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後編

 

 ーーー南東の森ーーー



「さぁ!いくわよ」


 何故かさっちゃんはもの凄く張り切っています。


「どうする?高地に行くためには魔物の群れを突破しないといけないけど…」

「そんなの決まっているじゃない」

「え、どうするの?」

「200メートル高地の攻略と言ったら突撃に決まっているじゃない」

「そうなの?」

「そうよ」


 さっちゃんはそう言っていますが、私にはさっぱり分かりません。謎です。


「じゃ、突撃ぃぃ!」

「ああ、ちょっと待ってぇ」


 さっちゃんは森の中に走って行きます。私はその後を慌ててついて行きます。


「グギャギャ」


 ヒュン


「ギャッ」


 私たちは、途中までの道も分かっているので、以前にゴブリンやオーク、オーガを倒したところを進んでいます。

 その時にかなりたくさん倒したので、ほとんど魔物は居なくなっていますが、時々ゴブリンなどの魔物が出て来て、さっちゃんがサクッと倒していきます。

 目的は高地に行くことなので、他に発見しても進路にいる邪魔な魔物だけを倒しています。


「ありゃ」


 さっちゃんが突然止まりました。


「どうしたの?」

「あれ」


 私が聞くとさっちゃんは前方を指差しました。

 見るとオークの群れがいました。ぱっと見ても30体はいます。


「どうするの?」

「決まっているじゃない、突撃よ」


 さっちゃんは何故か突撃にこだわっているようです。

 しかし、あくまで目的は高地の調査なので、魔物を倒すのに時間も体力も使う訳にはいきません。

 私はまたまたうんうんと考えました。


 ぴこん!

 閃きました。

 ……いつもの事ですけど、何か?


