1、陰陽師、美少女配信者を救う
地獄。閻魔大王の右腕である鬼灯は冤罪を発見した。
「これは大変なことになったわね」
鬼灯は独り言を言うと、閻魔大王のところに行った。
「あー、早く次のアニメの放送日来ないかなー。七条君の八岐大蛇との対決早く見たいしー」
閻魔大王である女子高生は布団でごろごろしていた。獄卒がたくさんいるため、閻魔大王は暇なのだ。
「冤罪?」
首を傾げた女子高生は時間差で青くなる。
「はい。この者は陥れられたと思います」
鬼灯の言葉に閻魔大王は項垂れた。
「え、えーとそれはお可哀そうに。あー、そうよ。思い出した。あの蘆屋の男よね。うん、転生させましょう」
閻魔大王の言葉に鬼灯は深く頷く。
こうして男は生まれ変わることになった。かつて自らが育った蘆屋の家で赤ん坊として。
蘆屋和也は陰陽師である。ただし、自称だが。
「蘆屋君、こっちよ」
依頼人の佐久間陽子が高い声を上げた。かつて中学の先輩でもあった陽子は高校一年生になっている。かつて陽子はオカルト研究会の部長だった。今は和也が部長になっている。従って、先輩の依頼を断ることなどできない。
佐久間陽子の依頼は簡単だ。屋敷に住み着いた鬼を退治して欲しいとのことだ。
和也は冷静な目で辺りを見回す。妙だ。この家には幼少期から出入りしている。陽子はお嬢様なので大切に育てられてきた。クールで美人の黒髪清楚な先輩。
「先輩、一つ質問を」
「何かしら?」
「あなたの母親である瑞枝さんはどこですか」
「え……」
佐久間陽子は足を止める。
「とっくに死んだわよ。私を生んだ時に」
「地下に呪力を込めて封じてある。かつて佐久間瑞枝は俺の父ともに妖怪退治に励んだ。ただ一門はその力を恐れて、佐久間瑞枝を地下室に軟禁した。食事は娘の陽子が運んでいた。知らなかったのか?」
「……抜かったわ」
角を生やした陽子が殴りかかってきた。声は陽子のモノだ。
「先輩は殺したか」
「もう二日前にな。フフフ、最後まで小僧に助けを求めていたぞ」
「外道が」
呪符を飛ばすが、偽陽子は右拳で祓う。
「外道? 同胞を屠ってきた主らが言うか」
偽陽子はうすら笑いを浮かべた。
「良い。ここで殺してやろう。小僧」
障子を突き破って拳を放つ偽陽子。和也は部屋に転がり込む。
「あ、あわわわ……!」
黒髪ショートの可愛い女が尻もちをついていた。スマホの画面をこちらに向けている。服装からして陰陽師だろう。
「配信者か。ふん、リスのように這い回って目障りだな」
偽陽子が女の子に殴りかかる。女の子がパクパクと口を動かして震えていた。
ドゴォ。
偽陽子が外に吹っ飛んだ。
「きゅー」
バカでかい兎が偽陽子を外に弾き出したのだ。兎がフンと鼻息を吐いて、どうだと主人の和也を見る。
「ありがとう。助けてくれて。私、祁答院亜子って言います。陰陽師で化け物退治の配信をやっています」
平静を取り戻した美少女は立ち上がって、礼を言う。和也の後ろでは巨大兎が偽陽子に蹴りを入れて、庭の池に放り込んでいた。