20.僕らの通信簿
真夏の陽炎が揺らめく日。
とうとう明日から夏休み。
鞄には、一学期を綴った通知表が入っている。
珍しく電車の冷房が効いている。
冷風が、僕らを夏から隔てる境界線のようだった。
日は未だ高い。
外はまだ、赤く染っていない。
『次は〜「浜名台」〜……』
手で扇いでいる少女。
「あっついねぇ...」
髪を揺らしながら乗り込んでくる少女は、額の汗を拭っていた。
「ホームにいる間だけで、溶けちゃいそう......」
足をバタつかせながら言う。
「今日珍しく、冷房効いてるんだねぇ」
不思議そうに天井を見上げた。
「んね」
「そういえばさ、夏休みの予定は?」
少女は窓の外を見ながら尋ねる。
その瞳に映る海は、どこまでも青く、深かった。
「部活以外、特に......ないかな」
「そうなんだ!」
「そっちは?」
「……私はね、今度おばあちゃんの家に行くの。山の方なんだ」
少女の肩までない髪が、首を傾げる度にコロリと揺れる。
まるで風鈴の音色が、形になったかのよう。
「この電車には乗れなくなるね、その間」
「そうなんだよね......」
少女の言葉に、なぜか胸が締め付けられる感覚。
「でも、またすぐ会えるよ!それに大丈夫!写生できる場所がいっぱいあるから、山の景色も描いてくるね!」
笑顔は、夏の太陽のように眩しい。
でもどこか、翳るような印象を与えるのはなんだろう。
勘繰るには、互いを知らな過ぎる。
窓の外では、海が夏の光を反射して、まばゆく輝いていた。
もうすぐ日が暮れる。
「……あのさ、」
「ん?」
「学校って、あそこの私立でしょ」
私立昭和中学校。
ここら辺だと、中学校にしては難関校で有名な私立中学校だ。
驚いたように、目を見開く少女。
流石に急過ぎた......いや、学校特定なんて少し気持ちが悪いか。
「えっ!よく分かったね!って、制服だから流石に分かっちゃうか」
制服を摘みながら、感心して笑う。
「それで言うと……そっちは、東高?」
少女は僕の制服のエンブレムを指差して言う。
「東高って運動部も文化部も強いよね〜」
少女は横目で僕を見る。
「……だからこそ、なんで文藝辞めちゃったか、気になるんだよなぁ」
呆然と海を眺める僕の横で、「次は君の番」と詰めるような好奇心を感じる。
『次は〜「東立日」〜……』
勢いよく駅のホームに滑り込む車両。
夕陽が照らす時計台、5時半過ぎを指し示す時計の針。
「じゃあねっ!」
忙しなく外に駆けていく少女。
遂に、夏休みだ。
夏休みお盆休み、皆さんは如何お過ごしですか。




