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車窓の海、揺られる君と。  作者: びすけ
夏至、梅雨、夏中。
3/40

2.夕空、またいっしょ

 今日もまた。


 海岸線に沿って走る電車の窓から、どこまでも続く水平線が見える。


 いつもの時間、いつもの車両。


『次は〜「浜名台」〜……』


 そして、いつもの停車駅。

 そこには昨日の少女の姿。


「やっほ。今日は走らなくて済んだね」


 息を切らさず乗り込んでくる少女に、座ったまま思わず声をかける。


「うん!今日は早く片付けられたの」


 制服の胸ポケットから、絵筆の穂先が覗いている。

 きっと今日も美術室で過ごしていたのだろう。


「あのね、今日ね、美術室で面白いことがあったの!」


 そう言うと隣に腰かける。

 少女は目を輝かせながら話し始めた。


「部長が新しい絵の具セットを買ってきてくれたんだけど、開け方が分からなくて。みんなでワイワイ言いながら四苦八苦してたの」


「結局開いたの?」


「うん!でもね、開けた瞬間に絵の具が飛び出して、部長の白いエプロンが虹色になっちゃった」


 くすくすと笑う少女の表情が、夕陽に照らされ優しく火照っている。


「そうそう、今日の給食もすごかったの。えと、じゃーちゃんどーふ?だったんだけど、なんかすっごく辛くて。となりのクラスの子なんて、泣きながら食べてたらしい」


「そんなに辛かったの?」


「うん!でも私、辛いの得意だから平気だったんだ♪」


 得意げに胸を張る仕草が、どこか愛らしい。


「あ、それに駅前にね、三毛猫がいたの。すっごくふわふわで可愛くてね......」


 話す度に手振りが大きくなる。

 嬉しそうに語る姿に、自然と頬が緩む。


「でもね、近づこうとしたら逃げちゃった。明日も同じ場所にいるかなぁ」


「明日も見に行くの?」


「うん!できれば撫でたいな......」


 少女は遠く海を見つめる。

 そしてまた話し始めた。


「私ね、動物大好きなの。家で犬飼ってるんだけど、すっごい甘えんぼさんなんだよ?」


 一つ一つの言葉が、夕暮れの車内に温かな空気を運んでくる。

 それは、まるで誰かの心を少しずつ溶かしていくような。


 窓の外では、オレンジ色の光が海面を染めていく。

 その光の中で、少女の言葉は優しく響き続けた。


「......って、私ばっかり喋ってごめんね」


 ふと気付いたように言う少女に、首を振る僕。


「いいよ。聞くの、好きだから」


 そう言って遠くを見つめる僕の顔を少女は覗き込む。


「そう?じゃあ......もっと話していい?」


 無邪気な笑顔に、どこか安堵を覚える。


「うん。」


 遠くを見つめて見えた景色は、夕陽が雲間から漏れ出す光の帯を作っていた。

 まるで天使の梯子のように、海面まで届いている。


「わぁ......きれい......」


 少女の声に、また僕も車窓に目を凝らす。

 確かに、今日の夕陽は特別だった。


『次は〜「東立日」〜……』


 いつもの駅名が響く。

 少女は慌てて立ち上がる。


「またね!」


 少女は下車し、ドアが閉まる。

 足音は車輪の音に消されていった。


 残された車内で、僕は窓に映る自分の顔を見つめる。


 少女の姿は、もう見えない。


 でも明日も、この車両で会えるのかな。


 夕焼けは徐々に色を失い、闇が迫ってくる。

 今日も、また一日が終わる。

 後書き、始めました。

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