前編
シリーズ第4弾。
短編「私と口の悪い冒険者、さっちゃん パート2」の続編です。
私達は冒険者Aランクパーティー「私と口の悪いさっちゃん」です。
今回はパート2で仲間(従魔)となったホワイトドラゴンの「シロ」も一緒です。
でもさっちゃんにはとても困った事があります。何度も言いますが、さっちゃんは口がとぉーっても悪いのです。
「グキャギャ」
「ギャグガギャ」
「ギャギャギギ」
「このぉテメー!」
さっちゃんが物凄い数のゴブリンに剣を振るっています。
ザク グシャ ビシュ ヒュン
「「「ギャギャギャギャギャァァ」」」
「アイスジャベリン・マックス!」
私は氷属性魔法で100を超える氷の槍を形成して、ゴブリンに向けて放ちます。
ブシュブシュブシュブシュブシュブシュブシュブシュ…
「「「「「「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャァァァァァ」」」」」」
こうして次々とゴブリンを倒しているのです。が…
「何でこんなにゴブリンが多いのよ」
「知らない」
さっちゃんがゴブリンがあまりにも多いので、イライラしながら私に聞いてきますが、知らないものは知らないのです。
「シロ、アンタ何とかならないの?」
『この森をブレスで焼け野原にしても良いならできるぞ、我は手加減ができんからな、それにこの姿では、ブレスしても松明程度にしかならん』
「使えないわね!アンタ」
さっちゃんと話しているのは、シロという名前のさっちゃんの頭の上に乗ったトカゲのぬいぐるみのような姿をした、私たち(主にさっちゃんの)の従魔です。
実はこのトカゲ、巨大なホワイトドラゴンなのですが、街や森の中ではぬいぐるみのように小さくなって、主にさっちゃんの頭の上に乗っかっています。
(お気に入りのポジションだとか…さっちゃんが良いなら別にいいけど)
小さい姿になると、攻撃力も小さくなるようです。
ホワイトドラゴンは神獣なので、従魔にする事は出来ません。あくまで私たち(主にさっちゃん)とは「お友達」の関係で、ギルドには「従魔」として登録しています。
それより、頭にトカゲのぬいぐるみを乗せて剣を振るうって…ふふっ
いやいやいや、戦闘中なので今は考えないようにしましょう。
「「「「グキャギャ」」」」
「「「「グオオォォ」」」」
「「「「グワオウゥゥ」」」
「んもぅ…どうしてゴブリンの群れに、オークやオーガの群れが混じってんのよ」
さっちゃんはぷりぷり怒りながらゴブリンやオーク、オーガを倒していきます。
「オークやオーガも居たって受付嬢さんが言ってた」
「違うわよ、どうしてオークやオーガがゴブリンと共闘してるのか?ってハ・ナ・シ!」
「結婚するんじゃないかな?」
「はあぁぁあ?何言ってんのよアンタは」
「受付嬢さんが言ってた。結婚する時は共同作業するんだって」
「ちが〜う!「共同」じゃなくて「共闘」よ」
忙しい時に恐縮ですが、私達は冒険者、Aランクパーティー「私と口の悪いさっちゃん」です。
私は魔法使い、さっちゃんは武闘家兼剣士です。
私は気の強そうな容姿ですが、気が弱くて、人付き合いが苦手です。
さっちゃんは庇護欲そそる様な容姿ですが、気が強く、敵認定されない限りフレンドリーなのです。容姿も性格も真逆な私達ですが仲良くしています。
最近仲間となった従魔のシロとも仲良くしている2人プラス1匹(?)のパーティーです。
でもさっちゃんにはとても困った事があります。
もうお気づきだと思いますが、さっちゃんは口がとぉーっても悪いのです。
冒険者ランクはSを頂点として、A、B、C、D、E、見習いとしてFがあります。
現在、この国にはSランクの冒険者はいません。
それに、私たちが所属しているギルド、いやこの地方でAランクの冒険者は私たちしか居ません。
今、ゴブリンやオーク、オーガの群れと戦っています。
