月夜と黒雪
短編ものです。読んでくださると嬉しいです。
「それじゃあな、みんな。」
俺は歩き出し、皆に背を向けた。
「輪!そんな......」
後ろからみんなの声が聞こえる。
俺は振り向かずに歩き続け、やがて周りが白く包まれる。
もうすぐ会える、もうすぐ。あとはみんなに任せよう。
激しい爆発の音がし、そこで俺は意識を失った。
「う、うーん。」
目を覚ますとそこは森の中のようで、俺は起き上がった。
「ん、うわぁ。」
自分の体を見ると、服はボロボロで傍から見たら変な人だと思われそうな姿だった。
「えーと、とりあえず現状確認。俺はあの爆発の後に死なずにここまで吹っ飛び、意識を失っていた。」
周りの様子を見ると、木々があり、その隙間から街が見えた。
俺はその街へ向かって、歩き出した。
歩いている途中、獣の音がした。
周囲を警戒していると、森の中から見覚えのある獣が出てきた。
「こいつは!あいつの獣!」
ここで俺は、まだ戦いが終わってないことに気づく。
俺が命をかけて終わらせようとしたが、結局戦いは終わらなかった。
つまり、まだあいつは生きてる。
そして、今も尚戦っている人たちがいる。もしかしたら、あいつらも。
仲間のことを思い出し、剣を抜こうと背中に手をかざす。
が
「あら?」
背中に顔を向けると、あの時まではあった剣が無くなっていた。
その瞬間、獣が牙を向けて襲いかかってきたが、すぐに魔法で倒した。
「なんでないんだ?あの爆発で粉々になったのか?」
俺は焦りを感じたが、仕方がないと考え、再度街に歩いていった。
街に入ると、周りから視線を感じたが、気にせずとりあえず服屋に入った。
「いらっしゃいませー、え......」
店員が少し引いていたが、気にせず服を選ぶ。
「すいません、これお願いします。」
服を店員に渡し、なけなしの金を渡すと、すぐに試着室で着替えた。
フード付きのコートの腰にベルトを付け、ポーチをベルトに付ける。
あとは剣と、あれも使ってみるか。
武具屋に入り、使えそうな剣を探したが、いまいちピンとせず、俺はあることを考えた。
「なぁ、親父、ここで俺が剣を作っていい?」
親父は俺の言葉を聞くと、しばらく考えたが、着いてきなといい、店の奥へ入っていった。
店の奥は工房になっていた。
「この素材を使いたいんだけど。」
そう言って俺はポーチの中の時空収納から、結構前に手に入れた月の石を取り出した。
それを見た親父は驚いた顔をしたが、すぐにニヤリと笑った。
「こんな仕事は初めてだ。何日かかかるから待ってな。」
親父はすぐに作業に取り掛かり、俺もそれを手伝った。
それから数日経ち、親父がこんなことを言い出した。
「お前も最前線で戦う兵士なんだろ?刀が出来たらすぐに戻るんだぞ。」
兵士?最前線?なんのことだ?
親父に聞くと、
「なんだ、ちげーのか。というか、最前線や兵士を知らない?馬鹿いっちゃいけねー。ワシらを守ってくださってる人達だぞ。」
親父の話によると、この街から出て北の方向に軍というものがあり、そこで兵士たちが、敵と戦っているそうなのだ。
よく分からなかったが、まぁ後々考えようと思い、すぐに作業に集中した。
「よし、出来たな。」
最後の仕上げを自分でやり、現物を見る。
最初は剣を作る予定だったが、親父の意向で刀に変えた。
刀身は夜のように暗く、鍔は月のように黄色く、三日月のような形だった。
「ありがとう親父、それじゃ俺は親父の言ってた軍をめざしてみるよ。」
軍なら、あいつらの行方も分かるかもしれない。もしかしたらそこであいつらが戦っている可能性も。
親父に別れを告げ、最後に魔道具屋へ向かった。
魔道具の中から一つの水晶を買い、そこに俺の魔力を込めた。
これでこの水晶は俺専用の魔道具となった。
そして、街から出て軍をめざして、歩き出した。
「うぅ、こんなことって......」
目の前の怪物を前に、私は倒れていた。
周りの仲間たちも私と同じように倒れ、身動きが取れない様子だった。
ここで死ぬのか、ごめんね、アナ。
世界でたった一人の妹を思い出し、涙がこみ上げる。
そして、怪物が私に向かってトドメを刺そうとした時、突然横から斬撃が飛んできて、怪物の胴体を切り裂いた。
「えっ!?なに?」
斬撃が飛んできた方向を見ると、そこには私と同じぐらいの身長の男が刀を構えて立っていた。
怪物はその男の方に走っていき、襲いかかったが、男はそれを軽々と躱し、いくつもの斬撃を振りかざした。
そして、
「無幻流、無幻一閃!」
刀を横に構えると、刀に魔力が込められ、一瞬で獣の元まで跳び、一気にその獣の体を貫いた。
獣は叫び声を上げ、やがて動かなくなり、結晶となって消えた。
「や、やった、勝った。」
これで、ここの拠点は私たちのものだ。
後ろから救護の声が聞こえ、安心すると、私は気を失った。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!」
妹のアナの声が聞こえ、目を開けると、私のすぐ目の前にアナがいた。
「アナ......私は......」
ベッドから上体を起こし、周りを見ると、そこは医務室のようで私の他にもたくさんの人達がベッドで寝ていた。
そうだ、あの男は!
