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黒猫ツバキと風の精霊

登場キャラ紹介

・コンデッサ……ボロノナーレ王国に住む、有能な魔女。20代。赤い髪の美人さん。

・ツバキ……コンデッサの使い魔。言葉を話せる、メスの黒猫。まだ成猫ではない。ツッコミが鋭い。


※今話のお題は「春一番(はるいちばん)」です。

 本作のキャラ達が住んでいるボロノナーレ王国にも、現代の日本と同様に、春一番は吹きます! ……そうなっています~!



ツバキ「春一番って、初鯛(はつだい)とか初鰹(はつがつお)とか初ホタルイカの事じゃないのかニャ?」

 ボロノナーレ王国に、春が来た!

 王国の端っこにあるペンペン村に、春一番が吹く。


 春一番とは……春先に南から吹く、暖かい強風のことである。春一番があった日は気温が上昇し、王国の人々は〝冬の終わりと、春の到来〟を実感するのが毎年の常なのだが――


 その年の春一番は、例年と違った。


 ペンペン村に住む魔女コンデッサと、彼女の使い魔である黒猫のツバキは、驚いた。


「今年の春一番は、おかしいぞ。いくらなんでも、風の勢いが強すぎる!」

「ニャ~! まるで台風みたいニャン!」

「『強風』というより、これは、もはや『暴風』だな。ツバキ! 飛ばされないように、何かモノにつかまっていろ!」

「ご主人様!」


 ツバキはヒシッ! とコンデッサに、しがみつく。


「私はモノじゃ無いぞ。……まぁ、別に私に引っ付いていても、構わないけどな」



 数日後。

 コンデッサとツバキは、村の中を散歩した。


「春一番が強風すぎたので、村のアチラコチラが荒れた印象になっているな」

「今年の春一番は、困ったさんだったのニャ。村の皆が、迷惑したのニャ」

「人的被害や、物的被害が無かったのは、幸いだったが……」


 と。

 道ばたに、10歳くらいの少女がしゃがみ込んでいる。うつむいていて、ションボリした様子だ。


「ご主人様。あの女にょ子……」

「ああ。身体が半透明で、しかも少し地面から浮いている」

「幽霊さんかニャ?」

「いや。おそらくは……」


 コンデッサとツバキは、少女へ優しく声をかけた。


「お嬢さん。どうしたのかな?」

「……あ。魔女さんと猫さん。あたし、風の大精霊様に怒られちゃったの」

「大精霊様? つまり、キミは――」

「あたしは、風の精霊。今年、ついに念願だった《春一番の担当》に選ばれたわ」


「ニャン? だったら、あにょ台風みたいな春一番を吹かせたにょは……」

「あたし。『素敵な春一番にしなくちゃ!』と張り切り過ぎちゃった」

「ふむ。なるほど」


「春一番だからこそ『あたしがつくることが出来る、一番に強い風を!』と思ったんだけど」

「春一番の〝一番〟は、そういう意味じゃないニャン」


「失敗しちゃった。春一番を吹かせて以降、風の精霊みんなからの、あたしへの()当たりが強いの。皆は風の精霊なだけに!」

「…………」

「……ニャン」


「それで、風の大精霊様にも『強風といっても、限度がある。加減を考えろ』と叱られて――」

「風の大精霊様の言うとおりだと、アタシも思うニャン」

「大精霊様は、あたしに『今年の春は、お前はもう出番なしだ。そして夏は寒風、秋は無風、冬は暖風の担当となるように』とキツく(おっしゃ)った」


「それは……実質的に、風の精霊としてのキミの出番は、一年中なくなったってことなのかな?」

「夏に寒風は吹かないし。もちろん、冬に暖風も。秋は無風の担当で……人生が逆()まみれになっちゃった! あたしは風の精霊なのに!」


 (なげ)く精霊の少女へ、コンデッサが言う。


「キミは精霊だから『()生』では無くて『()生』か『()生』という表現のほうが、適当だと思う」

「ご主人様。ツッコミを入れるべきところは、そこじゃ無いニャン」



 更に数日後。


 またまた村の中を散歩していたコンデッサとツバキは、その途中で再び、風の精霊の少女と出会った。

 精霊の少女は前回に話をしたときとは打って変わって、元気になっている。


「魔女さんと猫さん!」

「キミは、この前に会った風の精霊か。元気そうだな」

「ニャニか、嬉しいことでもあったニョ?」


「そうなの! 聞いて! 風の大精霊様が、あたしに『反省したか? 風を吹かせるときは、調整を間違えるな。今年、お前は春夏秋冬、微風(びふう)の担当になれ。しっかりとやるように』と仰ってくださったの。これで一年中、働けるわ!」

