プロローグ
とある年のお盆。彼──色坂 綾人は彼の友人らの墓の前に呆然と立っていた。彼だけではない。彼の友人、もといクラスメイトであった彼女も同時期にここを訪れていた。亡くなった彼らの友人の両親は毎年来るたびに何度も優しくしてくれた。むしろ悪いのはこちら側だ、そう何度も言っているのだが。
「本当に長い時間が経ったな」
どことなくしみじみとした様子で綾人は言う。
「そうね……あれから──もう十年も経っているのね」
彼女──伊佐 玲美はふと彼を見た。身長は高校一年生の時より高くなっていて、だが昔からの目もとの鋭さは変わっていない。綾人はあの時、あの事件以来塞ぎ込むようになったが、今では弁護士になっていた。対する玲美は警察だ。だが、今も後悔は消えない。どんな償いをしたって消えることのない傷。
「なんというか‥‥‥こんなこと言うのもあれだけど、なんだか少しだけ懐かしい」
「でも、そのせいで私たちの高校生活は完全に無駄になった」
「まあそうだね。彼があんなことを計画、実行していなかったらこうはならなかったよな」
「‥‥‥」
二人間に沈黙が生まれる。途端に彼女が疲れ切った顔を見せる。
「‥‥‥ダメね。毎年ここに来ると必ずあの時を思い出しちゃう」
「玲美、俺もだ。一回割り切ったはずのものが次々に湧いて出てきちまう」
「‥‥‥あの時の俺たちの行動、間違ってなかったよな」
ふと独り言のようにそんな言葉が綾人の口からこぼれ出た。
「多分ね。あれが私たちが彼らにできる最大限のことだったと思う」
「そうか‥…‥そうだな。ここで悔やんでも奴らは喜んでくれないよな」
「って言っても、そう簡単に割り切れないよね」
夜の闇が濃くなる。まるで自分たちの過去が後ろから襲ってきているかのように。
「そういえば、玲美も今日はここに泊まるんだったよな」
なんでこんなことを言ったのかわからない。だが、何か言わなければ自分の中の恐怖が暴れ出してしまいそうだった。
「ええ、もう毎年のことでしょ。あの人たちが構わないっていうから毎回お世話になっているけど」
「とりあえず家に戻ろっか」
そう言って二人で友人の家にお邪魔になった。
***
「これ、本当に美味しいです」
「あらそう?玲美ちゃんがそんなこと言うからまた張り切っちゃう。それに‥‥‥」
ふと目を仏壇の方に向ける。その目はどこか寂しそうだ。
「あの子──和哉も喜んでいるはずよ」
綾人と玲美の二人が気まずそうに和哉の母親から目を無意識的に逸らす。
『次のニュースです。今朝、長らく例の連続殺人事件で裁判中だった榎本 慎二被告に有罪判決が下り、事実上無期懲役となることが決定しました。彼は──』
その先は聞きたくなかったが、必然的に耳に入ってきた。
「彼、ようやく有罪判決になったのね」
「ええ、私もこの事件の動向を追っていました」
「そう‥‥‥長かったわね。これで和哉もきっと‥‥‥」
最後まで言葉を発せずに母親は泣き出してしまった。
「でも、毎年必ずここにきます、いや来させてください」
綾人はさっきのニュースを聞いて憤りを隠せなくなっていた。柄にもなく、少し頭に血が昇ってしまった。あの事件、それは結果的にすごく残酷だった。
お読みいただきありがとうございました。これは私個人が無性に書きたくなって書いたものです。ぜひ、気楽に読んで頂けたら幸いです。この作品は別のとは違い、長くはしない予定ですのでご了承ください。