「プロテクション・ダイア」


 私たちを中心に、菱形状の結界が形成されました。


「さっちゃん、結界張ったからそのまま突撃して!」

「おおお、アンタやるじゃない。じゃ突撃ぃぃ」


 さっちゃんと私はオークの群れに突っ込んでいきました。


 ドン「ガハッ」

 ドンドンドン「グギャ、グワッ、ゴホッ」


 結界の先端は尖っているので、私たちが突撃すると、オークは結界にぶつかって吹き飛ばされていきます。横から襲ってくるオークや他の魔物も結界に弾かれています。


「あはは、これいいな。楽ちん、楽ちん」


 さっちゃんはご機嫌で突撃していきます。

 わざわざ魔物が集まっているところを通っているようですが、気のせいでしょう。


 私たちは魔物を弾き飛ばしながらどんどん森を進んでいきました。

 しかし、奥に行けば行くほど魔物の数が増えていきます。

 そしてとうとう前に進めないほどの魔物に囲まれてしまいました。


「ちくしょーまだ高地は先なのに」


 さっちゃんは悔しそうにしています。

 魔物はゴブリンやオーク、オーガだけでなく、ウルフ系、ベアー系、それに巨人系のトロルやサイクロプスまでいます。

 魔物の後ろには竜種(恐らく地竜)までいます。

 これでは前に進むのは無理でしょう。


「ねぇさっちゃん」

「何よ」

「空を飛んでいくのはどう?」

「はあぁぁ、どうやって飛ぶのよ、アンタは「フライ」で飛べるかも知れないけど私は無理よ」

「シロに乗せてもらえてないかな?」

「それならいけるけど…ああ高地は突撃で…う〜ん」


 さっちゃんはまだ突撃にこだわっています。本当に謎です。


「アンタのあのプールの魔法使うとかは?」

「あの魔法は魔力の消費が激しいから、高地に行っても肝心な時に魔力切れで何も出来ないかも」

「ううう〜ん。仕方ない、おいシロ起きろ!」

『んん〜なんじゃ』

「魔物に囲まれて身動き出来ないのよ、元の姿になって、私たちを乗せて飛んで」

『フン、容易いこと』

「カッコつけてないで、早くしなさい」

『はいはい』


 シロはやれやれといった感じで元のホワイトドラゴンの姿に戻りました。

 魔物たちは突然現れた物凄い脅威に驚いて、我先にと逃げようとしています。

 元々密集していたので、逃げようとしても身動きが出来ない魔物たちは大混乱に落ち入りました。

 私たちはホワイトドラゴンとなったシロによじ登って背中の鱗にしがみつきました。


『ではいくぞ』


 シロは大きく羽ばたくと一瞬で上空に辿り着きました。


「ふははは、魔物がまるでゴミのようだ!」


 さっちゃんは何処かで聞いた事がありそうなセリフを言ってはしゃいでいます。


「シロさん、あの高台みたいな高地を中心にくるりと旋回してくれますか?周辺の様子が知りたいので」

『良かろう』


 シロは私が指示した通りに素早く高地に辿り着き、周りを旋回し始めました。


「やっぱりそうか」


 魔物たちは、この高台のような高地の側面に空いている無数の穴から出て来ていました。

 どうやら予想通り、この高地が魔物たちの発生源のようです。

 そして、しばらく様子を観察していると、魔物が出て来ない小さな穴を見付けました。

 小さいといっても、人が余裕で入れる大きさです。


「さっちゃん、あの穴からは魔物が出てこない、あそこに入ってみよう」

「分かった」

「シロさん、あの穴のところに降りてくれる」

『分かったのだ』


 シロから降りた私たちは、慎重に穴の中に入っていきました。

 シロはささっとぬいぐるみになってさっちゃんの頭の上にちょこんと乗って、すぐに「すぴー」と寝てしまいました。流石シロです。さすシロ…何が流石かよく分からないので、やめておきます。


