俺、生まれ変わったら【三輪車】になれてたんだけどさ…
……俺は、三輪車。
赤いボディに黒いサドル、取り外し可能な手押し棒付きの三輪車だ。
昔、俺は人間だった。
名前は忘れたが、子供好きだった。
何らかの事故で命を落としたとき、俺は願った。
「生まれ変わったら、三輪車になりたい」
そう願ったのには、理由がある。
俺は子供が大好きなのに、身近に子供がいなくて…思いっきり子供たちと一緒に遊べないフラストレーションがたまりまくっていたのだ。
子供向け番組を視聴して知識を蓄え、生の子供たちを見るために公園に出向き、子供を得るために婚活に精を出し、子供と縁遠いまま老いてしまった悲しみ、公園に放置されたまま朽ちていた三輪車を見た時の何とも言えないむなしさは…忘れられるはずもない。
進んで地域の子供事業の手伝いをしていた事と、子供のいない人が子供会の会長をやるなんておかしいと糾弾された事だけが、いつまでも心に残っていた。
願いが叶ったのだと喜んだ瞬間は、確かにあった。
だが、しかし。
―――よし、これにしよう!!
俺を購入したのは、新米のパパだった。
俺は願った。
「一刻も早く、生まれ変わりたい」
そう願ってしまうのは、当然である。
頭でっかちになっている新米パパは、子供は三輪車に乗って遊ぶのが当たり前だと思い込んでいて…嫌がっている息子を無理やり乗せては、しょっちゅう泣かせていたのだ。
およそ子供に向けるべき言葉ではない怒鳴り声と、泣き叫ぶ三歳児の涙とよだれがぼとぼとと降ってきて…地獄でしかない。
恐ろしい願いをしてしまった事と、願いが叶ってしまった事が、いつまでも心をえぐり続けた。
……願いが叶ってしまって、もう…どれくらい、たっただろう?
―――今日こそ公園を一周するんだ、出来るまで帰れないぞ!いいな!!
新米パパのスパルタにより…何とか俺を運転することができるようになった息子は、スポコン根性を真正面から突きつけられていた。
ゆっくり運転しては遅いと言われ、カーブで転んでひざから血を流して泣けば男のくせにと叱られ、息子が気の毒でならない。
俺は願った。
「もっと子供に寄り添ってやれよ」
そう願ったのには、理由があった。
初めての子供、しかも男の子と言う事で…新米パパは理想の父親像を押し付けることに躍起になっていて、子供の表情を見ようともしなかったのだ。
どんどん子供がパパ嫌いになっていくのに…全く気がついていない。
三輪車に乗りたくなくてごねる息子を…ウザイと思い始めている、愚かな父親。
……出来ない事を叱るのではなく出来たことを褒めろ、もっと子供の目を見て笑いかけるんだ
―――俺がダイ君に乗り方を伝授してやろうか?
子供がなかなか三輪車に乗りたがらない、このままでは陰キャに育ってしまうと愚痴をこぼしたら、子沢山で有名な上司がしゃしゃり出てきた。
ただでさえ苦手な父親よりもふた周りも大きい見知らぬおじさんにいきなり抱き上げられて固まった息子に、「この人の言うことを聞けばお前も楽しく三輪車を乗りこなすことができるようになるぞ」と、息巻く、新米パパ。
俺の願いも…むなしく。
まずはお手本を見せてあげようとおっさんが俺に乗車した瞬間、サドルがめきょっという音をたてて根元から折れ、バランスを崩した107キロの巨体が圧し掛かり、ハンドルが押しつぶされて、タイヤが取れた。
口角を上げて、喜んだ息子の、顔を…一瞬でも見られたから……、それで、良い…か……。
ああ、次に・・・生まれ変わったならば。
おれは・・・
・・・
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なお、2024/2月の投稿作品はすべて生まれ変わりをテーマにしています。
他にもおかしなモノに生まれ変わってしまった人のお話を書いているので、気が向いたら見てね!!
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