チートなお兄さん、風邪をひく
たとえどんなチートスキルを得ても人間が人間である限り逃げられないものはある。
社会で生きてれば税金の支払いからは逃げられないし、人との関わりがあれば喧嘩は起きる。
そして、いま俺は風邪をひいている。
「ぶぇっくし!」
毛布にくるまりながら発熱に震える俺の前に、永礼がお盆片手にやって来た。
「し゛ん゛ど゛い゛……」
「諦めろ」
そう言いながら永礼が買ってきてくれたスープを押し付けてくる。
正直全く食べる気にならないが食べないことには薬も飲めないので、仕方なく匙を取ってスープを飲む。
「う゛ま゛い゛」
「ダンジョン野菜で作ったやつだからな、下手な風邪薬より効くぞ」
ダンジョン野菜には地上で育つ野菜には含まれない魔素の味が含まれ、これが旨味としてカウントされるらしい。
市販の野菜よりの一回りから半分ほどのサイズ感だが味は一級品ということで、ダンジョンで取れる素材の中でも野菜はかなりの人気を誇っている。
風邪で食欲がなくてもこうして食べられるんだからダンジョン野菜とは恐ろしいものである。
「あとは初級病薬ポーションな」
永礼からポーションを受け取り、蓋を開けたところではたと気づく。
俺は普通の風邪だと既に診断を受けているが、今渡されたのは普通の風邪薬ではなく初級病薬ポーションだ。
初級病薬ポーションは一般的な病気(市販薬があるようなやつ)全般に効果を発揮するが、飲むと10分ほどで完治する。ポーション系は全般的に量が少なく高値がつく傾向にあるため、初級病薬ポーションを使うのはほとんどが多忙な人だ。
……つまり俺はすぐに風邪を治す必要がある、ということか?
「こ゛れ゛の゛ん゛だ゛ら゛し゛ご゛と゛も゛ど゛る゛の゛?」
「リーチさんの指示だ、諦めて飲んでくれ」
「か゛ぜ゛ひ゛い゛て゛も゛や゛す゛め゛な゛い゛の゛か゛よ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」
チートスキルがあっても人が人である限り風邪には勝てないし、世界唯一のチート持ちは風邪をひいても休みなどないのであった。
「風邪ひいてる時に叫ぶと喉荒れるから飲め」
そして俺は永礼に初級病薬ポーションを流し込まれるのであった。




