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われら肉球防衛隊!  作者: 沙φ亜竜
第3章 肉球に忍び寄る危機!?
16/30

-4-

 ミューちゃんがウサギとか犬とかに襲われるといった危険が続いている現状では、味方は多いほうがいい。

 アレルギーで怪しい格好ではあったものの、雪菜先生が味方についてくれているのは、正直とても嬉しかった。


 ミューちゃんを守ると意気込んでいるとはいっても、ぼくたちは小学生なのだ。

 羽浮姉ちゃんは中学生だけど、それでも子供の域を抜けているとはいえない。

 大人である雪菜先生の存在は、ぼくたちを安心させてくれる。

 直接ミューちゃんを危険から守るために体を張ってくれたりまでしなくても、相談に乗ってくれるだけでも充分に心強いのだ。


 それにしても、昨日の雪菜先生のことは別として、最近ミューちゃんに降りかかってきた出来事――黒猫が威嚇してきたり、ウサギとか大型犬とかが迫ってきたり、といったことは、いったいなんだったのだろう?

 黒猫に関しては、猫同士の縄張り争いだとか、そんな感じだと考えれば納得できなくもないけど。

 ウサギとか大型犬とかについては、ミューちゃんに着せている服にウサギや犬のエサが入れられていたわけだから、故意にそれらの動物をミューちゃんにけしかけた、ということになるはずだ。


 怪しい人物がいるという噂を聞いて、もしかしたらその人が犯人かもしれないと考えたりもしていたのだけど、正体が雪菜先生だとわかった今、その可能性は消え去った。

 ぼくたちは、肉球防衛隊としてミューちゃんを守らなければ、という思いを、よりいっそう強く感じ始めていた。

 そんな中、また新たな襲撃者が襲いかかってくることになる。



 ☆☆☆☆☆



 生温かい風が吹き抜ける、とある放課後。

 ぼくたち肉球防衛隊の面々はいつものように、みんなでミューちゃんのもとを訪れていた。

 羽浮姉ちゃんも含めた、フルメンバーだ。

 姉ちゃんはこのところ、ミューちゃんを心配してくれているからだろうか、部活を休んでこの場所に駆けつけることが多くなっていた。


「今日もミューちゃんは可愛いわねっ!」


 無類の猫好きである夢ちゃんが、今日もミューちゃんを抱き上げて、すりすりと頬ずりしていた。

 ぼくもよくやっているけど、毛とヒゲが頬に当たって、すごく気持ちいいんだよね。

 普段なら頬ずりされているほうのミューちゃんも、喜びの鳴き声を上げたりする場面なのだけど。

 でも、今日は違っていた。


「ミニャーーーーーーッ!!」


 と焦ったような大声を放ちながら、しきりに手を目の前に向かって伸ばしている。

 ミューちゃんの手は、抱き上げている夢ちゃんの肩口から、その背後に向けられていた。

 それはさながら、「夢ちゃん、後ろ、後ろ!」と叫んでいるかのようだった。


 いつもどおり集まっていたぼくたちも含めて、ミューちゃんの手が指し示す方向へと視線を向ける。

 そこには――。


 ドドドドドドドドドドドド!


「きゃあっ!?」

「うわっ!」

「ミニャーーーッ!!」


 猪突猛進!

 という言葉が示すとおり、まっすぐに向かってくる影。


 そしてそれは、本当にその言葉が示すとおりだった。

 つまり、そこにいたのは、イノシシ。

 しかも。


 ドドドドドドドドドドドド!

 ダダダダダダダダダダダダ!


「うわわわっ!」

「なによ、これ!?」


 イノシシは、二匹いた。

 さらにはそれぞれが時間差で、ぼくたち目がけて突っ込んできたのだ!


 成すすべもなく、ただ逃げ惑うばかりのぼくたち。

 と、ミューちゃんを抱き上げていた夢ちゃんも、思わず腕の力を緩めてしまったのだろう。


 すたっ。

 ミューちゃんが地面に着地する。


 ドドドドドドドドドドドド!