既にゴブリンは200匹以上は倒していますが、まだまだいるようです。
おまけにオークやオーガの群れまでいます。
どうしてこんな事になっているのか、と言うと…
ーーー今朝の冒険者ギルドーーー
「あ、貴女たち、いいところに来たわ。ちょっとお願いしたい事があるのよ」
朝、冒険者ギルドに着くと、いきなり受付嬢さんに呼び止められました。
「何でしょう?」
私は、また何かやらかして何かさせられるのかも、とビクビクしながら聞きました。
「貴女たちにお願いしたい依頼があるのよ」
「指名依頼ですか?」
「指名ではないんだけど、ちょっと難しい依頼があるの」
そう言って受付嬢さんは依頼書を渡してきました。
【ゴブリンの群れの調査、可能なら討伐。規模、数は「100」とも「300以上」とも曖昧な目撃情報で詳細は不明「通常の定義に当てはまらない大規模」である。上位種の存在の可能性有。多数の他の魔物の群れの目撃情報あり。ランク:危険度が不明なため、出来るだけ高ランク、複数パーティー推奨。報酬:要相談】
「え、何ですか?この依頼」
時々、というかしょっちゅう間違われますが、リーダーは私です。
さっちゃんだと思われる事がよくあります。
私は、別にリーダーでなくても良いのですが、さっちゃんは口が悪いので直ぐに揉めます。
だから私がリーダーなのは仕方のない事なのです。
なので、受付嬢さんとは基本的に私が話します。
「実はね……」
受付嬢さんの話によると……
このゴブリンの調査、討伐の依頼は、かなり前に南東の森の周辺にある村の家畜が、十数匹のゴブリンに襲われる。という事が発端だそうです。
この村の村長が、冒険者ギルドにゴブリン討伐の依頼を出しました。
この時の依頼は【ゴブリン討伐 規模:小規模 被害:家畜数匹】というものでした。
(ゴブリンの規模というのは、20匹未満:小規模。20〜50匹:中規模。50匹以上:大規模となります。これは数だけで上位種がいるかどうかは考慮されていません。小規模でも上位種がいる場合もあるし、上位種のいない中規模、大規模というのはほとんどありません)
ゴブリンは単体では最弱で、小規模の群れなら、Eランクの初心者でも受注できる依頼です。(甘く考えた冒険者が全滅する。ということも珍しくないので、「簡単」という依頼ではありません。受注が出来る、というだけです)
数組のEランク冒険者が受注しましたが、どのパーティーも帰って来ませんでした。
そこでギルドは、偵察としてCランクのパーティーを派遣しました。
ボロボロになって帰ってきた偵察の依頼を受けた冒険者は「50匹以上居る、段々増えて襲って来る事から指揮官がいるのでは?」と報告しました。
ゴブリンジェネラルやゴブリンキングなどが統率している群れの可能性がある、と判断したギルドは、【ゴブリン討伐 規模:大規模 上位種の存在の可能性大 Bランク以上】として、数組のB ランク冒険者が受注しました。
しかし、帰って来たのは半数くらいで、「100匹以上はいる」「いや、300は超えていた」「オークやオーガの群れが居た」「虫系の大型魔物の群れが居た」「こっちはウルフ系、ベアー系の魔物の群れだ」と、まるでスタンピードのような報告が上がってきました。
しかし、スタンピードなら、既に周辺の村に深刻な被害が出ているはずですが、そのような報告はありませんでした。
その事でどうしよう、と頭を悩ませながら書いたばかりの依頼書を持っていた受付嬢さんのところに、私たちがノコノコとやって来て……
ーーーーーー
「という訳でこのザマです」
「誰に言ってんのよアンタ!」
次々と魔物を倒しながら突っ込むとは…流石さっちゃんです。さすさっちゃんです。
「もうアンタの広範囲魔法使ったら?」
「でも、依頼は討伐じゃなくて調査でいいって…」
「どっちにしろこの状態じゃ撤退も出来ないでしょ」
それもそうか、と私はうんうんと考えました。
ぴこん!