「ライト」


 穴(洞窟)の中はそれほど暗くなかったのですが、私は念のために魔法で照らしておきました。


「魔物の気配はないわね」


 さっちゃんは探知魔法を使っていると思うほど、魔物を見つけるのが得意なので、いつも偵察を担当しています。


「こ、これは…」


 しばらく歩いていくと、明るく開けた場所に辿り着きました。

 そこにあるものを見て私は絶句してしまいました。

 現代日本人が見れば、巨大なスクリーンのある何か大きな機械の制御盤に見える事でしょう。  

 しかし、この時代にはそのようなものはありません。


「何これ」


 そう言ってさっちゃんはその物体をペシペシ叩きました。


「さっちゃん、触ったら危ないよ」

「大丈夫よ、これは生き物じゃないから」

「そういう問題じゃ…」


 このように、二人で物体について色々と話していると…


「それに触るな!」


 いきなり大声で怒鳴られました。

 振り返ると、そこには髪も髭も伸び放題のお爺さんがいました。


「アンタ誰?」


 いつもなら、揉めないために私が話をするのですが、明らかに敵意を向けられていたので、さっちゃんに任せる事にしました。


「ワシは博士じゃ」

「はかせ?」

「なんじゃ博士も知らんのか」

「ここで何をしてるの?」

「崇高な実験じゃ」

「実験?」

「そうじゃ、魔物を操る実験じゃ」

「じゃあ森の魔物たちを操っていたのはアンタって事?」

「そうじゃ、お前たちはどうやってここにきたのじゃ」

「それよりアンタがやった事わかってんの?」

「ワシか?、魔物たちはこの森を出ないようにしておる、村や街には出とらんはずじゃが」

「違うわ、冒険者よ、何組か来たでしょう、彼らの半分以上返って来なかったわ」

「冒険者が魔物にどうされようとワシは知らん、冒険者とはそういうものじゃないのか?」


 ブチン!さっちゃんはキレました。


「はぁあ!冒険者を何だと思ってんだ」

「冒険者が何をするのかも知らんのか」

「…コイツは何を言っても無駄だな」


 バキッ ゴキッ 「ぎゃぁ」


 さっちゃんは博士をとりあえず殴って(2発)ロープでぐるぐると簀巻きにしました。


「何するんじゃ、ワシが何をしたというんじゃ」

「さぁ?テメーの事はギルドで決めてもらう。まぁそれまで息が有れば、だけどな。冒険者たちがどーするか見ものだな」

「離せ、お前が何をしてるか分かっているのか?」

「分かってないのはテメーだ」


 さっちゃんと博士が話(?)をしている時、私は少しお腹が空いたので、お茶菓子を食べながら紅茶を…まぁ、いわゆるティータイムをしていました。

 大丈夫です。こんなこともあろうかと、テーブル、椅子、ティーセットもちゃんと持って来ています。ちなみに今日はカモミールティーです。


 まだ、さっちゃんと博士の話(?)は終わっていないようです。


「そ、その赤いボタンは押すな!」

「ハン!押すなって言われたら押すに決まってるだろ、バカだなテメーは」


 さっちゃんは物体(装置)のボタンを押しました。


 キュィィィィン


「ああ、もうダメじゃぁぁ」


 そう叫ぶと博士は気を失ってしまいました。


『リセットボタンが押されました。システムを再起動します』


「わ、コイツなんか喋ったぞ!」


 さっちゃんが何か言っていますが、私は我関せずとティータイムを楽しんでいました。


 ピピ…ピピ…『システムがリセットしました。管理者を設定します。管理者は台に右の手のひらをを乗せてください』

「え、かんりしゃ?なんだそれは」

『管理者は台に右の手のひらを乗せてください』

「え、え、手を台に…これかな?」


 さっちゃんは右の手のひらを少し光っている台に乗せました。


 ピピ…ピピ…『管理者の情報をスキャンします……完了しました。次に名前を登録します』


 私はさっちゃんが、物体と何か話をしているようなので、気になってさっちゃんの近くに行きました。


「さっちゃん!」私はさっちゃんを呼びました。

「え!」私がいきなり声を掛けたので、さっちゃんは驚いて固まりました。

『名前を登録します。名前は「さっちゃん」で良いですか?』

「えええ、これ何?」私は物体が喋ったのでビックリしてしまいました。

「私も何か分からないのよ」さっちゃんも分からないようでした。

『名前を登録します。名前は「さっちゃん」で良いですか?』

「あ、はい。この子はさっちゃんです」私は思わず答えました。

『名前を登録しました。このシステムの管理者は「さっちゃん」です。よろしくお願い致します』

「え、あ、よろしく」さっちゃんもとりあえず答えていました。

『それでは、この擬似迷宮の名前を登録します』

「え、ぎじめいきゅう?何だそれ」

「私も分からない」

『名前を登録します』

「名前だって、さっちゃんでいいんじゃない?」

「う〜ん、何かよく分からんけどさっちゃんでいいぞ」

『名前は「さっちゃん」で良いですか?」

「何かコイツ同じ事ばっか聞くなぁ」

『名前は「さっちゃん」で良いですか?』

「あ〜はいはい、いいぞ」

『名前を登録しました。それではシステム管理者「さっちゃん」擬似迷宮「さっちゃん」としてシステムを再起動します』


 キュゥゥン


 物体は何も言わなくなりました。


「あれ、壊れたのかな?」


 さっちゃん物体をペシペシ触っています。


 ピピ…ピピ…


 あちこち光だしました。


 グゥィィィン


『擬似迷宮システム、PLS20020614正常に起動しました。さっちゃん様おはようございます』

「え、あ、おはよう」思わず挨拶したさっちゃんでした。

『今から設定をします』

「ちょちょちょっと待って」

『はい、何ですか』

「で、「ぎじめいきゅう」って何?」

『擬似迷宮とは擬似的な迷宮の事です』

「まんまじゃん」

「さっちゃんが聞いてるのはそう言う事じゃないです」

『申し訳ありませんが、管理者「さっちゃん」様以外にお答えする事は出来ません』

「だって、さっちゃん」

「えええ、何でそうなるのよ」

「さあ?」私は何だかどうでも良くなってきました。

「じゃあさ、もっと簡単に説明して」

『擬似迷宮とは、簡単に言うと、人工的なダンジョンです』

「えええダンジョン?ダンジョンなの?」

『はい、擬似ダンジョンです』


 その後、さっちゃんが色々と質問しました。私の質問には答えてくれないので…

 そして色々質問した結果…


 このシステムは大昔に栄えた高度な文明があった時に作られたもので、簡単に言うとゲーム感覚でダンジョンを楽しもう!というものらしいです。

 ただ、初期の実験用に作られたものなので、複雑な事(地形や環境を変えたり、アイテムなどのお宝を出したりなど)は出来ずにダンジョンの範囲を決めたり、魔物を配置したり、難易度を3段階(低、中、高難度)に設定するくらいしか出来ないそうです。

 魔物は倒された後しばらくしてダンジョンに吸収されて、新しく魔物として再生されるそうです。

(私たちが倒した魔物は、時間停止しているアイテムボックスに入れたため、ギルドまで持って帰る事が出来ましたが、今頃は既に消えているだろうとの事でした)