「ねぇ、アナ。ここに見たことの無い男がいなかった?刀を持ってる......」
アナは知らなそうな顔をし、食事を取りに部屋から出ていった。
私はあの男のことについて考えた。
今まであんな人、見たことない。それに、すごく強かった。あの怪物をあんなに簡単に倒しちゃうなんて。
自分の青い髪を指で擦りながら考えていると、アナが2人分の食事を持って部屋に入ってきた。
「はい、お姉ちゃん。食べよう。」
アナに食事を貰い、食べ始める。
いつもと同じ食事、パンとスープと飲み物を口に入れ、アナと他愛のない話をした。
「それにしても、やったねお姉ちゃん。これで私たちの最前線がまた進んだよ。」
アナが喜びながらそう言った。
そう、今回私たちが攻めたラスナ要塞を私たちが手に入れたことで敵の本陣への距離が縮まった。
食事を食べ終え、アナと一緒に外に出た。
「お姉ちゃん、大丈夫?まだ怪我治ってないでしょ?」
「大丈夫だよ、ありがとうアナ。」
あの時の男を探しに外で歩いていると、あるところに人混みができていた。
「なんだろう。」
アナと一緒に人々が見ている場所を見ると、そこにはラスナ要塞の時の男がお腹を抑えながら横たわっていた。
「飯......飯を誰か......」
男はそう呟きながら何度もお腹をぎゅるぎゅると鳴らした。
「あの男だ、私たちを助けてくれたの。」
私は横たわっていた男に肩を貸し、急いで私たちの部屋に連れていった。
「むしゃむしゃ、ありがとうむしゃむしゃ。」
城の調理場から食事を貰い、部屋に持っていき、男に渡すと、男は一心不乱に食べ続け、やがてきれいさっぱり無くなった。
「ありがとう、命の恩人だよ。」
男はそう言い、頭を下げた。
「いいんだよ、あなたこそ私の命の恩人だよ。」
男は私の顔をじっと見ると、思い出したように手をぽんと叩いた。
「あぁ、あの時の。怪我は大丈夫だったか?」
私は大丈夫と言い、自己紹介をした。
「私はラナ、セイブ軍12小隊兵士だよ。」
「俺は輪、ちょうど良かった。色々と聞きたいことがあったんだ。」
俺はラナに色々な質問をし、ラナは呆れた様子で答えていた。
ラナの話によると、ここは移動要塞セイブ軍、世界の平和を目指すため、敵と戦っている組織だそうだ。そして、最前線とは現状の自分たちの領域の一番前のことで、その一番前で敵と攻防を続けている。
俺がラナ達を助けたあの場所が最前線だったんだそう。
そして、敵の親玉の名はクダ。セイブ軍の敵対しているそいつはいくつもの刺客を送り込み、世界の征服を企んでいる。
クダは俺が知っている人物だ。俺はあいつと相打ちになる感じで爆発したのだが、俺と同じようにあいつも生き残ったのか。
少し俯き、情けなく感じた。
そして、俺は一つの驚くべきことを聞いた。
「え、もう一度言ってくれ。今は世界歴何年だ?」
「え?世界歴248年って言ったけど?」
俺がクダと爆発した時は世界歴218年だった。
つまりここは、30年後の世界ということだ。
俺はそんなに眠っていたのか。
ラナとアナが不思議そうな顔をし、次に俺は一番重要な質問をした。
「なぁ、フーとミアって知ってるか?」
ラナはしばらく考えると、首を横に振った。
それからも俺は仲間たちの名前を次々と言ったが、全員知らないそう。
「私が覚えてないだけかもしれないし、後で軍の名簿を確認してみるよ。」
ラナにお礼を言うと、突然サイレンが鳴りだした。
「あ、もう消灯時間だ。どうしよう、輪はここで寝る?」
「いや、俺は野宿するよ。今日はありがとう、じゃあな。」
そう言って俺は部屋の窓から外に飛び出した。
「お姉ちゃん、不思議な人だったね。」
私とアナは部屋の電気を消し、ベッドに横になり目を瞑る。
「でも、悪い人じゃないよ。私を助けてくれたんだし。」
そう言って私はすぐに眠ってしまった。
「うまいうまい。」
川で釣った魚を焼き、俺はそれを食べていた。
「ふぅ、ごちそうさん。さて、これからどうしようかな。」
この軍にフー達がいない以上、他のところを探しに行きたいところだが、ラナによると、この軍は人探しもしているんだそう。身寄りのない人や行方不明の人を探し、見つけたら自分たちの領域にある色々な街に住まわせると言っていた。
「じゃあ、俺が刀を作った街もそのうちの一つってわけか。」
手を頭の後ろに当て仰向けになり、夜の星空を見る。
「綺麗だな。」
俺は星空を見ている途中でいつの間にか眠ってしまった。
「ぷっぷっぷー!」
朝のサイレンが鳴り、私はすぐに起き、着替えをし、外の広場に走っていった。
「それではこれより、朝の訓練を始める!!」
小隊ごとに朝の訓練を行い、終わるとすぐに朝ごはんだ。
いつものように、走り込み、剣の打ち合い、武術の訓練をし、終わると食事場所に歩いた。
「いただきまーす!」
目の前に食事を食べながら、アナと小隊の人たちと話をしていた。
「昨日の男はなんだったんだろうな。」
「めちゃくちゃつえーし、あんな奴が軍にいたらなぁ。」
確かに、輪がいたら最前線はもっと広がる。
「私たちはしばらく休めるだろうし、ゆっくりしていましょ。」
ラスナ要塞を落とすため、何十日も前から最前線にいたので、しばらくは休めると思い、その間、私は一つのことを考えた。
食事が終わると、しばらく自由時間になり、私はすぐに輪を探した。
「どこ行ったんだろう。」
私は軍の街を歩きながら輪を探していると、広場にたくさんの人が集まっていることに気づいた。
まさか、また輪がお腹を空かせて。
必死の思いで前に出るとそこでは軍の兵士と一人の男が決闘をしようとしていた。
そして、その男は
「輪......」
2人の前にはひとつの帽子が置かれており、そこに見物をしている一般人や兵士が金を投げ入れていた。
そして、戦いのゴングがなり、輪と相対している兵士が殴りにかかった。
輪はそれを余裕で躱し、兵士のお腹に一発拳を入れた。
「ぐっ!」
「どうしたどうした?降参か?」
輪が煽りを入れると、兵士はすぐに体制を立て直し、拳を構えた。
「おりゃー!!」
兵士が輪に殴りかかろうとすると、輪はそれをまたも余裕で躱した。
が、兵士はそれを見てニヤリとし、輪の肩を掴み足払いをした。
そのまま輪を担ぎあげ、場外へ落とそうとした。
「まずいぞ、場外へ落とされれば負けだ。」
周りの兵士がそんなことを言い、私は輪を応援した。
「輪ー!がんばれー!!」
兵士に落とされる一歩手前になると、輪は兵士の腕を掴み、後ろに周り兵士の背中をドンと押し、場外へ落とした。
「勝者ー!!」
審判が輪の腕を掴み上にあげた。
周りには歓声が広がり、私はすぐに輪に近づいた。
「やったね、輪。」
「やったやった!」
輪はお金の入った帽子を抱きながらはしゃいでいた。
私は輪の手を引き街の外に出ると、早速本題に入った。
「輪、私を特訓して!」
「やだ。」
即答され、私はずるっと足を滑らせた。
「なんで!?」
「俺は教えるのが下手だから。」
私は諦めずに輪に頼み込んだが、輪は承諾してくれず、そのうちサイレンが鳴った。
「あ、特訓の時間だ。輪、私は諦めないから。」
そう言って私は城に戻っていった。
「ラナ、なにやってたんだよ。」
同じ小隊のガルノにそう言われ、私は
「ちょっと用事があったの。」
と言い、すぐに特訓を開始した。
剣の打ち込みや走り込み、武術やさらに作戦の授業をし、やっと昼食の時間になった。
アナを探していると、輪がアナと一緒にいるのを見かけたので、3人分の昼食を持ち、2人の元に歩いていった。
「あ、ラナだ。」
「お姉ちゃーん。」
2人に昼食のカレーライスを渡し、私たちは食べ始めた。
「ねぇ輪、どうしてもダメ?特訓。」
「だから、俺は教えるのが下手だから無理だって。それに、さっきの特訓を見ていたけど、あの特訓で大丈夫。強くなれるよ。」
輪はそう言うが、私はあまり納得出来なかった。
