小市民には向かない職業
いきなりやれと言われても、普通は「だが断る」だよねえ
歓声が聞こえる。
沢山の人がいる。
王都の中通りを練り歩くパレード。
俺は中央の山車、パレードカーみたいなものに乗せられて見世物にされている。
ああ、やめて欲しい。
そんな期待に満ちた眼で見ないでくれ。
俺はそんな期待されるような人間じゃないんだ。
まだなにもしてないし、なにもできないんだ。
ヒーローなんてのは似合わないんだよ、俺には。
3日前、勇者としてこの国に召喚された。
それ以前の俺はただの高校生だった。
漫研とサッカー部に在籍して、どちらでも目立った活躍をしていない、陰キャでも陽キャでもない一高校生。
成績はそこそこ、大学も、まあ、Fランぐらいなら努力せずとも普通に入れるだろうという程度。
適当な会社に就職して、食って行けるだけの収入があればそれで良かった。
こんな人生望んでない。
ラノベは嫌いじゃないが、それはお話、他人事だからだ。
異世界転移とか、魔王討伐とか、自分でやるとなると話はまるで違う。
ホラー映画好きだって、自分がゾンビに追い掛けられたいわけじゃないだろ。
ホッケーマスク被った殺人鬼とタイマン張りたいって奴がいるか?
しかも、ぐだぐだのハーレムものやラブコメならともかく、魔王軍と戦ってくれ?
冗談じゃない。
俺はろくに喧嘩もしたことのない平々凡々たる高校生だ。
俺のいた国じゃ戦争も長いことなかった。国民全員が平和ボケしてるような国の、何の訓練も受けてない未成年を召喚して自分たちでも倒せない魔王軍と戦わせようとか、なに考えてんだ?
しかも、赤の他人だぞ。
縁もゆかりもない他人のために命懸けで戦えとか、頭おかしいんじゃないか?
召喚勇者には特別な力があるそうだ。
だったらなに?
確かに、こっちの普通の人間より強いのかもしれない。けど、不死身じゃないんだよ。
実戦ではなにが起きるか分からないんだぞ。
魔王に対して舐めプできるぐらい強いならともかく、そうじゃないんだろ?
ってことは、死ぬ可能性も十分にあるってことだ。
戦闘狂ならともかく、まともな思考力があったら、是非やりたい、とはならんだろ。
無事討伐できれば生涯遊んで暮らせるだけの金をくれるそうだけど、一攫千金夢見てコロシアムに行くような人生は俺の望みじゃないんだ。
魔王に勝てれば良し、と言っても負けたら終わり、死ぬんだよ。
ゲームと違ってやり直しできない。セーブポイントもないんだ。一度死んだら終了な条件で、誰が魔王と戦いたい?
年中トリガーハッピー状態の危ない奴か、ゲーム感覚で生きてるイカれたガキに頼めよ。
これが、自分が襲われて戦うしか選択肢がない、って状況ならともかく、いきなり拉致されて赤の他人のために命賭けろと言われてもな。
しかも、国王は偉そうに上から目線。
あれだよな。王の命令は通るのが当たり前って感覚なんだろう。報酬もやるんだから、なんの不満があるんだって顔だったよ。
不満だらけだよ。
不満しねえよ。
そもそも召喚って、拉致だから。
しかも片道切符で帰れないらしい。
拉致ったんだから、生活の保障ぐらい当たり前だろ? まあ、そんな常識を持ってないから拉致なんて無茶なことするんだろうけど。
強引に引っ張って来た相手が自分たちのために命懸けで魔王と戦ってくれる、と本気で思ってんなら頭湧いてるだろ。
勇者のお披露目パレードに喜ぶ国民も、どうかしてんじゃないか?
魔王軍との戦争。
気の毒ではあるよ。
同情はする。
けど、俺に任せろ! とはならんやろ。
はっきり言って、そんな戦いは御免だ。
できることなら今すぐにだって逃げ出したい。できるならそうしてる。
なんのツテもないこの世界で国の要請を断って逃げ出しても生き残れるとは思えない。
魔王との対決に備えて、まずはレベル上げをしなきゃいけないらしい。召喚された勇者でも今はまだクソ雑魚ってことだ。
外に出たら5分で魔物のご飯状態。
衣食住の確保って問題もある。
当分は、国の方針に従っておとなしくレベル上げするさ。
目処がついたらさっさと逃げる。
魔王の手の届かないところでのんびり暮らす。そんな場所がないって言うなら、魔王と話を付ける。
戦いのド素人が1年やそこら訓練したところでどうなるもんでもないだろ。
使命感なんて求められても困る。召喚されて迷惑してるだけなんだから。
後2話で最終回のアニメをどうしてくれる。
今週で期限が切れる無料クーポン、もう使えないじゃないか。
なんで俺だったのか知らないが、俺はこの国にも状況にも不満しかない。
勇者として救ってやる気は微塵もない。
だから、そんな眼を俺に向けるなよ、王女さん。
魔王討伐後には王女も貰えるらしい。
掛け値無しの美少女だよ。あっちじゃ絶対に俺と並ぶことなんてないようなレベルの高い子だよ。テレビで紹介されるときは「国民的」ってつくような。
国のために勇者と結婚とか、俺の世界の常識じゃ人権無視だのなんだのと問題になりそうな話だ。
この子だって別に俺が好きとかじゃないんだから嫌だろうに。
少なくとも、俺はこの子から悪い印象を受けたことはない。
国のための仕方無い結婚だとしても、この子はずっと俺を気遣ってくれてる。
今も作り笑いだろう。そうと分からないほど作るのが巧いのは育ちのせいか。
王女ともなると、アイドル並に自然な営業スマイルやれないと駄目なんだろうな、きっと。
昨夜も、どっかの貴族のぼんぼんに絡まれてたけど、ずっとニコニコしてた。
大変だと思うよ。国のために犠牲になるのも。
献身とか挺身とか言うんだった?
こんなところじゃなく、普通に出会いたかったな。それだと、俺とは接点がない雲の上の人なんだろうけど。
俺みたいな平凡な高校生がこんな子と付き合うとなると、比喩じゃなく命賭けないといけないってのがね。
さすがにリスクがデカ過ぎる。
「勇者さま、あちらにも手を振って」
王女さまが小声で囁く。
俺は言われるまま、彼女が指す方を向いて笑顔で手を振った。
我ながら、よく演じられてるよ。
王女の他にも何人か女性を紹介されたけど、何人の女性に尽くして貰えるとしても、死んだら終わりだから。
大前提として魔王討伐がある限り、どうしようもない。
王女さん、そんな、腕を組んで親密度アピールしたり、態とらしく胸を押し付けて貰っても……嬉しいけど命は賭けられない。
暫くは、俺がこの世界で独り立ちできる力を身につけるまでの間は勇者を演じるよ。
その間に次善の策でも考えてくれ。
独立できる目処がついたら、俺は消える。
どこか、静かなところを探してひっそりと暮らすよ。
魔王軍に勝てるといいな。
恨むなら、俺なんかを選んだ人を見る眼の無さを恨んでくれ。
本当に、本当に気の毒だとは思う。けど、駄目なんだ。俺は。ヒーローになれるような人間じゃないんだ。
お願いだから、そんな真っ直ぐな眼で見ないでくれ。
自分が凄いことができる人間なんだと、勘違いしそうになってしまうから。
姫さま、この勇者、もう一押しでいけそうですよ
チョロいですね