 そして、あくまでゲームなので、プレイヤーが死亡しても復活する、との事でした。

 長い時間この場所で眠っていましたが、博士が何やかんやして、奇跡的にシステムが動き出した、ということらしいです。

 倒された冒険者たちも復活できるのですが、博士が設定をしていなかったので、保留(眠っている状態)となっているとの事でした。

 最初に村を襲ったゴブリンもダンジョン内に巣を作って住み着いていたので、プレイヤーとしてダンジョンの魔物たちが攻撃して全滅させたとの事でした。


「じゃあ、ゴブリンはこのまま、帰ってこなかった冒険者たちは復活させて、外の魔物は全部消して、ひとまず「すりーぷもーど」って言うやつにして」

『分かりました、さっちゃん様』

「あ、さっちゃん、ちょっと待って」

「何?」

「私たちが倒した魔物、まだアイテムボックスに残ってる」

「あ、そっか。どうしたらいいの?」

『この辺りに出しておいてください。全ての魔物を吸収後、スリープモードに移行します』

「だってさ」

「分かった」

 私は、アイテムボックスに残ってるここで刈った(溺れた)魔物を全て出しました。


 そして、ダンジョンを停止状態にした私たちは、復活した冒険者たちと、簀巻きにした博士と一緒にギルドへ帰りました。



 ーーー冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋ーーー



「うむ、何だかよく分からん事件だが理解した。しかし、良くやってくれた。未帰還の冒険者も帰ってきたし、これほど高難度の依頼を達成出来るのは、お前たちくらいのものだろう、報酬はもろもろ処理が終わってから支払う、期待しておいてくれ」


 ギルドマスターは依頼達成満足して絶賛してくれました。

 同席している受付嬢さんも珍しくニコニコしていました。


「それで、あの博士とダンジョンみたいなやつはどうなんの?」


 さっちゃんが聞きました。


「ん?博士とやらは領主に引き渡して終わりだ。ダンジョンはもう動いてないんだろう?色々あった様だが冒険者も戻って来て解決した。終わりだ、お・わ・り。わはははは、結果オーライだ。何かギルドがする事があるのか?」


 ギルドマスターはサラッと言ってしまいました。


 ブチッ! さっちゃんはキレました(2回目)


「ちょっと待て!この件をそんな扱いにするわけ?」


 さっちゃんの大きな声が響き渡りました。


「ど、どうしろと言うんだ。問題は解決しただろ、今更何をするんだ」


 ギルドマスターは、どうしてさっちゃんが怒っているのか分からないようでした。


「ちゃんと報告したつもりだったけど伝わって無いようね。もう一度言うから良く聞け!。博士は「冒険者など魔物相手の仕事なんだからどうなろうと知らん」って言ったんだぞ。あのダンジョンは何も設定していないと「低難度」という簡単に攻略できるものになるらしい。博士は多分「高難度」に設定していた。でないとあれだけ魔物が襲って来ない。私たちの時は最後にはサイクロプスやたぶん地竜と思うけど、竜種まで出てきたんだぞ。それに復活の指定までしてなかった。という事は殺人と同じだ。冒険者が帰って来たのはあくまで結果論だ。何が結果オーライだバカか。博士がどういうつもりかは知らないけど、やった事は、完全に侵入者に殺意があって、冒険者は魔物に殺されてもそういう仕事だから自業自得だって言われたのも同然だ。要するに冒険者を完全に敵にしたって事だ。冒険者は殺されかけて、そんな事言われて依頼は解決したから終わり、という事はギルドマスターも博士と同じ考えなのか?ここのギルドも冒険者に対する考えは同じなんだな」


 さっちゃんは怒っています。めちゃくちゃ怒っています。カッチーンと音が鳴っています。

 こういう時は黙っているのが正解です。私は学ぶ子なのです。出されたお茶を飲んで静かにしています。


「あ、え、そそんな事は……」


 ギルドマスターはさっちゃんにいきなり怒られて固まってしまいました。


「アンタも大変な思いしたんだから、何か言いなさいよ。何お茶なんて飲んでんの」

「ひぇ!え、え、えっと…」


 急に話を振られてビックリしてしまいました。まだまだ勉強不足でした。


「た、確かに私たちも魔物に囲まれた時は危なかった。もし、この件を依頼にしようとしても冒険者ランクも決められないと思う。私たちはシロが居たから高地に行けたけど、あの森の問題を解決しようとするなら普通だったら最悪Sランク案件になるまで被害が出たと思う」