そして私は、あることを思い出し、輪に話した。
「そうそう、君が言ってた仲間のことだけど、やっぱりどこにもいないわ。」
そう言うと、輪は少し悲しそうな顔をすると、すぐにいつもの顔に戻り、
「そうか、じゃぁ俺はそいつらを探しに旅に出るよ。」
え、嫌だそんなの。
「そんな、ダメ。この軍なら行方不明の人も探せるし、ここにいて、お願い。」
食べている手を止め、私は輪の顔をまっすぐ見た。
輪は少し考えると、
「まぁ、確かにここにいれば見つかるかもしれないし。それじゃ、しばらくここにいようかな。」
私とアナは喜び、カレーライスを幸せそうに食べた。
「そういや、アナはまだ軍の兵士じゃないのか?」
「アナはまだ小さいから違うんだけど、大きくなったら兵士になる約束なの。」
「私も早くお姉ちゃんと一緒に戦いたい。」
輪はそうかと言い、昼食を食べ終えると、
「ちょっとこの街を回ってくる。」
と言い、どこかへ行ってしまった。
「ぷーぷぷーーぷー!!」
「緊急集合のサイレン!?」
私はすぐに城の広場に集まり、小隊と合流し、整列した。
「たった今、最前線から連絡があり、救援を求むとのことだ!よって、今から諸君らで救援に向かう!」
救援?こんないきなり。
私はすぐに武装の準備をし、馬の荷台に乗って、最前線へ向かった。
「これは......」
目の前に広がっていたのはたくさんの怪我人達だった。
「救援に来たものは急ぎ最前線へ応戦へ!」
私たちはすぐに剣を抜き最前線へと走った。
最前線へ着くと、兵士達が何十匹もいる怪物と戦っていた。
「行くぞみんな!まずはあいつからだ!」
ガルノがそう言い、私たちは近くにいる怪物に向かって走り出した。
小隊は基本五人で一小隊になる。
私の小隊のメンバーは、男が三人のガルノ、レガ、ジラ、そして、女の私とメル。
男三人が怪物に突っ込んだが、怪物はとんでもない速さで三人を振り払った。
三人は後方に投げられたが、私とメルはそのまま怪物に走った。
そして2人でXのように斬りかかると、怪物はうしろに倒れた。
「三人とも!!」
私がそう叫ぶと、いつの間に戻っていたのか、男三人が怪物にトドメをさした。
「まだまだ行くぞ!!お前ら!」
私たちはすぐに次の怪物に走った。
「戦い方はさっきと同じだ!行くぞ!」
さっきと同じように三人が突っ込み、後ろに吹っ飛ぶと、私とメルが斬りかかる。
「うおおおおお!!」
「さっきのサイレン、なんだったんだ?」
俺は城の方へ走ると、アナが一人で城の前に立っているのを見つけた。
「アナ、さっきのサイレンはなんだ?ラナはどこへ行った?」
「さっきのサイレンは緊急集合のサイレン。お姉ちゃんはそのサイレンで最前線へ行っちゃった。」
俺は嫌な予感がし、アナと別れると、すぐに街から出て、最前線に向かった。
「ラナ、無事でいてくれよ。」
「はぁ、はぁ、はぁ、これで何体目だっけ?」
「数えてねーよ、でも、おかしいな。このくらいならあんなに怪我人が出るはずないんだが。」
その場で少し休んでいると、突然大きな音がし、目の前にさっきのやつらと比べ物にならないほど大きな怪物が現れた。
「なんだこいつ、でかすぎだろ。」
急いで剣を構えようとしたが、一歩遅く、私たちは怪物に投げ払われた。
「げほっげほっ、はぁっはぁっ!今までとは全然違うじゃねーか。多分、あんだけ怪我人が多かったのはあいつがやったからだ。」
他の小隊の人達に肩を貸されて、怪物の周りをほかの人たちが囲っている間に、私たちは後ろに戻った。
しかし、
「ぐあああああ!」
「嫌だー!」
目の前で兵士達が次々と攻撃され、叫び声が上がる。
「いや......いやだ、ダメー!!」
肩を貸された兵士を振りほどき、怪物に向かって走り出すと、私は剣を怪物の腹部に刺した。
「おぉ!」
「やった!」
周りから小さな歓声が聞こえ、私は怪物の頭を見ると、怪物の体が赤くなり、剣が抜けない。
「そっそんな、んー!」
必死に剣を抜こうとするが抜けず、どんどん怪物の体が赤くなっていった。
「ラナー!逃げろー!!」
レガの声が聞こえ、剣を諦め、必死にその場から走り出すと、怪物の体が爆発し、肉片が飛び散らかった。
「あ、危なかった......」
メルに手を貸され、掴んで立ち上がると、周りからさっきと同じ怪物が何十体も出現した。
「そ、そんな。」
私たちがその場で立ち尽くしていると、
「見つけたぞー!あの城だ!」
後ろから声が聞こえ、振り向くと、隊長が奥を指さしていた。
その方向を見ると、黒い色の城がかすかに見えた。
「ここの怪物達は、あの城を落とせば現れなくなる、行くぞ。」
一斉に走り出し、城を目指すが、怪物達に防がれてしまう。
その瞬間、怪物たちの首と胴体が別れ、結晶となって消えた。
「これは!?」
煙が消え始めると、そこには、
「輪!」
俺は走って最前線まで行くと、ラナ達がどでかい怪物と戦っているのを見て、しばらく様子を見て、たくさん出てきた時に飛び出した。
「輪!どうしてここへ?」
ラナが俺に近づきそう問うと、
「お前が心配だったからな。」
そう言うと、俺は兵士たちに向かって叫んだ。
「今からあの城に攻める!!だが、ここにもまたあの怪物が現れるかもしれない!だから城に行くのは少数だ。俺とこいつの小隊とあと数小隊で行く。それ以外のヤツらはここで怪物と戦ってくれ!この怪物は一度でも攻撃を加えると、即死しない限り爆発する!距離をとって戦うんだ!」
俺たちはすぐに城に向かって走り出した。
「まぁそりゃ、いるよな。」
目の前にはさっきと同じ怪物がおり、行く手を阻んでいた。
「ここは俺らに任せろ。2人は先に行くんだ。」
俺とラナは怪物を他の人に任せ、城の奥へ向かった。
途中、何体か怪物がでてきたが、すぐに倒し、城の奥の部屋へ辿り着いた。
「行くぞ、ラナ。」
「うん。」
ドアを開けると、奥の椅子に鎧を着た禍々しいオーラを纏った男がいた。
「お前がこの城の主か、勝負だ。行くぞ!」
俺は刀を構え、目の前の敵に突っ込んでいく。
敵も剣を持ち、お互いに突っ込む。
剣と刀がぶつかり合い、いくつもの斬撃が放たれる。
(私も何とかしないと)
ラナも剣を構え、敵に向かって走り出す。
「うあああああ!」
ラナは俺と敵の間に入り込み、敵に剣で切りつける。
敵はその一瞬でバランスを崩したのを、俺は見逃さなかった。
足払いをし、敵が地面に転んだ瞬間、すぐに首を斬った。
それを見たラナは地面に座り、俺の方を見た。
「終わったの?」
「あぁ、終わった。」
俺もラナの顔を見て、そう答えるとラナは嬉しそうに飛び上がった。
「やったやった!こんなに早く最前線が広がるなんて!」
そんなラナを俺が見ていると、突然背中に物凄い衝撃と痛みが走った。
「ぐふっ!」
口から血が飛び出し痛みの場所を見ると、体の腹部に剣が貫かれていた。
ラナはそんな俺を見て、すぐに顔色を変え、剣を構えた。
俺も貫かれた剣から逃げて、刀を構える。
「なんで?首を切ったのに、なんで動いてるの!」
俺に剣を貫いた敵は首がないのに動いており、剣を構えていた。
「ラナ、こうなったら連携でとりあえず攻撃しよう。なんとかして、やつの弱点を探すんだ。」
「う、うん。」
2人で同時に攻めると、敵の男はラナに向かって走り出した。
「くっ!」
俺はラナを横に飛ばし、一体一の状況にする。
「ラナ!お前は後ろから攻めるんだ!」
敵の剣と俺の刀が鍔迫り合いをしている最中、ラナは敵の後ろに回りこみ、剣を振る。
敵は横にかわそうとしたが、かわし切れず、左腕が切られる。
が、敵はそんなことなど気にせず、俺たちに向かって剣を構えた。
「あいつ、不死身なの?」
「どうだろうな。あれ限界まで斬ったらどうなるんだろう?」
斬った腕や頭が動く気配はない。
あのままどんどん斬っていけばそのうち動かなくなるのか?
