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車窓の海、揺られる君と。  作者: びすけ
夏至、梅雨、夏中。
2/40

1.車輪は時を刻むように

 降り注ぐ夕陽が線路を赤く染める頃、誰もいない車両に乗り込んだ。


 通学用のカバンを網棚に放り投げ、ドア際の席に腰を下ろす。


 水面に映る夕暮れの光が、波のように揺らめいていた。


『次は〜「浜名台」〜……』


 ふと、駅のホームに人影が見えた。

 着崩れた制服姿の少女が、小走りで電車に駆け込んでくる。


「はぁ......はぁ......間に合った......」


 彼女は息を切らしながら、その場にへたり込む。


「……だ、大丈夫?」


 思わず立ち上がる僕の差し伸べた手を掴む少女。

 髪の毛が少し乱れている。


「だ、大丈夫......!ありがとう......!」


 涼し気な表情をみせる。


 息を落ち着かせ、席に座る少女。

 その隣にさりげなく座る僕。


「……走ってきたの?」


 思わず口をついて出た言葉に、少女はニッコリと笑顔を見せると頷いた。


「あっ、美術部の片付けが長引いちゃって......。でも、この電車に乗りたかったから」


「この電車に?」


「うん。この時間の景色が好きだから」


 彼女は窓の外を見つめる。

 夕陽に照らされた横顔が、淡く輝いていた。


「私ね、春からずっとこの電車に乗ってるの。誰もいない車両で、ただ海を見てた」


「へぇ......」


 少女が見つめる先は地平線まで続く海。


「でも今は違う。お隣に喋り相手がいるもんね」


 少女は少し照れくさそうに微笑んだ。


 車窓の外では、変わることの無い景色。


 ただ、歯切れのいい走行音と共に夕陽はじわじわと沈みゆくのみ。

 しかし、それは時間の流れを現す様。


 カタンカタンと響く車輪の音。

 潮風に揺られる車内広告。

 沈んで行く太陽。


 そして、隣で静かに息づく誰か。


 ぼんやりとしているうちに何駅過ぎたのだろう。

 もうすぐ日が落ち切る。


『次は〜「東立日」〜……』


 車内アナウンスと共に少女は立ち上がった。

 ドアが開く。


「じゃあ、私ここだから!じゃあねっ!」


 電車とホームの間を軽快に飛び越える。

 すぐに電車はまた動き出す。


 見送った手は逆振り子の動きを止める。

 静かにドア際に席を詰めては、薄暗い車内で1人ぽつりと呟く。


「……次の駅で降りなきゃ。」


 今後も全ての題名に、意味はあるんですよ。

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