「この子の言う通りよ、で、ギルマスに聞きたいんだけど」

「な、な、何だ」


 ギルドマスターもかなり「ヤバい事になってしまった」と思っているようです。

 ふわっとしているので忘れがちですが、私たちはこれでもAランク冒険者です。この地方では冒険者のTOPです。冒険者に対するギルドの対応にも警告する義務と権利があります。なのでさっちゃんも怒りに任せてギルドマスターを追及しているわけではありません。


「もし、私たちがこの件を解決してなかったら、どうするつもりだったの?魔物たちは森から出ないからって放置するの?近くには村がたくさんあって、あの森の魔物の仕業じゃなかったけどゴブリンの被害はあった。村にはどう説明すんの?森は立ち入り禁止でもするの?」

「い、いや、もちろん放置はしない」

「じゃあ解決するまで冒険者の被害が続いてたわけね、こんな依頼がずっとあるギルドなんて冒険者は誰も来なくなると思うけど。まぁ少なくとも冒険者は魔物にどうされようと自業自得だと思ってるギルドにはね」


 さっちゃんはブチ切れ状態なので追撃が止まりません。

(ここの領主はまともで、決して冒険者を疎かにする事はありません。ギルドマスターはそれをよく分かっていたのですが、難しい依頼が解決したので、気が抜けたのは確かでした。それにより言い方が悪くなってしまったのです。さっちゃんの琴線に触れてしまいました。Aランク冒険者を怒らせたら、ある意味領主を怒らせるより大事(おおごと)になります。ギルドはこの国だけでなく、大陸中にあるので、下手をすると大陸中のギルドと冒険者を敵に回す事になります)


「そ、そ、それは…」

「まぁ、被害者出まくりで、この子が言うようにSランク冒険者を呼ぶ、ってなったら他の国まで巻き込んだ騒ぎになるわね、この国にはSランク冒険者はいないから、とても面倒な事になるわね。そういうヤバい案件が解決したから…ま・さ・か・このまま穏便に…って事かな?」

「そそそそんな事はない」ギルドマスターは明らかに動揺しています。

「いや、図星でしょ。もし、この件を有耶無耶にするようだったら、私たちも他の冒険者たち全員を連れてこのギルドから出るわ、こんな危なっかしいギルドでなんてやってらんないわよ。それで良い?」

「えっ、あっ、それは困る」


 さっちゃんは怒ると容赦がありません。私はしっかりとメモしておきました。

 そこで受付嬢さんがスッと口を挟みました。


「ごめんなさい。今のは完全にギルマスが悪いわ。冒険者軽視の発言でした。申し訳ありませんでした」


 と、深く頭を下げました。


「わ、私も本当に申し訳ない」


 ギルドマスターも頭を下げて謝りました。


「それで、どうすんの?謝って終わり?」


 さっちゃんはさらに追撃します。


「ギルドとしては博士のように登録していない者を処罰する事が出来ない、だから私が直接領主にこの件を報告する。もちろん殺人未遂とギルドや冒険者に対する明確な敵対行為としてな。領主が取り合わないようなら他のギルドや国に報告して領主に圧力をかける。これでどうだろうか?」

「それなら良いわ、ま、現場を見ていない人にはピンとこない事件だからね、仕方ないと言えばそうかもしれないけど」


 ここでさっちゃんは大きな声で宣言しました。


「もしテキトーな事言う奴が居たら、領主であろうが国王であろうが、あの魔物の群れに放り込んでやるわよ。どうせ復活できるんだし。私はやるって言ったらやるわよ、マジで」


 さっちゃんは「やると言ったらやるさっちゃん」というのがこのギルドでは決まり文句になっています。

 さっちゃんは本当にやります。もう一度言います。さっちゃんはやると言ったら本当にやります。大事な事なので2回言いました。試験に出ます。


「分かっておる、十分にな」


 ギルドマスターもさっちゃんを甘くみて、一度酷い目にあったクチです。


「ギルマス頼みますよ、連帯責任というのがあるのですからね」


 受付嬢さんもさっちゃんの事はよ〜く知っています。

 突然さっちゃんが口を挟みました。


「何よ、私が悪者みたいじゃない。悪いのは博士となぁなぁで済まそうとしたギルマスでしょ。それに…アンタも何知らん顔してんのよ。アンタの魔法だったら街の1つや2つ、簡単に吹き飛ばせるでしょう。冒険者ナメたらどうなるか、デカいの一発見せてあげたら?」