「良かったな」

「おめでとうさんニャなのにゃ」


「人生が追い()でいっぱいよ。あたしは風の精霊なので!」

「キミは精霊だから『人生』では無くて『精生』か『霊生』……」

「ご主人様。ツッコミを入れるべきところは、そこじゃ無いニャン」


「あたし、頑張る。まずは春の間はズッと、人様(ひとさま)(ほお)を張るような風を送り続けることにする」

「イヤイヤイヤ! 人の頬を張っては……ビンタしたら、ダメだ! そこは人の頬を()でるような風にしなさい」


 コンデッサの言葉を聞いて、精霊の少女が不満そうな顔になる。


「今は、せっかくの〝ハル〟なのに」

「ハルは『春』であって『張る』では無いぞ」

「〝ハル〟違いニャン」


「風の大精霊様のご期待に応えるためにも、あたしは全力を尽くさなくちゃいけないの!」

「キミが担当するのは微風なんだから、あまり張り切りすぎないほうが良い。もっと、肩の力を抜くことを勧めるよ」

「ううん! 肩で()を切る勢いで、働くわ。あたしは風の精霊だし!」


「こら!」

「な、なに? 魔女さん」

「少しは、私の話も聞きなさい。微風とは〝そよ風〟のことなんだよ。分かってる?」

「えっと……そよ風……そよ風……どんな感じの風を吹かせるのが、最適なのかな?」


 考え込む精霊の少女に、ツバキがアドバイスする。


「そよ風である以上は『そよそよ』と吹かせるべきだと、アタシは思うニャン」

「分かったわ。『そよそよ』ね。任せて!」


 自信満々に答える精霊の少女を、コンデッサとツバキはジッと見つめた。


「本当に分かっているのか? 不安だ」

「微風を担当するには、元気すぎる精霊さんだニャン」



 その年

 春も夏も秋も冬も

 ボロノナーレ王国では、微風が


 そよ!

 そよ!

 そよ!


 ……と吹いた。


 コンデッサとツバキは屋外(おくがい)で微風にあたり、顔を見合わせた。


「確かに微風で……そよ風であることに、間違いは無い。間違いは無いんだけれども……」

「ニャン」

「なんか、勢いや感触が微妙だな。微風なだけに」

「あにょ、風の精霊さん。やっぱり、張り切りすぎちゃってるのかニャ?」


「ツバキ」

「にゃに?」


「……出来れば私の発言――()風と()妙の〝微〟の重なりに、ツッコミを入れて欲しかったんだが」

「ご主人様のボケが〝微妙〟だから、アタシがスルーするのも仕方ないのニャ」

「使い魔が厳しい……」

「アタシはご主人様を甘やかさない、賢い使い魔なのニャン」


 コンデッサとツバキは、今年も順()満帆――とっても仲良しです!



♢解説


 ツバキが「ご主人様。ツッコミを入れるべきところは、そこじゃ無いニャン」と言っているのは『逆風や追い風が吹く事態になっているのと、発言主が風の精霊であることには、何の関係もない』な点にこそ、コンデッサはツッコミを入れるべきだ……という意味です(一応、念のため)。

ツバキ「初タケノコも美味しいのにゃ」

コンデッサ「ツバキにとっての〝春一番〟は、食べ物ばっかりだな……」



 次話のお題は「記念写真」です。

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― 新着の感想 ―
村のアチラコチラが荒れた印象になっている事からも、台風並みの春一番の凄さが伝わりますね。 桜を始めとする春ならではの花が散ってしまっていないか、ちよっと気掛かりになりますね。
実家のような安心感( ˘ω˘ )
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