふぅ……。

 一気に語り上げたミューちゃんはひとつ、小さく息をつく。


「もうわかったでしょう? あなたはわたくしには勝てない。観念して魔界へ帰りなさい!」


 ミューちゃんが、勝利宣言とも言うべき凛とした声を響かせた。


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