いや、そんな考える暇はない。
俺は刺された場所を手で覆い、魔法で回復させると、すぐに敵に向かって走り出す。
しばらく、三人の斬撃が続き、決定打になる一撃が生まれないまま時間が過ぎていった。
「輪、どうしよう、このままじゃ、私たちの体力がなくなっちゃう。」
「あぁ、あと少しだ。」
そう言うと、俺は全速力で敵に近づき、胴体を横に切った。
ラナは目で追いつけなかった様子で、驚いた顔をした。
「輪!あなた......凄い強いじゃない......」
敵を見ると、胴体を切られてもなお動こうとしており、俺たちに向かって這いずっていた。
「あれで倒せないなんて、もうどうしようも。」
「いや、準備は整った。」
俺は魔道具の水晶を出現させ、魔力を込めた。
その瞬間、水晶は光だし、敵に向かって大きな光線を放った。
光線が放たれた敵の体は全て消え、部屋には俺とラナだけになった。
「この戦いの最中、ずっと魔力を込めてたんだ。あいつの体全てを消すほどのな。」
ラナは口を開けながら呆然としていたが、やがて落ち着きを取り戻し、俺たちは軍へと戻って行った。
最前線から軍へ戻ると、大歓声が広がっていた。
「わーい!」
「やったぞー!」
そんな声が耳に入りながら俺たちは軍の城へと歩いていた。
ラナが嬉しそうな顔をしながら俺に話しかける。
「こんなに早く最前線が進んで、領土が広がったから、みんなうれしいんだよ。」
城に入り、ラナが誰かに呼ばれたので、先にラナとアナの部屋に入って、くつろいでいると、ラナが部屋に入ってきた。
「輪、大ニュース大ニュース!」
「どうしたんだ?」
ラナは興奮した様子で、内容を話した。
「元帥に会えるんだよ!」
「元帥?」
ラナの話によると、元帥とは軍の一番偉い人のようで、滅多に会うことが出来ないらしい。
そして、その元帥が今回の成果を認めて、直々に昇格させて貰えるらしい。
「やったじゃん。」
「うんうんうん、これもみんな輪のおかげだよ!」
ラナと一緒に部屋から出て、元帥の部屋に歩いていく。
「ここか。」
部屋の前につき、ラナがドアを開け、中に入る。
「え......」
目の前にいる人物は俺の見覚えのある人だった。
「ミア......フー......みんな......」
元帥の椅子に座っているのは、アリス。
その隣に立っているのはアリスのいとこのスリア。
目の前の長い机に座っているのは、黄色の髪をした男、ナーガ、茶色い髪の太った男、リード、灰色の髪色の長髪の男、ガノス、団子型の髪をした女、ジーナ、ピンク色の髪の毛をしたロイス、そして、机にそばに立っているのは白色の髪色の俺とよく似た顔の男、フー、ルビー色の髪色の女、ミア。
「みんな、良かった。」
俺がフーとミアに近づき、2人を抱きしめる。
「え、え、どういうこと?輪?」
ラナは状況が理解出来てないようで、その場に立ち尽くしていた。
「良かった、本当に良かった。みんな。」
俺がずっと2人を抱きしめていると、
「あの、君が誰か分からないのだが?」
俺は何を言ってるのかと思い、顔を見ると、2人は不思議そうな顔をしながら、俺を見ていた。
「とりあえず、離れてくれないかい?」
そう言われ、俺は咄嗟に2人から離れると、元帥の席に座っているアリスが喋りだした。
「まずは、ラナ兵士ともう一人の方、この度は最前線でのご活躍、感謝するわ。それで、ラナ兵士は只今より、セイブ軍12小隊から昇格し、特別なチームになってもらいます。そこで、そちらの方もそのチームの一員に加わってもらいたのだけど、よろしくて?」
ラナは嬉しそうな顔をしながら、俺の方を見ていた。
「まぁ、別にいいけど。そんなことよりみんな、どうしたんだよ?久しぶりだってのに。」
俺がみんなにそう言うと、スリアが説明してくれた。
「輪という名前だったわね。私たちはあなたとは初対面です。それから、今度は不用意に私たちに抱きついたりしないやうに。」
みんなどうしたんだ?記憶を失っているのか?
「あなた達2人はこれから一つのチームとして行動してもらいます。今回の件で最前線が一気に進んだ以上、次の決戦で敵の本陣に攻め込みます。その際、あなた達は私たちと共に、敵の親玉と戦ってもらうことになります。」
アリスが淡々と答え、俺たちはラナの部屋へ戻って行った。
「ねぇ、輪。どういうこと?説明してよ。」
ラナが聞きたそうな顔をしていたので、説明した。
「あいつらは俺の仲間なんだ。なのに俺の事を知らないって。でも、あいつらは本当に俺の知ってるあいつらなんだ。」
「なんで元帥達は輪のことを知らないだなんて言ったんだろう。」
「きっと、記憶が無くなってるんだろう。あれのせいで。」
「あれ?」
俺はラナに全てを話した。
30年前、クダと相打ちになるため、俺がクダと一緒に爆発したこと。だが、俺達は生き残り、俺はつい最近目覚め、30年経っていることを知ったこと。他にもいろいろと話した。
それを聞いたラナは驚いたような顔をしていた。
「確か、歴史の本には30年前まではこの辺には草木が生い茂っていて、たくさんの大きな街があったって書いてあったのは。」
「あぁ、本当だ。それらが無くなったのも、俺たちの爆発が原因だろうな。」
そう、俺が森で目覚め、刀を作る街への道、そこから軍への道はとても30年前までとは違った景色だった。草木は何一つなく、地面は固い土しかなかった。
そういえば、俺が目覚めたあの森だけははなぜ草木が生い茂っていたのだろう。
そこで俺は一つの答えが浮かんだ。
「そうか、だからなかったんだ。そうだったんだ。」
そんな俺をラナは不思議そうな顔で見ていた。
「あ、まぁ、あいつらが無事と分かったならそれで十分だ。それじゃ俺は寝るとするよ。」
「うん、おやすみ。」
私の朝は早い。たとえ12小隊でなくなっても、朝の訓練は自主的にやらなければ体がなまってしまう。
軍の外で朝の走り込みを終え、その場に座り一休みをしていた。
「輪......」
この世界は、私が生まれた頃からこんな景色だった。
草木はなく、川はどす黒く、地面は固い土。綺麗な川や草が生えてるのは軍の中や小さな街ぐらいだった。
敵を倒せば、いつかこの景色が綺麗になると信じて、今まで戦ってきた。
それがもうすぐ終わる。あと少しで綺麗な景色が見えるんだ。
思えば、私はあの時死んでいた。輪と最初に出会った時、輪がいなかったら、私たちは死に、あの拠点は今も敵のものだっただろう。
私を守ってくれた輪が好き、ずっと一緒にいたい。
でも、それは叶わない。
輪から聞いた話では、輪には別の好きな人がいて、既にその人と結婚してるんだそう。その人は死んでしまったらしいけど、輪は今でもその人を愛してると言った。
「それでも、好きだよ。」
「......」
俺は刀の手入れをしながら、フー達のことを考えていた。
記憶が失っているけど、あいつらが無事ならそれでいいんだ、それで。
「くっ!」
でも、またあいつらと一緒に生きたい。この戦いが終わったら、一緒に色々なところに旅をしたい。
「フー、よかったの?」
ミアがそう言い、僕の顔を覗いた。
あいつは、僕たちが記憶を失ったと思っているだろう。
しかし、本当は記憶なんて失っていない。失うもんか。
「みんなで決めたろ、これ以上、輪に辛い思いはさせたくない。」
あの爆発の後、僕達は話し合い、セイブ軍を作った。
そして、今までクダとの戦いの日々、そんな中で、僕達は輪が生きてたらどうするのかを考えた。
僕達が弱かったから、輪は自分を犠牲にしようとした。なら、強くなるまでは輪とは関わらないようにしよう。
全ての戦いが終わるまでは。
みんなでそう決め、さっきはあんな態度をとった。
でも、
「よかった。生きててくれて、本当に良かった。」
「あぁ、本当に良かった。」
「うん、うん!」
「......」
私は、強くなりたい......
