フェイクの回し者です
私は前々から部屋に緑が欲しいと考えていたが、そのたびに「植物を管理し続ける自信がない」と観葉植物の購入を断念していた。
何度も断念してはまた緑が欲しいと観葉植物を探す、そんな日々を送る。
その日も朝から「観葉植物がやっぱり欲しい」とスマホで観葉植物の情報を漁っていた。
観葉植物について調べれば調べるほど、管理に失敗して虫がわくイメージが浮かぶ。
本物がダメなら写真でも飾るか? とデジタルフォトフレームについて調べてみるが、デジタルで映すなら目の前にあるでっかいテレビでYouTubeの「自然」の動画を流してりゃいいじゃんと気がついた。世の中うまく行かない。
だがこの時、私は「造花」の存在を思い出した。
造花。最近では観葉植物の造花は「フェイクグリーン」と呼ぶらしい。
フェイクグリーンについて調べる。割と良さげだ。価格もそこまで高くない。
私はAmazonでフェイクグリーンを検索しまくり、ひとつひとつサクラチェッカーで診断して、サクラがいなくて且つレビューの評価が高い商品を2つ見つけ出した。
そのうち、レビュー総数が1000もあるのに評価の平均が4を超えているものを購入しようとしたが、届くのは2週間後とのことだった。
2週間後じゃ遅い。今すぐ欲しいのだ。
私は購入を見送った。そのままフェイクグリーンのことを忘れた。
数日後、暇つぶしにネットでウィンドウショッピングをしていた際、フェイクグリーンのことを思い出してAmazonをまた見てみた。
欲しいものリストに登録しておいたフェイクグリーンを見る。
レビュー数1000のほうは未だに2週間後のお届けだったが、Amazonのほしいものリスト入れていたもう1つの方は明日の午前に届くとのこと。
それを見たらもう猛烈に欲しくなって、商品やレビューの確認をロクにしないまま「注文を確定」ボタンをクリックしてしまった。
翌朝、宅配ボックスにフェイクグリーンが届く。
Amazonから送られてきた段ボールを開封すると、梱包材でぐるぐる巻きにされたフェイクグリーンが出てきた。
私が注文したフェイクグリーンはポトス、アイビー、モンステラの3個セット。梱包材を剥ぎ取り、1つ1つ広げるように、ぎゅうぎゅうになっていた葉と茎をほぐす。
そうして形を整えたフェイクグリーンは、パッと見ではフェイクと分からないような見た目になった。
いや、わかる人はひと目見ただけで造花だと見抜くのかも知れない。
私は普段、観葉植物を間近で見るような生活をしていない。だからこの3つのフェイクグリーンが「いかにも造花」な見た目かどうか判別できないだけかも知れない。
本当のところはわからないが、私はこの3つのフェイクグリーンが気に入った。
どれをどこに置くかはかなり迷ったが、アイビーをPCデスク、ポトスをリビングテーブル、モンステラをトイレの窓台に飾ることにする。
部屋が一気に癒やしの空間になったような気がした。
フェイクグリーンを飾り終えたあと、私はあらゆる方向からこれら偽の緑を眺めた。いい眺めだ。心地よい。
本物には劣るだろうが、部屋に緑があるってこんなにも心が満たされるものなのか。
私は非常に満足した。
買ってよかった。通販だからどんなものが来るか心配だったけど、少なくともハズレではなかった。
満足感に浸った私だが、ここであることに気づく。
ハタキがない。
ハタキ。それはホコリを落とすもの。たいていの家庭には常備されているだろう、あの掃除道具である。
正確には、我が家にはハタキはないわけではない。使い捨ての、ロングタイプのがある。
でもロングではダメなのである。私が買ったフェイクグリーンは直径7センチの鉢のミニサイズ。ロングタイプのハタキでは掃除がしづらいじゃないか。
今思えば別にロングタイプでも工夫すればミニフェイクグリーンの掃除はできただろう。
しかしその時の私は「専用の道具がいる!」と思い込み、慌ててAmazonでミニハタキを探したのだった。
こうして見つけ出した(これもサクラチェッカーでよく吟味したものである)ハンディタイプのミニハタキを注文し、私は「早くフェイクグリーンを掃除したい!」とその到着を心待ちにした。一度に注文すればいいものを、宅配業者泣かせの買い方をしたものである。宅配業者さん、ごめんなさい。いつもありがとうございます。
翌朝、宅配ボックスに届いたミニハタキを開封し、早速フェイクグリーンを掃除する。
ついでにフェイクグリーンの周りも掃除した。
私は面倒くさがり屋で、家事をサボる頻度が高い。家具にハタキをかけることもたまにしかなかったのに、フェイクグリーンが届いてからは、マメにハタキをかけるようになった。ついでに掃除機をかける頻度も増えた。
今では「掃除もなかなか悪くないではないか」なんて思っている。
今、私はキレイに掃除されたPCデスクでPCのキーボードを叩き、この日記を書いている。
視界に入る小物入れ、モニタ、、スピーカー、デスク、キーボード、マウス、マウスパッド、そしてアイビーのフェイクグリーンはピカピカである。フェイクグリーンが良いアクセントになっている。キーボードを叩くのとモニタを見つめるのに疲れたらフェイクグリーンを眺めれば良い。緑が目に優しいのは昔から言われている。
実に心地よい光景である。気分が良い。
ソファに座れば、テレビの前のガラステーブルに置かれたフェイクのポトスが目に入る。テレビでYouTubeを見る時も、ソファでコーヒーを飲みながらぼーっとしている時も、豊かに茂ったポトス(偽物)が私をリラックスさせてくれる。
トイレに行けばモンステラ(偽物)が待っている。用を足すだけだった空間が、緑に癒やされる憩いの場所になった。フェイクだけど。
本物の観葉植物ではないのに、フェイクグリーンの存在は私の心のQOLを爆上げさせた。緑があるだけでこんなに違うものなのかと自分でも驚いている。
お手入れはハタキをかけるだけ。水やり不要、虫もわかない。癒し効果は本物並み(たぶん)。
部屋に緑が欲しいけど観葉植物の管理は自信がないというそこのあなた。
フェイクグリーン、フェイクグリーンですよ。