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車窓の海、揺られる君と。  作者: びすけ
夏至、梅雨、夏中。
10/42

9.ノスタルジー、一つの学び舎

 梅雨前線が停滞する空の下、車両に揺られる。


 梅雨明けは、まだ遠いのだろうか。


 手には単語帳。


 外を見たことがなかった単語帳は、湿気でしっとりと、1ページごとの重さを実感させる。


『次は〜「浜名台」〜……』


 ホームに佇む少女の手には、分厚い教科書が抱えられている。


「はぁ......」


 乗り込むなり溜息をつく少女は、そのまま隣の席に崩れるように座った。


「勉強、大変?」


「うん......英語の過去分詞が全然覚えられなくて......」


 教科書を開く指先が、少し震えている。

 きっと放課後も机に向かっていたのだろう。


「write, wrote, written......see, saw, seen......」


 リズム良く発音の良い英単語。

 車内に木霊する。


 車窓の外では、重たい雲が海を灰色に染めていた。


「あれ?その教科書......」


 不意に視線を感じたのか、少女は顔を上げる。


「ん?これ?中学三年の教科書だよ」


 去年にも見た事のある表紙に物懐かしさを覺える。


「あ、いや。僕も同じの使ってたなって」


「じゃあ、久しぶりに見てみる?」


 差し出された教科書には、懐かしい例文と問題が並んでいた。

 去年の自分も、同じように苦心していたような。


 教科書の余白には、びっしりとメモと簡単な絵が書き込まれていた。


 自然と頬が緩む。


「私はこっち見る!」


 僕の片手に収まっていた単語帳に手を伸ばす少女。

 なるがまま、少女の手に渡る。


 手に取るなり可愛らしい、しかめっ面になる。


 ページをめくる。

 次第にその表情は今にも悲鳴を上げそうになる。


 読むのを諦めたのか、僕の左腕へ両手をのせる。

 猫のように覗き込む少女。


「あっ!この問題分かる?」


 僕を見上げる少女の目が、真剣な光を宿している。


「この関係代名詞のところが...」


 話しながら少女は体勢を整え、熱心にノートを開く。


 筆圧で揺れるノートは、僕の腿をくすぐる。


 空調が効かないこの蒸し暑い車内。

 少女の頬に光る汗、少女は気にしない。


 海は相変わらず灰色に沈んでいる。

 少女の瞳は不思議と輝いていた。


『次は〜「東立日」〜……』


「よしっ!今日は家でも頑張るっ!」


 駆け出していく後ろ姿に、声をかける。


「……頑張れ」


 振り返った少女は、満面の笑顔で手を振った。

 背景の曇り、荒れた海も気にならない。


 無情にも走り出す電車。


 しかし、不思議と車窓に映る僕の口角は上がっている。


 さて、この梅雨はいつ明けるのだろうか。

 わたくしの英語の教科書、NEW CROWN さんです。

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