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次の日は、日曜日。
言うまでもなく学校は休みだけど、当然ながらぼくたちは、ミューちゃんのもとへと向かうことになる。
まずは朝食をしっかりと食べて、臨戦態勢を整えないと。
休みだというのに、お母さんはしっかりと起きて、朝ごはんを作ってくれた。
ぼくと羽浮姉ちゃんが、なにやら休みの日にも出かけることが多くなっているのを、ちゃんとわかってくれているのだ。
テレビをつけながら、ぼくと姉ちゃんは、目玉焼きと海苔だけがおかずの朝食をたいらげる。
と、不意にテレビのニュース番組から、アナウンサーの悲鳴が聞こえてきた。
「きゃあっ! いったいこれは、どうしたことでしょうか!? 大群の猫たちが、一斉に町の中を駆け抜けていきます!」
ぼくも姉ちゃんも、思わずテレビに釘づけとなる。
テレビ画面には、たくさんの猫たちが猛然とただただ一方向に向かって走りゆく光景が映し出されていた。
しかもそれは、今映っている一ヶ所だけで起こったことではなさそうだ。
各地の中継地点からの映像が、次々と映し出されていく。
北は北海道から、南は沖縄まで。
ありとあらゆる都市で、猫が大暴走しているようだ。
おそらくは、都市部だけではないだろう。
日本だけで起こっていることなのかすら、わからない。
もしかしたら世界各国で、同じような現象が発生しているのかもしれない。
「あらやだ~。怖いわねぇ~」
お母さんが、どう考えてもあまり怖がっていないような声をこぼす。
大量の猫が押し寄せる。それは動物が苦手なお母さんにとって、耐え難い状況のはずだけど。
それなのにこんな、のほほんとした感じの反応なのは、べつに怖がっていないというわけではなく、単にそういう人だからだ。
まぁ、お母さんについてはこの際、どうでもいいとして。
ともかく今は、猫たちの大暴走のほうが問題だ。
少なくとも日本中の猫が、暴走している。
先日シグマが連れてきたデルタは、催眠術で数十匹の猫を操っていた。
またシグマがデルタを引き連れて懲りずに戦いを挑むつもりなのだろうか?
でも、シグマは昨日、負けを認めて帰っていった。
それなのにまた来るようだと、さすがに頭のネジが外れているとしか思えない。
仮にもミューちゃんの弟なら、そこまでバカじゃないだろう。……断言はできないけど。
シグマが昨日話していた、彼らの親玉であろうオメガ。
そいつがシグマの敗北を察知して、自らこの世界に出てきた。
きっと、そうに違いない。
そしてそのオメガが、猫たちを大暴走させているのだろう。
これだけたくさんの猫に影響を与えていることから考えると、同じように猫を操っていたデルタの何倍、何十倍、いや、下手をすると何百倍もの力を持っているのかもしれない。
心してかからないと、ぼくたちの命だって危ない。
「降人!」
「うん、行こう!」
それでも、ぼくたちは行かなくてはならない。
だってぼくたちは、ミューちゃんを守ると約束した、肉球防衛隊なのだから。
姉ちゃんの呼びかけに応え、ぼくは颯爽と家を飛び出した。
☆☆☆☆☆
小学校の前には、すでにみんなが集まっていた。
「来た来た! 遅いわよ!」
いちごからの文句が飛ぶ。
「どうやら、大変なことになっているようね」
夢ちゃんに抱え上げられたミューちゃんがつぶやいた。
いつもの場所に隠れているより、みんなと一緒にいるほうがいい。そう考えたのだろう。
そんなミューちゃんの隣には、雪菜先生も立っていた。
「あ……あなたたち、大丈夫!?」
「雪菜先生!」
このあいだ、ぼくたちはミューちゃんが危険な目に遭っていることを、雪菜先生に話した。だからずっと、心配していたのだという。
ニュースを見た先生は、胸騒ぎがして学校まで様子を見に来てくれたらしい。
と、突然辺りに響き渡る、地響きのような音。
「……来たぞっ!」
拳志郎が大声を轟かせると同時に、ぼくたちの足もとが、柔らかい物体にすり替わる。
否、大群の猫たちがぼくたちの足もとをすくい、その流れの上にぼくたちは乗せられたのだ!
抜け出そうとするものの、上下に激しく動く猫たちの背中の上では成すすべがなかった。
ぼくたち肉球防衛隊のメンバーとミューちゃん、さらには雪菜先生。
総勢十一名が、猫の波に乗せられて流されてゆく。
やがて階段になっている場所を登り、ぼくたちが運ばれた先。
猫をかたどった像が建てられているその場所は、猫の神様が祀られているという猫宮神社――通称ニャンコ神社だった。




