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車窓の海、揺られる君と。  作者: びすけ
夏至、梅雨、夏中。
4/40

3.雨音、放課後アタラクシア

 梅雨の足音が近づく季節。

 鉛色の空が、いつもの夕暮れを覆い隠していた。


 曇天の向こう側は灼灼と燃える太陽。

 その存在を示すかのように雲の合間から顔を覗かせる。


 車窓を伝う雨粒が、まるで涙のように流れ落ちる。


 今日は少し早めの電車に乗り込んだ僕は、袖仕切りに頬を寄せながら雨音に耳を傾けていた。


『次は〜「浜名台」〜……』


 ホームには濡れた傘が一輪咲く。

 その中に見覚えのあるシルエット。


「あれっ、今日は早かったんだ!」


 少女はそう言いながら少し驚いた様子で乗り込んでくる。

 髪の先から雫が零れ落ち、制服の裾は雨に濡れていた。


「傘、小さいんだね」


「あはは。朝は小降りだったから、これで十分だと思ったんだけどね......」


 申し訳なさそうに微笑む少女は、持っていた折り畳み傘を軽く振る。


「でもね、雨の日の電車も素敵だと思うの」


 そう言って座ると、少女は外を見つめる。


「見て。窓の向こう。水彩画みたい」


 確かに、雨に霞んだ景色は不思議な美しさを湛えていた。


 海と空の境界線が曖昧になり、世界が優しく溶け合っているように見える。


「それに雨音も、音楽みたいでしょ?」


 そう言って少女は目を閉じ、耳を澄ます。

 真似るように、僕も。


 車輪の音に混じる雨音。

 窓を打つ雨粒のリズム。


 それは確かに、誰かが奏でる優しい調べのようだった。


「ん......」


 ふと、少女が呟く。


「私ね、雨の日も好き。だって、雨って全部を洗い流してくれるから」

「学校で嫌なことがあっても、雨に濡れると少し気持ちが軽くなるの」


 少女は溶けるように表情(かお)を緩ます。


 雨音が静かに響く車内で、少女の言葉だけが心に染み入る。


『次は〜「東立日」〜……』


 不意に少女の終着点を告げる。

 少女は傘を手に取り、立ち上がる。


「またね。明日は晴れるかな」


 そう言って傘を咲かせて去っていく後ろ姿を、僕は黙って見送った。


 窓の外では雨が降り続けている。


 明日はきっと、また違う景色が見られるだろう。

 そう思いながら、僕はまた静かに目を閉じた。

 「灼灼」って、太陽以外にお花にも使える表現なんですよ。

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