閃きました。
「ねぇさっちゃん、ゴブリンって泳げるのかな?」
「え、何言ってんのよ、知らないわよそんな事」
「だよねぇ」
「何すんの?、水魔法?」
「うん、水属性の広範囲魔法」
「ええっ!洪水みたいなやつ?」
「ううん、初めてやるから、どうなるか分かんない」
「それは…まぁいいか…このままジリ貧よりは」
さっちゃんは、「どうでもいいや」って感じだし、シロは…寝てるし、いいか。
「よぉ〜し、さっちゃん私が魔力切れになったら連れて帰ってね」
「そんな凄いのやるの?…ん〜分かったわよ、やりなさい」
私は杖を掲げました。
「エアーバルーン」
私たちの周りに空気の風船の様なものが形成されました。
「ウォータープール・マックス」
足元に巨大魔法陣が展開し、どこからともなく大量の水が集まってきました。
「な、な、なんなの?これ」
流石のさっちゃんも驚いています。さすさっちゃんではないです。今は。
コポコポ…コポコポ 魔物たちが溺れてその場で暴れています。
上空から見ると、巨大な円柱状のプールが突然現れた様に見えたことでしょう。
ただし、天井も蓋がれている状態なので、プールと言えるのかは怪しいですが…
ゴブリンやオーク、オーガの群れは一瞬で水の中に閉じ込められました。
私たちは、空気の風船の中に居るので平気です。
「あ〜なるほどね、アンタよくこんなの考えたわね、っていうか魔力は大丈夫?」
「うん、ゴッソリと持っていかれたけど、カラにはなってない」
「しかしアンタ凄いわねぇ、魔法は…こんなの考え付かないわよ普通」
「いや、お風呂で寝てしまって、溺れそうになって…それで…まぁ」
「あ〜分かったわよ、アンタのドジ魔法って事ね」
ワイワイ話しているうちに、魔物が動かなくなったので、念のためしばらくしてから魔法を解除しました。
森は…まぁ大丈夫でしょう。焼け野原よりはマシです。たぶん。
そして、大量のゴブリン、オーク、オーガをアイテムボックスに入れてギルドに帰りました。
ーーー冒険者ギルドーーー
ギルドに帰って来た私たちは、解体場に行き「こんなに沢山持って来やがって」といつもの様に怒られ、流石に今回は多いので、解体場が受け入れられる分だけにして、受付嬢さんのところに報告に行きました。
今回の件は受付嬢で判断できるものではないので、ギルドマスターに報告する事になりました。
「そんな事になっていたとは…」
私が、魔物が多い事、何かおかしい事を少し報告すると、ギルドマスターも今回の事には、とても驚いていました。
「はい、しばらく森を探索していると、ゴブリンが20匹ほど現れて、倒すと次は50匹、という様に段々増えていって、更にオークやオーガまで現れました」
「それで、具体的な数は?」
「最終的には、ゴブリンが893匹、オークが568体、オーガが469体です。でも、全滅してはいないと思います」
「そんなにか…しかしお前たち、たった一日でよくそんなに狩れたな」
「狩ったというか、溺れたというか、結婚というか…」
「えええ、何?溺れた?結婚?何だそれは」
「えっとですね、共同作業のようで、プールにして…」
「あああ〜もうアンタが話すと訳が分からなくなるから私が話すわ」
さっちゃんが怒って報告役の選手交代です。「いつも揉めるくせに」と言おうと思いましたが、話が進まなくなるので、任せる事にしました。
「とにかく、数が多いというのは、さっき報告した通り。それより段々増えていった、という事がまず普通じゃないってところね」
「指揮官か」
「そう、でもゴブリンジェネラルやキングのような上位種は居なかったわ、もし居たとしても900匹のゴブリンを統率出来る訳がないわよ。ゴブリンキングでも普通は100匹かそこらでしょ」
「そうだな、伝説級のゴブリンロードがいてもおかしくない状態だな」
「ゴブリンロードが居たとしても、ロード1体じゃ統率出来ないでしょ。例えば部隊毎にジェネラルがいたりキングがいたり…ゴブリンシャーマンやホブゴブリンさえも居ないのよ、おかし過ぎるわ」
「そうだな」
「それに、この子が結婚とか共同作業とか訳の分からない事を言ってたのは、ゴブリンに混ざってオークやオーガが共闘して襲って来たって事ね」
「共闘?」
「そうよ、共闘と言うか、連携していた感じね。オークをタンク(盾役)にして、後ろからゴブリンが襲ってきたり、ゴブリンを陽動役にしてオーガが突撃してきたりね」
「ほぅ」
「そもそもオーガがこんなにたくさん群れるのがおかしいわ。結構気ままな連中だからね。オークも自衛のためかどうかは知らないけど普通は3体くらい、ハーレムみたいなのでも5〜6体で行動してるしね、もちろんオークもオーガも上位種は居なかったわ」
「………」
「まぁゴブリンを300匹くらい倒したところで、キリが無いからこの子が水属性の広範囲魔法で一気に倒したから、もう少し待っていたら上位種やBOSSのようなのが出てくる可能性が全くないとは言えないけどね」
「すると森は洪水でメチャメチャか……あ、いや、責めてるんじゃ無い。そんなにたくさんの魔物に囲まれたら仕方ない、というよりよく帰って来たと褒めるべきだな…すまん」
「それは大丈夫だと思うわ」
「え、どうしてだ」
「さっきこの子が「プール」とか「溺れた」とか言っていたでしょ。まぁ簡単に言うと大きな水の塊の中に、ゴブリンやオーク、オーガを閉じ込めて溺れさせて倒したのよ。だから森は大丈夫だと思うわ」
「そんな魔法があるのか。いやいや本当によくやってくれた。報酬は期待してくれ」
ギルドマスターは、今回の依頼の達成に大満足しているようでした。しかし。
「依頼を達成扱いにしてくれるのは嬉しいけど…何か釈然としないわね」
さっちゃんは今回の結果に満足していないようでした。
私は「さっちゃんは口は悪いのに説明は上手だな」と思っていました。言わないけど…絶対怒るから。
「どういう事だ?」
「だって分かった事は、魔物の数が多い、という事と何かおかしいって事だけでしょ。他の魔物同士が連携している、というのは新しい情報かも知れないけど…結局何も分からないって事じゃない」
「そうだな」
「こういうの、何か嫌なのよね」
さっちゃんは私の方を向いて怒鳴りました。
「アンタ!何「私は関係無い」って顔してんのよ。何か言いなさい!」
「お昼ご飯食べて無いなぁ〜」とか考えいた私は、いきなり話を振られてビックリしました。
「え、え、えっと…」
「まさか話を聞いていなかったんじゃないでしょうねぇ〜まぁどうせアンタの事だからご飯の事でも考えてたんでしょうけどね」
「正解です!」とは言えず。うんうんと考えました。
ぴこん!