お昼の時間になり、私はアナと輪の分のカレーライスを持って、2人のところに歩いた。
「はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう。いただきまーす。」
「またカレーか。」
(なんかカレーライスの日が多くないか。)
「当たり前でしょ、金曜日なんだから。」
「ああ、そういうことか。」
三人でカレーライスを食べてる間、私はもう一度、輪に特訓をしてもらうよう頼んだ。
しかし、輪は承諾してくれず、私は俯いた。
「大丈夫だって、前にも言ったが、ここの特訓内容は理想的だと思う。教えるのが下手な俺でもわかるくらいなんだぜ?いきなり強くなるわけじゃないんだ、徐々に徐々に強くなるんだ。」
「......わかった......」
しかし、私は納得いかなかった。
「そうだ、今日はこの後休みなの!軍や街を案内するよ!」
「お、さんきゅー、実は前に街を回った時、迷子になったんだよ。」
カレーライスを食べ終え、
「まず私たちが食べてたこの場所が訓練所、ここでは剣の修行や走り込みを特訓するんだ。」
次に軍の城の中を案内した。
「ここは鍛冶場、武器を生産してるの。」
輪は鍛冶場の中の剣や刀をしばらく見て回ると、満足したように次の場所へ歩いた。
「ここは調理場と食事場、基本はここで食べるんだけど、私たちのように外で食べる人もいるの。」
「でっけ。」
次に屋内の修練場、
「ここは外とは違って、武術等を特訓する場所なの。」
しばらく修練場を見てると、特訓している人達が輪を見ているのに気づいた。
「月夜だ......」
「あれが月夜......」
「?なんだなんだ?月はまだ出てないよ?」
輪が空を見ながらそう言い、私は輪に理由を話した。
「あなたが私たちを最初に助けた時、その日が月夜の日だったから、通り名が月夜の剣士になったんだよ。」
「つ、月夜の剣士......」
輪は顔を赤らめ、下を向いた。
「さあ、今度は街を案内するよ。」
私は輪の手を引き、軍の城から街へと飛び出した。
それから私たちは街の至る所を歩いた。
途中、飲み物や食べ物を買い、一日を満喫した。
街の中を歩いていると、突然俺の頭に黒い何かが降ってきた。
「あ、雪だ。」
「黒いんだけど。」
「雪は黒いもんでしょ、まぁ昔は白かったらしいけど。月も綺麗だね。」
「そうだな。」
私たちは雪が降り注ぐ中、真上にあるでかい月をしばらく見ていた。
「あそこのレストランで何か食べていこっか。」
私の言葉に輪とアナは同意し、レストランで料理を食べた。
「ちょっと私、トイレ......」
「あいよ。」
私はトイレを済ませ、輪達の元へ向かう途中、
「君は美しい......この世の誰よりも......」
「!!」
突然、周りの景色が変わり、人気のない路地裏に変わった。
「な、なんで!?」
「私の魔法だ。」
突然そこに人が現れた。
「あ、あなたは?」
私の前に現れた男はしばらく私の周りを歩くと、口を開けた。
「俺はクダ、君たちの言う敵の親玉だ。」
「!!クダ!?」
私は直ぐに剣を抜こうとしたが、自分の持ってる剣はつい先日、無くしてしまったことを思い出し、拳を構える。
「そんなに気構えなくていい。私は君を救いたいのだ。」
「救う?私を?何を言っているの?」
周りを歩いていたクダは私の目の前に立つと、話を続けた。
「君は強くなりたいのだろう、その願い、私が叶えてやる。」
「!!」
強く......なれる?
「今夜、私はこの街の広場で演説をしようと思う。来てくれるかい?そうすれば、君の願いは叶う。」
そして、クダはその場からいなくなった。
「......」
私は......私は......
「お、ラナ、何してたんだよ。」
「ごめん、ちょっと寄り道してたの。」
「お姉ちゃん大丈夫?」
妹のアナが私の顔を見て心配する。
「大丈夫だよ、アナ、ありがとうね、いつも一緒にいてくれて......」
アナは少し不思議そうな顔をすると、周りを見る。
「あ、もう周りが真っ暗、そろそろ帰ろう。」
「うん、そうだね、じゃあね輪。」
「うん、じゃあな。」
「う、うーん。」
夜中、アナは目を覚ますと、ラナが居ないことに気づいた。
「ん、お姉ちゃん?お姉ちゃんどこ?」
アナは直ぐに部屋から出ると、軍から飛び出し、輪を呼んだ。
「ラナがいないだって?」
「うん、夜中目が覚めた時にはもう居なかったの。」
俺たちは街の中を探していると、軍からたくさんの人達が出てくるのを見た。
「な、なんだ?」
数はとてつもなく多く、街の広場に集まっているようだった。
「あ、お姉ちゃん!!」
「なに!」
アナの指さした場所を見ると、そこにはたくさんの軍人と一緒に広場の中央を見ていた。
俺たちはすぐにラナの場所まで行き、何が始まるのか聞いた。
「あれ、輪、アナも、今からここで演説が行われるの。」
「演説?なんだそれは?」
「とりあえず、彼の話を聞こう。」
時刻が0時を回った瞬間、広場の中央にある噴水のてっぺんに人が現れた。
「!!あ、あいつは......」
クダ......