 そこを目がけて、猛突進してくるイノシシ。


「ミューちゃん、危ない!」


 いちごが手を伸ばして守ろうとするも、彼女のいる位置からでは遠すぎた。

 猛然と突っ込んでくるイノシシと、ミューちゃんが激しく衝突する……!


 ――と思われた瞬間、ミューちゃんは素早く横に飛び、見事、危機を回避することに成功した。


「おおっ! ミューちゃん、やるじゃないか!」


 拳志郎から賞賛の言葉をかけられ、なんとなくミューちゃんも満足気な顔をしているように見える。

 だけど……。


 ダダダダダダダダダダダダ!


 油断大敵! もう一匹が突っ込んできた!

 と、それも間一髪で避けるミューちゃん。


「うわぁ~! ミューちゃん、カッコいい~!」


 みるくちゃんは、こんな緊迫した状況だというのに、場違いなほどのんびりした口調だった。

 ともあれ、このままでは、やがては疲れて避けきれなくなってしまうだろう。


 いったい、どうしたらいいんだ!?


 依然として、二匹のイノシシは直線的な動きで突っ込んできている。

 どうにか状況を見極めようとするぼくだったけど、そんな思考もすぐに途切れることになる。


 イノシシたちのターゲットは、ミューちゃんだけではなかったからだ。

 突進する獣の魔の手は、ぼくたち肉球防衛隊のメンバーにまで及んできた。


「わわわ!」

「きゃ~~~っ!」

「ちょっと、来ないでよ!」


 ぼくたちは散り散りに逃げ回る。

 ミューちゃんも小さい体ながらも懸命に避けている。


 猪突猛進。前しか見えていないイノシシ……。


「そうか!」「そうだっ!」


 ぼくと夢ちゃんの声が重なった。

 お互いに見つめ合い、黙って頷く。


「ほら、こっちだ! ノロマなイノシシめ!」

「そっちのおバカなあなたは、わたしが相手よっ!」


 ぼくと夢ちゃんはそれぞれ、別のイノシシを挑発する。


 人間の言葉がわかるわけではないだろう。

 それでも、バカにされていることは、なんとなく感じるものなのかもしれない。

 二匹のイノシシは、これまで以上に気合いを入れているのか鼻息も荒くしながら、それぞれぼくと夢ちゃんに向かって突進してきた。


 ニヤッ。


 ぼくと夢ちゃんは、イノシシがぶつかってくる直前、横に飛んで華麗にかわす。

 ひたすらまっすぐ突っ込んでくるだけのイノシシ。

 勢い余ったイノシシは当然ながら、ターゲットが目の前から消えても急に止まれはしない。


 ぼくと夢ちゃんは、イノシシを同じタイミングで突っ込んでくるように挑発し、上手く角度を合わせていた。

 その結果、


 ゴツン!


 大きな音を立てて二匹のイノシシはお互いに頭から激突し、その場に倒れるのだった。



 ☆☆☆☆☆



 イノシシはすぐに立ち上がり、そのまま裏門のほうへと走って逃げてしまった。


 ――あれ?

 今イノシシが逃げていったほうに、なにか動く影みたいなのが見えたような……。

 黒い、小さめの影だったような気も……。


「ぶいっ! わたしたちの勝利よっ!」

 

 ぼくが目を凝らしていると、夢ちゃんが満足そうな声を上げながらブイサインを掲げた。


「参ったか、イノシシどもめ! わたしたち肉球防衛隊は、無敵なのよ!」


 羽浮姉ちゃんはこぶしを握りしめながらそう叫ぶ。


 ……姉ちゃんは逃げ回っていただけで、べつになにもしてないじゃん。

 なんてツッコミは、もちろん入れられるはずがない。……絶対に反撃を食らっちゃうからね。


 夢ちゃんや羽浮姉ちゃんだけでなく、他のみんなも歓喜の声を上げている。

 そんな周囲の雰囲気に紛れ、結局、気になっていた黒い影のようなものについては、確認できずじまいとなってしまった。


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