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われら肉球防衛隊!  作者: 沙φ亜竜
第3章 肉球に忍び寄る危機!?
18/30

-6-

 巨大なヘビが逃げ去り、姉ちゃんの言葉に呆然としていた、そのとき。

 不意に奥の植え込みから葉のこすれるような物音が響く。


 ――あっ、あれは……!


 小さな影。

 それは、黒い猫だった。

 以前ミューちゃんを威嚇していた、あの黒猫だ!


 ぼくの視線に気づいたのだろう、黒猫は植え込みから飛び出し、裏門のほうへと逃げ出す。

 でも今日は、その姿を他のみんなも目撃していた。


「あっ、黒猫!」


 いちごが声を上げる。


 あの黒猫は以前にもここに来ていたのだから、また入り込んできていたとしても、さほどおかしいわけではない。

 だけど、ぼくが昨日見た黒い影も、もしかしたらあの黒猫だったのではないだろうか?

 そうすると、昨日のイノシシの件も、今日の巨大なヘビの件も、あの黒猫がなにか関わっていたのではないか、という推論が浮かび上がってくる。


 普通に考えれば、そんなことがあるとはとうてい思えない。

 それでも、ここ数日の状況を考慮した場合、そんな予測を立てたとしても不思議ではないだろう。

 そしてその考えは、やっぱり間違いではなかった。


「ちょっと、あんた! しつっこいわよ! もう来ないでよねっ!?」


 凛とした女性の声が響く。

 でもその声の主は、いちごでも、夢ちゃんでも、姉ちゃんでも、もちろん、みるくちゃんや南ちゃんでもなかった。


 ……え?


 みんな一斉に振り返る。

 そこには、


「あっ……!」


 と言って口を押さえながら、二本足でしっかりと立っている、ミューちゃんの姿があった。


 ヒュ~~~~~……。

 乾いた風が通り過ぎる。


「今、ミューちゃん喋ったよね!?」

「それに、二本足で立ってたぞ!」


 ぼくたち全員から詰め寄られたミューちゃんは、観念したように、ポツリポツリと語り始めた。



 ☆☆☆☆☆



「わたくしは、実は、魔界のプリンセスなんです」


 いきなり度肝を抜かれるような発言だった。

 誰も口を挟まない。いや、挟めないのだろう。

 そんなぼくたちの視線に気づいているのかいないのか、ミューちゃんはさらに話を続ける。


「さっきの黒猫は、わたくしをつけ狙っている、魔界のプリンスです」

「……ミューちゃんがプリンセスで、黒猫がプリンス……。つまり、家族ってこと?」


 どうにかしぼり出したぼくからの疑問の声にも、ミューちゃんはしっかりと答えてくれた。


「はい。あの黒猫は、わたくしの弟、シグマです」


 ミューちゃんが言うには、彼女は魔界の王家で何不自由なく幸せに暮らしていたのだそうだ。

 ただ、いつしかミューちゃんは疑問を感じ始める。


 ミューちゃんはプリンセスとして、やがては王位を継ぐ立場にあった。

 弟の存在は関係なかった。どうやら魔界は女性優位な社会のようで、ミューちゃんのほうに王位継承権があるのだという。

 とはいえ、自分が母親の跡を継いで女王になる気には、どうしてもなれなかった。


 このまま魔界の王家でのうのうと生きていていいのだろうか。

 もっと世間を知る必要があるのではないだろうか。

 そんなもやもやとした思いが、ずっと心の中でくすぶっていたからだ。


 ミューちゃんはある日、お城から抜け出して、一般人の暮らす町へと足を運んでみた。

 町に出たミューちゃんは、いろいろな人からこんな噂話を聞く。

 この世界とは別の、もっと豪華絢爛で楽しい世界があるみたいだ、と。


 それはぜひとも、この目で見てみなければ!

 そう思ったミューちゃんは、古くからの伝承にある、近寄ってはいけないとされている異世界に通じる泉へと向かった。


 意を決して泉に飛び込むと、気づけばぼくたちの住むこの世界にいた。


「伝承では、王家の血筋を引く者以外が異世界へ出ると、言語能力も思考能力も衰えてしまう、と言われていました。わたくしは王家の血筋なので大丈夫でしたが、それでも身体的には変異してしまい、こちらの世界でいう猫のようになっていました。王家の血筋があってもこうなのですから、魔界に住む一般人たちがこちらの世界に来たら、おそらくは本当に猫と同じようになってしまうでしょう。だからこそ、近づかないようにと言われていたに違いありません」

「へぇ~、そうだったんだ」


 さすがにちょっと現実逃避気味になっているのか、微妙に棒読み口調ではあったものの、いちごが相づちを打つ。


「だとすると、弟さんはあなたを連れ戻しに来たってことでしょ? でも、あのヘビとかをけしかけてきたのも、その弟さんなのよね? どうしてそんな危険なことをするの?」


 現実逃避気味ではあっても、いちごはしっかりと話の内容を理解して、自分なりに分析しているようだ。


「きっと、わたくしを亡き者にしようとしているんだと思います。王位継承権はわたくしにありますが、わたくしがいなくなれば、王位は弟に移りますから。弟はきっと、ずっとわたくしのことを恨んでいたんだわ……」


 最後のつぶやきは、とても苦々しい口調になっていた。


 王家のことなんてぼくには想像もつかないけど、でもやっぱり、お家騒動とかってのがつきまとうものなんだろうな。

 実の弟から命を狙われるなんて、すごくかわいそうだよね……。


「大丈夫だよ、ミューちゃん! ぼくたちが、絶対にキミを守る!」

「はっはっは! それがおれたち、肉球防衛隊の役目だからな!」

「うんうんっ! わたしたちにど~んと任せといてっ!」

「みなさん……」


 決意を新たにするぼくたち肉球防衛隊の面々に囲まれ、ミューちゃんも明るい笑顔を取り戻す。


 シグマ! ぼくたちは、お前なんかに負けない!

 絶対にミューちゃんは守り抜いてみせる!


 ぼくはぐっとこぶしを握りしめ、気合いを入れ直すのだった。


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