俺は剣を抜き、クダの元まで飛ぼうとすると、クダを中心とした、バリアが放たれ、俺はそのバリアの中まで入ることが出来なかった。
「くそっ、なんだよこれは!?」
俺はラナたちの元まで戻ると、ラナの手を引いた。
「ラナ、とりあえずここから離れよう!何かヤバい気がする!」
「待って、彼の話を聞いて。お願い。」
ラナがそう言い、俺は諦め、クダの演説を聞いた。
「こんばんは、軍の皆さん、俺は君たち軍が敵とみなすクダだ、ここにいるもの達はそれを承知で集まってくれていると思う。さて、俺が今回このような演説を始めたのは、正直に言えば、仲間が欲しいからだ、強力な、仲間を......」
クダは演説を続けた。
「君たちはこの先、ずっとずっと強くなる、その手助けを俺はしたいのだ、私の元に着けば、とてつもない力を持つことを約束しよう。そして、もうひとつの話だ、果たして、俺は悪なのだろうか?この軍は俺を悪として倒そうとしているが、君たち個人ではどうだろう、私を悪とみなせるのだろうか。逆に考えて見てほしい、この軍こそが、本当の悪なのではないだろうか。不効率な特訓で君たちを最前線へ送り、死なすことが、果たして正義なのだろうか。これで俺の話はおしまいだ、俺の味方する者はこのバリアを突破出来る、来たまえ。」
「広場にクダがいるだって!?」
僕達は兵士からの言葉を聞き、急いで広場へ向かった。
「フー、剣を忘れないで!」
走ってる途中、他のみんなも集まり、全員で急いで広場へ向かった。
「みんな、どうしたの?」
広場に集まった人達のほぼ全員がクダの元まで歩き、クダの目の前に立つと、どこかへ消えた。
そして、
「ラナ!」
ラナもクダの前に歩こうとしたのを見て、俺は止めた。
「見て、あの人ならきっと私の願いを叶えてくれる。」
「そんな、あいつはお前を利用したいだけだ!やめるんだ!」
「私は強くなるの、あなたと同じくらい、強く。」
「ダメだ!!」
「なら私を見てよ!!!」
ラナは大声でそう叫び、俺が言い返せずにいると、ラナはクダの元まで走った。
「ラナ!ダメだー!」
ラナはクダの目の前に立つと、どこかへ消えた。
やがて、クダの話を聞きに来た兵士たちが全員いなくなると、クダは俺の方を向いた。
「やぁ輪、久しぶりだな、お前を見ると、あいつを思い出すよ、エミナをなぁ?」
こいつっ!!
俺は刀を抜き、クダに斬りかかった。
が、バリアによってクダの元まで行けず、バリアをずっと切りつけていた。
「ははは、無駄だよ、このバリアは私の味方しか破れない。」
「クダ!!」
すると、遠くから声がし、振り向くと、フー達が走ってきた。
「やあ、軍のリーダー達、君たちの兵士は半分ほどいただいた。」
「待て!!」
そして、クダはいなくなった。
「......」
俺とフー達は会議室で無言の状態だった。
しばらく経つと、アリスが話し始める。
「1ヶ月後、敵の本陣を襲います。」
それを聞き、俺たちは覚悟を決めた顔になる。
ラナ......
「それじゃ、絶対にラナを連れて戻るから。」
「うん、待ってる......」
アナと別れを告げ、俺たちセイブ軍は敵の本陣へと進んで行った。
「作戦をもう一度言うわ。」
アリスが俺たちの目の前で作戦を話した。
まず、敵の城に着いたら俺達はクダのいるところを目指す。
他の兵士達は敵を倒しながら、なるべく敵になった仲間を連れ戻すようにする。
俺たちは城の中を散らばり、別々のルートでクダを目指す。
「それじゃ、行くわよ。」
敵の城に着き、俺たちは馬車から降りた。
「では、突撃!!」
アリスが叫び、城に兵士たちが飛び込む。
「うおおおおお!!」
兵士たちの前をフー達が先陣し、中に入る。
すると、
「来たぞー!!」
敵のゴーレムやトカゲのような怪物、そしてクダの方へついた元仲間達が襲いかかった。
「おまえー!なんでそっちについたんだよ!」
「一緒に平和を取り戻そうって決めたじゃない!」
「うるさい!」
「こっちは強くなったんだ!お前らごときがかなうわけないだろ!」
見ると、元仲間だった兵士たちの右目には何か得体の知れない物体がついており、戦闘能力がとてつもなく高くなっていた。
「はあああああ!!」
セイブ軍の兵士たちが倒れていく中、ナーガが敵の前に立ち、自身の能力を使った。
「スキル、グラビティ!!」
突然敵の周囲の重力が変わり、敵はその場に押しつぶされるように倒れた。
「こ、これが最高幹部の能力......」
「休んでいる暇はないぞ!全員、進めー!!」
ナーガがそう叫ぶと、味方の兵士達は士気を取り戻し、どんどん城の中を進んだ。
「よし、俺も。」
俺もほかの兵士たちと共に城の奥まで走った。
襲いかかる敵をなぎ払い、気づけば俺は城の中間当たりまでひとりで進んでいた。
「待ってたよ......」
「......!!ラナ......」
目の前のドアを開けると、そこにはラナがいた。
ラナの目にはほかの兵士同様に得体の知れない物体がついていた。
「ラナ......戻ってくるんだ!お前は利用されてるだけだ!」
「私は強くなった!その力、今から見せてあげる!」
そして、ラナは腰から剣を抜いた。
「これは黒雪の剣、黒い雪があなたを凍りつかせてあげる。」
「くっ!」
こちらも剣を抜き、俺とラナは戦闘に入った。
「フー、ミア!ここは私たちに任せて、先に行って!!」
「うん!」
「ありがとう!」
私とフーは戦場をアリス達に任せ、城の奥へ進んだ。
「ミア、こっちだ!」
フーが前を進み、時々出てくる敵を倒しながら、奥へ奥へ進んだ。
「!!」
すると、道の途中で他とは違うゴーレムがいた。
「待って、とりあえず様子を見よう。」
私とフーは自分の剣、夜風の剣と流星の剣を抜き、敵のゴーレムにじりじりと近づいた。
「......」
すると、突然ゴーレムの目が光だし、その場から一瞬で消えた。
「......」
私たちは敵が消えても慌てず、目を閉じた。
「......ここだ!!」
剣を上に突くと、ゴーレムはそれをギリギリで避けた。
「くっ!」
「ミア!」
ゴーレムは私の一撃を避けると、とてつもないスピードで、私のお腹を殴ろうとしたが、それをフーが剣で防いだ。
「僕達なら、大丈夫、できるよ。」
「えぇ、私たち二人なら......」
「ぐっ!」
俺とラナは何度も攻防を続けていた。
「はあ、はあ、はあ、ぐぅぅぅ!!」
確かにラナはとてつもなく強くなっていた。
俺と対等に戦えるくらい。
だが、ラナが戦い続ける度に、右目についている物体がどんどん体に広がっていき、その度にラナが苦しそうにもがいた。
「やっぱり、苦しいんだろう!!辛いんだろう!!今すぐそれを外すんだ!」
「違う、私は強くなったの!こんなの、苦しくなんかない!!」
ラナが黒雪の剣でがむしゃらに向かっていき、俺はそれを刀で防いでいた。
が、ラナ相手に防ぎ続けることは出来ず、身体中に剣の切り傷ができる。
「がっ!」
そして、ラナの剣が俺の腹を貫き、俺は血反吐を吐くと、その場に崩れ落ちた。
「か、勝った......輪に、勝ったー!!」
ラナはそう叫ぶと、その場に倒れた。
「ら......ラナ?」
「これで、おしまいーー!!」
僕とミアはゴーレムを倒し、受けた傷を治していた。
「さあ、行こう!!」