「え、私?そんな事出来ないよ」

「ちょっと前に1000は余裕で超えるゴブリンやオーク、オーガの群れを魔法ひとつで一瞬に倒したくせに、そんな事出来るのはアンタしかいないわよ、何言ってんの!」


 私にまで火の粉が飛んで来ました。


「コイツら怖ええ」ギルマスが呟きました。


 もうグダグダです。


「それで、擬似ダンジョン(以下「ダンジョン」と表記します)の方はどうしますか?」


 さすが受付嬢さんです。グダグダ状態を華麗に切り替えました。さす受…やめておきます。

 さっちゃんが答えました。


「今のところ「すりーぷ状態」というのにして、魔物も全て吸収させたから…まぁ冬眠してる状態ね」

「君にしかコントロール出来ないのだろう?」ギルドマスターが聞きました。

「今、はね。もう破壊してしまおうか?また博士みたいなのが居たら同じ事が起こるかも知れないし」


 ギルドマスターはしばらく考えました。そして。


「そのダンジョン、冒険者の訓練みたいな事に使えないだろうか?復活できるから実戦に近いものが出来るし、難易度低くすれば新人の訓練にもなる」

「それは良い考えだと思います。最近冒険者の質が落ちている、との声もあります。そんな施設があれば遠方からの冒険者の誘致が可能になるかも知れません」


 受付嬢さんもノリノリで賛成しています。


「管理さえきちんとすれば出来ると思うけど…」


 さっちゃんも悪い考えではないと思っています。

 そして、受付嬢さんが言いました。


「では、さっちゃんを責任者としてAランクパーティー「私と口の悪いさっちゃん」で運営。受講料を取って、お互いガッポリ儲ける。って事で」

「えええええ」


 と、いう事で、私たちは冒険者育成施設のダンジョンを運営し、ガッポリ儲け、優雅に暮らしましたとさ。









 …完…













「くおらあぁぁぁ待てぇぇぇーーテメーら何勝手に決めて終わってるんだぁぁぁぁしかも「完」ってなんだぁぁぁぁ」


 さっちゃんはまだ終わってないようです。


「ダンジョン経営みたいな辛気臭いことやってられるかぁぁぁぁ」


 私は「チケットを配る受付嬢みたいなのもいいかな…」とちょっと思った事は内緒です。絶対に。


「ではどうする?」ギルドマスターが聞きました。

「とりあえず「しすてむかんりしゃ」というのはギルドマスターに変わってもらう。設定方法は教えるから運営するならギルドでやって。私たちはダンジョンに関係なくこれまで通り冒険者するから。それで良い?」


 ギルドマスターはしばらく考えて答えました。


「分かった。後の事は任せてくれ。通常の依頼の方はこれまで通りで頼む」

「分かったわ」


 と、いう事で、ダンジョンはギルドに丸な…任せて、私たちはこれまで通り冒険者を続ける事になりました。



「私たちの冒険はこれからだ!」

「はいはい」

「新しい冒険の始まりだぁ!」

「はいはい」

「シロも一緒だぁ!」

『はいはい』


 物語が強制的に終わりそうになったので、さっちゃんは変なスイッチが入っています。

 私とシロはテキトーに相槌を打っておきました。



 ーーーーーー



 ある日……


「さっちゃん、あのダンジョン、冒険者訓練施設として始めたみたいだよ」

「あっそ」


 さっちゃんは興味がないようです。


「ちょっと見に行ってみる?」


 私は少し興味があるのです。


「外から見るだけなら。中には入らないわよ」

「分かった」


 てくてく


 私たちはダンジョンに向かって歩いて行きました。


 ざわざわ


 人がたくさんいます。


「あ!」


 私はとんでもないものを見てしまいました。


「何よ」

「え、いや、その」

「グダグダ言ってないで早く行くわよ」

「あああ…」

(見ちゃだめぇぇぇぇ)

 私の叫びは声になりませんでした。


 そこには大きな、とっても大きな看板がありました。









 [冒険者訓練施設『ダンジョン☆さっちゃん♡』]


「ぎゃぁぁぁぁ」







 おわり

最後までお読み頂きありがとうございました。

他の「私とさっちゃんシリーズ」もよろしくお願い致します。


冒険者編もまだ続きます。よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] さっちゃん、今回は大勢の魔物を相手しましたね。 さらにはギルドの意識改革まで行いました。 豪快に見えて後先のことも見据えているのが彼女の魅力ですね。 ホワイトドラゴンことシロも活躍していて…
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