邂逅
孝則と翔太郎は、我に返ると盛大な拍手を聞いた。
壁のように感じた衝撃は、二人の間に割って入ったレフェリーだった。いつの間にか終了のゴングが鳴っていたらしい。
(終わったのか・・・)
二人はまだ実感がわかない。
実感がわかないまま、整列し、ドローの宣言とともに手を上げられ、一礼し、盛大な拍手を受けた。
そしてリングを降りる。
会場はまだ熱気の余熱が残っているが、リングは次のスパーリングが間も無く開始される所だった。
下川翔太郎目当てとおぼしき観客達も、試合後に席を立つ者は誰もいない。
孝則と翔太郎は壁際のベンチに腰掛け、受け取ったスポーツドリンクで給水をする。
さっきまで激闘していた二人が並んで座る。公式戦ではありえない光景に、ようやくこれがスパーリング大会だったという認識が戻って来た。
普通なら、互いの健闘を称え合い、反省点などを語り合う場面だ。
(しかし、なんと言ったものか。。。)
孝則は考える。
向こうはどう思っているのだろう?やっぱり下手だと思っただろうな。
最後の打ち合いは、なんで応じたのだろう?オレの連打なんて、楽勝で捌けるのだろうか?
(やっぱり効いてないのかな?)
翔太郎は考えた。
あの右カウンターは確かに手応えがあった。しかし孝則は止まらなかった。オレは小手先だけだと思われたかな?
必死で応じた最後の打ち合いはどうだったんだろう?やっぱり軽かったかな?
二人は同時にゴクリと音を立ててドリンクを飲んだ。
そして同時に口を開いた。
「少し聞いていいか?」
「少し聞いていいですか?」
ー了ー
お読み頂きありがとうございます。
今回の公式企画は「学校」ということで、テーマが広く、色々悩んだ結果、王道の部活スポ根を書いてみようと思いました。
とはいえ、モチーフは相当古いですけどね(^^;
実在人物の名前はどこまで書いていいものか分からず、一応本文中はニックネームに止めておりますが、オールドファンにはすぐ分かるかと思います。
孝則はファイティング原田さん、翔太郎はシュガーレイレナードをリスペクトしているという設定です。