「きゃあああああ!!」
「!!」
奥へ進もうとすると、突然後ろから声がした。
声のした場所へ戻ると、そこはアリス達が戦っている戦場だった。
「な、何が起こったんだ?」
見ると、元仲間の兵士たちの右目についていた物体が身体中に広がり、体全体を覆っていた。
「おい!大丈夫か!」
「そんな......そんな......」
体を物体で覆われた兵士たちはしばらくその場に立ち尽くしていると、突然敵も見方も構わず、襲っていった。
「まさか、クダのやつが!」
僕達は戦場で指示をしているアリスの元へ行き、状況を確認した。
どうやら、兵士たちが戦っている最中、何度も苦しそうにもがいていると、右目の物体がどんどん身体中に広がっていき、最終的に体全体を覆ってしまったという。
「物体に覆われた兵士たちの力はとてつもなく強い、フーとミアはこのまま敵の最奥まで進んで!」
「そんな!僕達もここで食い止める!」
「ダメよ、今ここで戦力を削いだら、クダと相対した時、戦える人がいなくなる。ここは私たちに任せて、行って!」
僕達はアリスの言う通り、奥まで進んだ。
「ふう、久しぶりね、本気で戦うのは。」
「私たちの力、歳をとっても劣らないこと、見せてあげるわ!」
アリスとスリアは空を飛ぶとそれぞれの能力を解放する。
「行くよ、エミナ。」
「私たちのこと、見ててね。」
「はあ、はあ、はあ、これ以上は無理か。」
ナーガは自身の能力を解除すると、グラビティで倒れていた兵士たちが襲いかかった。
「こっちも、あんたらみたいに強くなりたかった!だから、クダ側についたんだ!!」
「弱いやつの気持ちなんか、強いあんたらには分からねぇよ!!」
「「ぐ、ぐあああああ!!」」
ナーガに向かって叫んでいた兵士たちが物体に覆われ、お互いに殴り合った。
「はあ、はあ、くっ、もう一度!」
「ここは僕に任せてよ!」
後ろからリードが現れ、脳力を発動した。
「ぐっ、ぐああああ!!」
リードの能力、それは相手の頭の中に無数の情報を与え、混乱させる能力。その名もブレンナー。
「ナーガ君は後ろで休んでて!」
「すまないリード!」
「はあああああ!!」
ガノスは魔力を込め、魔法のビームを放ちながら、敵のゴーレム達を倒していた。
「ちっ!」
ガノスに襲いかかった敵の兵士たちをなるべく傷をつけないように気絶させた。
「なるほど、気絶させたら謎の物体は広まらないのか。」
それを皆に伝えると、皆はいっせいに敵の兵士たちを襲っていった。
「気絶させちまえばこんなもん!」
「とっとと、元に戻りやがれー!!」
しかし、相手の兵士もそうはさせず、攻防が続いた。
「ここは、私の能力を使うか。」
ガノスは目に手を当てると、力を込め、敵の兵士たちを見た。
「ぐっ!う、動かねぇ!」
ガノスの能力は目で見た敵の動きを止める能力。その名も、ストップアイ。
「今のうちだ、やれ!!」
ガノスの言葉に兵士たちが一斉に前に進み、敵の兵士たちを気絶させていった。
「あああああああ!!」
ラナは苦しそうにしながら、その場で転がり回った。
「ラナ!大丈夫か!ぐっ!」
すぐに腹の傷を魔法で治癒し、ラナの元へ向かった。
「ラナ!大丈夫か!落ち着くんだ!」
「ああああああ!!」
目の物体がどんどん体に広がり、やがてラナの体を全て覆った。
「ら、ラナ?」
ラナの体はどろどろの物体に覆われ、およそラナとは思えない姿だった。
「ぐぎゃああああああ!!」
ラナだった物が襲いかかり、俺は刀で敵の攻撃を防ぐ。
しかし、攻撃しようとすると、ラナの顔が思い浮かび、攻撃できなかった。
「くっ!」
敵の攻撃が幾度となく続き、俺は全てを防ぎきれず、体に傷を受ける。
「くっ!」
俺が......やるしか......ないのか?アナに、連れて戻るって約束したのに......
刀を構え、俺は敵の体を見た。
こんな時、アイツらがいたら......あいつがいたら......
「くっ!早く来いよー!フー!ミアー!」
「「はあ!」」
突然ドアが開き、そこから二人の人間が入ってくると、二人は魔法を放った。
「フー!ミア!」
その二人は、フーとミアだった。
「大丈夫?輪さん。」
「僕達も手伝うよ。」
二人は俺の横に並ぶと、
「あの人の攻撃は僕たちが防ぐ。君は後ろであの人を救う方法を考えるんだ!」
「さんきゅー、フー、ミア、頼んだ!!」
フーとミアは顔をぐっとすると、敵に向かって走り出した。
考えろ!ラナを救う方法を。
「はあ、はあ、はあ。」
「どう?なにか掴んだ?」
俺はフーとミアの横に並ぶと刀を構える。
「ああ、これくらいしか思い浮かばなかった、ふざけた助け方だけど、これに賭けるしかない。」
俺たち三人は一斉に敵に襲いかかった。
傷は付けずに敵の攻撃を防ぎながら俺は敵に話しかけた。
「ラナ!今すぐその物体を放棄するんだ!お前ならできる!」
「ぎゃあああああ!!」
敵が俺に向かって剣を振りかざし、当たる瞬間、声をかけずにミアがそれを防いだ。
「!!」
次に俺は体をくるりと回し、敵を奥へ蹴り出した。
「それが作戦ってわけ?」
「それなら君は気にせず話しかけ続けるんだ!攻撃は僕たちがなんとかする。」
俺は敵に近づくと、沢山話しかけた。
何度も何度も、ラナに話しながら、攻撃をフーとミアが防ぐ。
「ラナ!!お前は弱くなんかない!!時間が足りないだけだ!」
「ぐぎゃああああ!!」
敵は何度も攻撃を仕掛け、フーとミアがそれら全てを防ぐ。
俺もフーとミアが攻撃を防ぎやすいように体勢を変えたりした。
そして、
「ラナ!お前は強い!!」
「!!」
そう言った瞬間、ラナについていたドロドロの物体が消えていった。
そして、ラナの体が元通りの姿になった。
ラナがその場に倒れそうになるところを、体を抱く。
「輪......ありがとう、私は......強い......」
「ああ、お前は、強い......」
俺とラナが涙を流していると、フーとミアが剣をしまい、こちらに歩いてきた。
「よかったね、輪さん。」
「本当、よかった。輪さん。」
二人がぎこちなく俺の名前を呼んだので、俺は口を開いた。
「さっきの戦いで確信した。フー、ミア、お前ら、やっぱり俺の事を覚えてるだろ?」
そう言った瞬間、二人は驚いた顔をし、白状した。
「さっきの戦い、俺はお前たちが次どう行動するかが手に取るようにわかった。同じようにお前らも俺の動きをよく分かっていた。」
「私も、三人の息があってるように感じた。」
フーとミアはその場に立ち、
「ご、ごめん、輪。僕たち。」
「私が言い出したの。輪のことは黙ってようって。」
二人が何か言ってるのを俺は聞かず、二人に近づくと、手を振り上げる。
二人は目をぎゅっと瞑ると、俺は二人を抱いた。
「よかった、覚えててくれて、本当に嬉しい。俺、ひとりぼっちになっちゃったのかと思った。」
泣きながら二人を思い切り抱きしめ、
「い、痛いよ輪。」
「体がしぼんじゃうよ輪。」
フーとミアも泣きながら抱き返す。
しばらくそうしていると、突然、周りから敵のゴーレムやトカゲの怪物、魔獣達が出てきた。
「輪、ここは僕たちに任せて!」
「二人はこの先に行って!」
「悪い!任せた!」
俺とラナはこの場をフーとミアに任せ、奥のドアを開け、進んだ。
バンッ!
