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車窓の海、揺られる君と。  作者: びすけ
夏至、梅雨、夏中。
35/42

34.バック・グラウンド

 八月の半ばを過ぎた夕暮れ。


 海岸線に沿って走る電車の窓から、燃える空が見える。


 汗ばむ風が車窓から流れ込み、夏の終わりがまだ遠いことを突き付ける。


『次は〜「浜名台」〜……』


 アナウンスと共に電車が減速し、ドアが開くと少女が飛び込んできた。


「はぁ......はぁ......間に合った」


 少し息を切らした様子で隣に座る。


 制服の襟元が汗で濡れている。


「また走ってきたの?」


「うん......!でも今日は走りたい気分だったかも?」


 少女は大きく息を吐き、窓の外を見た。

 夕陽が少女の横顔を優しく照らしている。


「そーいえば、今日ね、面白いもの見つけたんだ〜」


 少女はカバンをごそごそと探り、小さな貝殻を取り出した。


「ほら、見て。二枚貝なんだけど、ハートの形に見えない?」


 白い貝殻は、少し欠けたハートのような形をしていた。


「海岸まで行ったの?」


「うん。学校の帰り道。ちょっとね」


 少女は貝殻を光に透かして見せる。

 半透明の表面が虹色に輝いていた。


 ただ、ボロボロの裏面に欠けた縁は貝殻の物語を伝う。


「きれいだね」


「でしょ?自然ってすごいよね」


 その言葉は、いつもの少女らしい。


 小さな美しさに気づく、繊細な感性。


 窓の外では、夕陽がゆっくりと水平線に近づいていく。


 光が海面を踊らせている。


 その光景を少女は少し物思いに耽るように見つめていた。


「そういえば......」


 少女の声が少し沈んだ気がした。


「コンクールの作品、期限ギリギリになりそう」


「……あと何日あるの?」


「来週の月曜日まで......」


 少女はため息をついた。

 その表情には焦りと期待が混ざっていた。


「でも、いい感じに仕上がってきてるの。あとは細部の調整だけなんだけど......」


「……間に合いそ?」


「うーん......わからない」


 少女は両手で頬を挟み、少し困ったような表情を見せる。


「明日も部活あるから、そこで最後の仕上げをしたいんだけど......」


「先生には見てもらえないの?」


「ん〜、見てもらえるけど、先生、明日は午前中しかいないから時間が足りるか心配で......」


 夏の終わりに向けて、一つの挑戦。


「大丈夫。きっと間に合うって」


 僕の言葉に、少女は小さく微笑んだ。


「ありがと......なんか、そう言ってもらえると頑張れる気がする」


 車窓の外、変わっていく空。

 橙から紫へ、そして藍色へ。


「あのね。作品、すごく気に入ってるの……」

「うん......!今までで一番かもっ!」


 確信を持った、そんな少女の声。


 少女の頬がほんのり赤くなる。


「でも......なんていうか......」


 少女は言葉を探すように、車窓に映る空を見上げる。


「完成させるのが少し寂しいような......へへっ、ちょっと、不思議な気持ち」


 創作の喜びと別れの寂しさ──

 少女はそんな複雑な思いを吐く。


 そんな少女の表情は、を感じさせない。

 詠めない少女の腹の底。


「……でも、一から描き直して、良かったって思えたよ」


「……そ」


「……絶対に間に合わせるっ」


 少女は握り拳を作って見せた。

 その仕草には、少女なりの強さがあった。


『次は〜「東立日」〜……』


 アナウンスが車内に響く。

 少女は名残惜しそうに立ち上がる。


 僕と向かい合わせ。


「じゃあね、また明日」


「うん、またここで」


 ドアが開き、少女の姿は焔へ。


 残された車内には、二人の会話の余韻だけが漂う。

 明日は入学式。

 ドキドキです。

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