閃きました。
デジャヴを感じますが、気のせいです。
「あの、地図ありますか?」
「ああ、あるが何するんだ?」
「ちょと思いついた事があって」
「分かった、受付嬢持って来てくれ」
「分かりました」
同席していた受付嬢さんが地図を持って来てくれました。
私は地図を開いて、印をつけながら話しました。
「初めにゴブリンとエンカウントしたのがココ。オークが現れたのはココ。オーガはココ。この点を繋いで、森の奥へと伸ばすと…」
「「「あ!」」」
さっちゃんもギルドマスター、受付嬢さんも気付いたようです。
「他の冒険者さんが見た魔物の位置は分かりますか?」
「ええ、分かるわ」
受付嬢さんはそう言うと、資料を持ってきて地図に書き込みました。
「えっと、ゴブリン、オーク、オーガはだいたい同じ所ね、虫系のキラービーがココ。アサシンスパイダーがココ。狼系のヘルウルフ、マッドウルフがココとココ。熊系のマーダーベアーがココ。あら、最初に被害のあった村から離れていく感じね」
「はい、私も最初それに気付いておかしな、と思っていたんです。恐らく私たちが会ったゴブリンとは別口かと…」
「なるほどねぇ、ゴブリンの目撃情報は増えているのに、あれ以降、村の被害は無いのよ。村を襲ったゴブリンは他に移動したか、もしくは…」
「はい、私もそう思います。今、森にいる魔物たちは村や人の居る領域には出て来ません。恐らく村を襲ったゴブリンはこの魔物たちから逃げたか、倒されたかです。ゴブリンが簡単に獲物を諦めるとは思えないので、恐らく森の魔物たちに倒されたと思います。そして、全ての線が合わさるココ」
私はその部分を指差しながら言いました。
「ココに小さな山があります。魔物たちはココから出て来たのではないでしょうか?」
「ダンジョンって事?」
さっちゃんが首を傾けながら言いました。
「いえ、ダンジョンならスタンピードになっているはず…だから…」
「何よ、何なの!ハッキリ言いなさい!」
さっちゃんの剣幕に私は渋々答えました。
「人為的なもの…かと」
「「「ええええええ」」」」
そりゃそうなるよね…
「そんな事が出来るのか?」
「分かりません。とにかくこの山を調べれば何か分かるかも」
ギルドマスターの質問に私は答えました。そしてさらにギルドマスターは言いました。
「ここは、山というより高地だ、200メートルくらいの高台のような、何もない岩場だ」
「洞窟のようなものはありますか?」
「う〜んどうだろう、本当に何もない岩場で誰も寄り付かない場所だからな」
「とにかく行って確かめるしかないですね」
「そうして欲しいのはやまやまなのだが、あくまで推測に過ぎんからな、報酬が出せない」
するとさっちゃんが大きな声で言いました。
「報酬なんて要らないわよ、でもギルドを通さない訳にはいかないでしょ。もし何かあった時、私たちもギルドも何も出来なくなるから」
「ではどうする?」ギルドマスターが聞きました。
「指名依頼を出して、報酬は小銀貨一枚(1000円くらい)でいいわ。指名依頼なら他の人に依頼の内容や報酬がバレる事もないし。もし、この件に冒険者が絡んでいた時にこっちもギルドを盾に出来るからね」
「そうか、助かる」
そして何故かさっちゃんはポーズを決めて言いました。
「200メートル高地、攻略作戦だ!」
何だか歴史的な感じがするのは私だけでしょうか?