表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
車窓の海、揺られる君と。  作者: びすけ
「私は、この世界を愛したいっ!!」
40/42

39.端っこ。

 夕焼けが海面を照らしている。


 車窓に映る光が、水面で砕けて輝く。

 波は赤と青が混ざって、地平線は紫っぽい帯に伸びている。


 今日は美術部の準備が長引いて、いつもの電車に乗れなかった。


 先輩と会えなかった。


 展示会まであと二日。緊張で胸がドキドキする。


 私の絵、伝わるかな。


 車窓から見える海と、窓に映る私の孤独。


 毎日同じ景色なのに、表情がどこか少しずつ変わっていく。


 そんな変わりゆく情景に、今はたった1人。

 私に見える目の前にポッカリ空いた白紙に、みんなだったら何を思い描くんだろう。


 彼なら、きっと。

 "暁"先輩だけは、私にも分からない、この心の靄を読み取ってくれるはず。


 そんな淡い希望が、胸の奥でほんのり灯っている。


 いつも1人になると、東京でのことを思い出す。

 揺れる車体。照らす太陽。晒される私の身体。


 ヒカリばかりに身を包まれ、私は目を瞑った。




────




 春だ春だ!


 散り際、桜の花弁が舞っている。


 親の転勤で田舎から飛び出した。

 東京の中学校の門をくぐった瞬間を忘れない。


 宮間(みやま) (あや)


 私は新しい制服に袖を通しながら、鏡の中の自分に向かって小さく頷いた。


──普通の中学生に。


 目の前のものが全部が輝いて見える。


 心の中で歓びを叫びながら、私は校舎を見上げた。


 辺鄙な田舎の小・中学校より断然大きくて、綺麗な窓がキラキラ光っている。


 靴箱で上履きに履き替えて、教室を探す。


 扉を開けると、まだ誰もいない教室。机と椅子がきれいに並んでいる。

 歓迎の黒板が使い古された白墨と朝の光との濃淡を現した。


 6列、30席程ある中から「ま」行を探しては自分の席を探す。


 私は窓際から2列目、後ろから2番目。


 席に座って左を見ると、桜の木。

 花弁がひらひら舞う。まるで雪のよう。


 カバンからスケッチブックを取り出して、さっそく桜を描き始めた。


──ピンクと白が混ざった花びらを表現するには......薄いピンクに少し白を混ぜて......。


 そうして早く来すぎた私のひとりの時間を潰す。


 扉の向こうから声が聞こえる。

 クラスメイトがぞろぞろ入ってきた。


 元々友達であろう人たち。1人で何かをしている様子の人たち。自己紹介をしている人たち。


 クラスが賑わったり、時に静寂が訪れたり。


 私は恐る恐る顔色を覗く。


 みんな、ちょっぴり顔が硬い。


──私は大丈夫。別に人見知りしない。


 そんな中、前の席に女の子が座った。茶色い髪をおさげにしていて、すごく真面目そう。

 本を大事そうに抱えてる。


 私も……!と、無意識につんつんと肩をつつく。


「お......はよう......?私、宮間彩、よっ、よろしくね……」


 自分でも恐ろしい程にたどたどしい声。

 だんだん恥ずかしくなって、小さくなる。


 その子はびっくりしたように目を丸くした。本をぎゅっと抱きしめて、顔が真っ赤になる。


「あ、え、あの......」


 声が小さくて、蚊の鳴く声で喋り出す。


「えと、名前、とか?」


「あっ、えと、保科(ほしな)......です......」


「保科さん……!下の、名前は?」


「なっ......奈月(なつき)です......!」


「……なつきちゃん!素敵な名前〜!月って字がついてるなんて、なんだか神秘的!」


 なつきは後ろを向いたりそっぽを向いたりとモジモジしながら、でも小さく微笑んでくれた。


 私の方をしっかり見ると、すぐにスケッチブックに視線が行くのが分かった。


 つられるようにして私も手元に目を向ける。


「あ、私、絵を描いてたの!窓外の桜がきれいだから!」


 スケッチブックを見せると、なつきの目がパッと輝いた。


「すごい......上手......」


「あ、ありがとう……!なつきも絵、好き?」


「あ、えっと......好きです......!でも上手じゃなくて......」


「……絵は上手い下手じゃないよっ!」


「そうかな......」


 なつきは恥ずかしそうに首を傾げた。

 その時、抱えてた本が見える。


「それ、何の本?」


「あ、これは......小説で......」


「本、好きなの?」


「うん......!字を読むの好きで......。それと、書くのも好きだよ......!手紙とか......」


「手紙?」


 話題が見つかったのか、たどたどしかった感じから一変。


「……あっ、えっとね!私、お手紙を書くのが好きで......!」


「わぁ!お手紙書くの好きなんだっ!」


「そうなの!」


「へぇ〜、私なんて字下手だし、手紙なんてそもそも書いたことないかも」


「こんなに絵が綺麗なら……字が下手なんて、そんなことないと思うな......!」


「そうかな?」


 私は少し誇らしげに照れる。


「……友達……でいいのかな……?」


 なつきは小さく呟く。

 その言葉に、私は大きく目を見開く。


「うん!私、友達できて嬉しい!」


 2人でくすくす笑い合う。


「……じゃあ、宮間さ......」


「彩でいいよっ!ねっ!なつき!」


「ん、うん!……よろしくね!彩!」


 私はスケッチブックを強く握った。

 始業のチャイムが鳴る。

お久しぶりです。

とうとう専門学生になりました。

勉強は難しいですね……。

本格的に不定期更新になりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