一番奥のドアを開けると、そこには
「「クダ!」」
クダが王座に座っていた。
「おやおや、ラナくん、もう強くなくていいのかね?」
「あんなものがなくたって、私は強い。」
ラナがそう言うと、クダは笑った。
「はっはっはっ、強い?お前がか?俺の黒い物体がなければ、そこの輪と対等に戦えやしないのにか?」
ラナは少し下に俯くと、顔を上げ、
「ええ、今の私じゃ輪には勝てないかもしれない。でも、私は強いわ。私は、黒雪の剣士、ラナ!!あなたを倒すものの名前よ!」
「いいだろう!来い!ゴミムシ共がー!」
俺は自分の刀、三日月を、ラナは自分の剣、黒雪の剣を抜くと、クダは自身の剣、地獄の剣を抜き、先頭に入った。
刀を構え、クダに向かって走り出すと、クダはニヤリと笑いながら、とてつもないスピードで俺の懐に潜った。
「はあ!」
クダが俺の腹に剣を貫こうとすると、それを刀で防ぎ、後ろにさがりながら魔法で攻撃する。
クダはその魔法を剣で斬り、こちらに向かってくる。
刀に手を添え、刀の先まで手を滑らすと、刀に火炎が付与される。
「はああああ!!」
クダに迎え撃ち、攻防が続く。
その間、ラナは自身に満ちる魔力を剣に込め、その時を待っていた。
「おらあああ!!」
「うおおおお!!」
どんどん早くなる剣の斬撃が建物の壁やドア、あらゆる場所に届き、城にヒビが入る。
そして、
「ここだー!!」
斬撃が入り乱れ、お互いの体に沢山の傷がつき、血が流れるのを気にせずに、俺は一瞬の隙を見て、クダの体ごと壁まで刀を貫いた。
「ぐはぁ!!まだだー!」
クダが衝撃で剣を床に落とすと両腕からラナたちにつけた黒い物体が俺の体に付着する。
「そうだ!まだだー!」
この戦いの最中、クダは一人の人物を気にしてはいなかった。
自信が弱いと言い放ち、使い捨ての道具としか思ってなかった者の存在を。
「今だ!!ラナーー!!!」
ラナは溜めていた魔力を剣に込め、クダの元まで一瞬で跳んだ。
「無幻一閃!!!」
以前、一度だけ見た俺の技、それをラナは一人で一生懸命練習し、使えるようになった技。
剣がクダの体を思い切り貫き、衝撃で城が崩れそうになる。
「がはぁっ!!!」
クダは口からたくさんの血反吐を吐き、力がどんどん弱まっていくのを感じた。
「くっ、この俺が、雑魚にやられるとはなっ!」
俺の体にまとわりついていた黒い物体がどんどん消えてなくなり、やがて完全に消えた。
「もう、戦場のやつらは黒い物体から解放された。もうそんなものを使う力も残ってねーよ。」
クダははぁと息を吐き、
「すまねーな、みんな、ここでおしまいのようだ、だが!こいつだけは、道ずれにしてやる!」
「あぁ、終わらせよう、元々俺たちはあの爆発で死ぬはずだったんだ。」
城がどんどん崩れ落ちていく中、クダの体が光だし、爆発しそうになる。
じゃあな、フー、ミア、みんな、やっぱり俺はここまでのようだ、エミナ、今行くよ。
俺は目を閉じ、その時を待っていると、
「輪ーー!!」
突然俺の名を叫ぶ者が剣で俺の体を掴んでいるクダの腕を切り落とすと、俺はそいつに担がれ、城から逃げた。
「ち、ちっくしょーー!!」
「輪!輪!輪!」
目を開けると、そこにはラナがいた。
「ラナ、お前が俺を助けてくれたのか?」
「そうだよ!もう、心配かけて!!」
ラナは泣きながら俺を抱きしめ、
「痛い痛い!痛いよラナ!傷がまだふさがってないんだ!」
しばらくそうしてると、フー達が近づいてきた。
「輪!大丈夫か!?」
「あれ!輪、ぐったりしてるじゃない!」
俺たちはしばらく休むと、倒れた仲間や敵だった仲間をお互いに助け合いながら、軍に戻った。
「わーーー!!」
「やったーー!!」
「これで野原が広がるー!」
「美味しいものが食べれるー!」
軍に戻ると知らせが既に届いており、たくさんの歓声が広がっていた。
俺たちは歓声を体に浴びながら、軍の城の中へ入っていった。
「さぁ、まずはその傷を癒さなくちゃ。」
「すー、すー。」
「おっきろー!!」
突然、俺の腹にアナが飛び乗り、衝撃で俺が飛び起きると、
「輪、元帥達が呼んでるよ。」
小さな傷に包帯が巻かれながら、ラナが俺のところに来た。
俺はまだ傷だらけの体を動かし、会議室に向かった。
「来てくれてありがとう、輪。」
アリスが笑顔で俺を迎え入れ、俺達はお互いに抱き合った。
「それで、話って?」
「実は......」
アリスが言うにはクダを倒しただけでは、大地に動物や野原が広がる訳では無いらしい。
一応、小さな範囲を野原にする魔法はあるが、それでは全然足りないとのこと。
「なにか、元々野原が広がっている場所を中心にできれば、周りにも野原が広がるんだけど。」
俺たちが頭を悩まさせていると、
「ん?あれあれ?たしか俺が目覚めた場所は、野原が広がっていたような......」
そう言った瞬間、会議室にいるみんなが
「「なにー!?」」
「そ、それどこ?どこにあるの輪くん!」
スリアに襟を掴まれながら叫ばれ、俺はみんなをそこに案内した。
「確かに、ここは人工的に作られた野原じゃないわ。」
俺が最初に目覚めた場所に着くと、早速みんながそこらの雑草や木々を見た。
「でも、どうしてこんなものが......ここはこんなに野原が広がっていた場所じゃなかったはず。」
みんなが俺を見ると、俺は説明した。
「この場所は、エミナが作ってくれたんだ。エミナと俺の剣が。」
「剣?そういえば、輪くんの剣が刀に変わってるわね。」
「そう、元々ここは野原が広がった場所じゃなかったけど、エミナの剣がこの大地に飲み込まれて、それが源になり、野原が広がったんだと思う。」
「そう......エミナが......」
アリスはこの野原の草木をいくつか見ると、
「輪、お願いできるかしら。」
俺の目を見ながらそう答えた。
「ああ、任せて。」
俺は野原に手をかかげ、こう答えた。
「アヴァロン・ユグドラシル」
すると、野原が世界中に広まり、空は青く、川は綺麗になり、野原が沢山広まった。
「わー、これが30年前の景色なんだね!」
「ふー、空気がおいしい!」
一緒についてきたラナとアナが涙を流しながら遠くの景色を見ていた。
「30年前の景色じゃない、今の景色なんだ。」
俺が遠くを見つめていると、フーが話しかけた。
「ねぇ輪、君はこの後どうするの?」
みんなが見つめる中、俺はラナとアナを見た。
「俺は、こいつらとこの世界を見ようと思う。」
ラナとアナはびっくりした顔だった。
「いいだろう?ラナ、アナ。一緒に世界を見よう!」
「「うん!」」
そして、俺とラナとアナはその場から走った。
エミナ、俺はこれからも、生きていくよ。
〜完〜