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翌日は土曜日。学校は休みだった。
とはいえ、当然ながらぼくたちは学校に行く。
それが肉球防衛隊としての務めなのだ。
「眠ぅ~……。わたしはあとから行く、ってのじゃダメかなぁ~?」
「ダメだよ! 羽浮姉ちゃんは隊長でしょ!?」
「うう~、でも眠いのさ~」
なにやらダメダメな朝が弱い羽浮姉ちゃんを引きずりつつ、ぼくは小走りで小学校へと向かう。
二度あることは三度ある。
今日もまたシグマがミューちゃんを襲撃に来る可能性は高い。
高いというよりも、おそらく確実だろう。
そう考えられるわけだから、一刻も早くミューちゃんのもとに駆けつける必要があった。
ぼくたちが学校に着くと、ちょうど夢ちゃんと希望くんの姉弟と、いちごとみるくちゃんの双子姉妹も到着したところだった。
校門の前で挨拶を交わしているあいだに、拳志郎と南ちゃん、さらには将流も到着。
肉球防衛隊メンバー勢揃いだ。
「って、こんなところで無駄話してる時間はないっての! 早くミューちゃんのとこに行くわよ!」
いちごの声にぼくたちは頷くと、中庭を抜けて、ミューちゃんの待つウサギ小屋の横へと向かった。
☆☆☆☆☆
そこには、二匹の猫がいた。
そう、二匹。
シグマと、ミューちゃんだ。
「シグマ。今日は仲間の姿が見えないようだけど?」
ミューちゃんが凛とした声をぶつける。
対するシグマに、怯む様子なんてまったくない。
「ミュー姉、最後の決着だ。仲間に任せていても、埒が明かないからな。オレ様自らが、ミュー姉をねじ伏せてやる!」
余裕のセリフを吐くシグマではあったけど、その頬にはひと筋の汗が流れていた。
「へぇ~。あんたがわたくしをねじ伏せる? いい度胸ね。あんた今まで、わたくしに勝てたことなんて、一度もないくせに」
「それはミュー姉が一応女だからさ。いくら女性優位な社会になっているとはいえ、物理的な力では男のほうが上なんだからな。いつだって打ち負かして従わせることができるんだぜ? だがそうしないのは、オレ様たち男のほうが理性を持っていることの証さ」
「ふん。負け犬の遠吠えね」
「なんとでも言え。ともかく今日は一対一だ! タイマンで勝負しろ!」
「ふふっ、いいでしょう。望むところよ!」
駆けつけたぼくたちは、完全に蚊帳の外。ふたりの話は、口を挟むこともできずに進んでいく。
いや、ミューちゃんはしっかりと、ぼくたちの存在に気づいていたようだ。
「……というわけだから。みんな、手出しは無用よ!」
ぼくたちのほうに視線を向け、そう言い放つミューちゃん。
「うわわっ! ミューちゃんカッコいいっ!」
夢ちゃんは歓喜の声を上げていたけど。
「でも、シグマは今まで散々、仲間とか動物とかを使って負け続けてるじゃん。それなのに、今さらタイマン勝負で決着をつけるなんて、さすがに勝手すぎるんじゃないかな?」
ぼくのツッコミに、ミューちゃんは反論を返してくる。
「いいのよ、降人くん。今までだって、わたくしはあなたたちがいたから勝てただけ。それに、シグマ自身には指一本たりとも触れていない。つまりは、勝負すらしていないのと同じなのよ」
「そういうことだ。それともこの世界の人間は、本人同士が納得しているタイマン勝負に手を出すなんて、そんな野暮な真似をするような人種なのか?」
「う……」
ミューちゃんとシグマから続けざまにそう言われたら、ぼくたちにはもう、止める手立てはない。
ポン。
ぼくの肩を、拳志郎が叩く。
「おれたちは黙って見守ろう」
「…………うん」
その言葉に、ぼくは素直に頷くしかなかった。
☆☆☆☆☆
「それじゃ、行くぜ!」
「ふふっ、かかってきなさい!」
ミューちゃんとシグマは、すっと右腕を伸ばす。
「おおっ!」
観衆と化しているぼくたちから、どよめきが湧き起こる。
伸ばした手の先が光ったと思ったら、次の瞬間には武器が握られていたのだ。
猫の姿をしてはいるけど、さすがに魔界のプリンセスとプリンスだけのことはある、といったところか。
空気中のエネルギーを集め具現化したとか、そういった原理なのだろう。
だけど……。
「にゃはははっ! なんか、楽しそうっ!」
「そうねぇ……。タイマンの真剣勝負、というふうには、どう考えても見えなくなったわよね……」
「でもぉ~。怖くなくなって、あたちはよかったと思うのぉ~」
口々に感想をこぼすみんな。
ミューちゃんの手に握られているのは、巨大なピコピコハンマー、
そしてシグマの手に握られているのは、巨大なハリセンだった。