表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

低い塔の男

作者: 武田ウグイ

煉瓦造りの塔はとても低かった。荒野のなかにぽつんとある村のはしっこにそれはあった。その村の家々はたいてい土造りで、屋根はかやぶきであり合わせているさまなので、それと比べれば塔はいくぶんマシかもしれなかった。


しかし、塔をつくり、そこに棲んでいる男が主張することには、この塔は地上のどんな建物より立派だというのだ。村人は彼を笑った。とてもおかしなことを言うからだった。塔はかやぶきの屋根よりは高いかもしれないが、それでも約大人一人分の高さで優っているだけだったし、占める面積が村の家が2つすっぽり入るほどだったので、塔というには太く短くずんぐりむっくりだった。


おまけに煉瓦は最初からボロボロで、建設時にすき間を粘土で固めて形になった時点で、塔はもう廃墟のようなありさまだった。それでも住人の男は主張した。どんな建物より立派だぞ、と。


村人たちは塔の男を物狂いに近いものとして噂の中で扱っていた。完全に狂人と侮蔑するにしては男には生活能力があったし、なにより主張や見かけはともかく、これだけの建物を完成させる技術や熱意を村人は持っていなかった。


その代わりに、村人は彼の従来の発言や貧しさに嗤いや侮りをこめて噂した。近所の者も塔の男のそれまでをよく知らなかったのも幸いした。たまに話に筋が通らない尾ひれがついても、気にするよりも楽しむほうが村人の性質だった。




ある時に、キャラバンが村を訪れた。百人近くの商人と二十人の護衛の傭兵がいて、人はラクダに乗り、荷物は馬に曳かせていた。


村人の中にはそういうことをする人たちが世の中にいることを知っている者もいたが、実際に見たことはなかった。珍奇な彼らを一目見ようと、村の広場に人々が殺到した。


「突然押しかけてすみません。私たちは西の道路から街に向かう予定だったのですが、川が増水して橋が寸断されてしまい、やむなくこの村まで迂回してきました」


隊の長らしき豊かな髭をたくわえた人物は村人に丁寧慇懃に釈明した。「でもなあ」 村人たちが露骨に顔に陰りを見せると、長はまた切り出した。


「もちろん我々は避難民ではありません。食べ物も日用品も、村の方々にずうずうしく融通されようなんてことは考えておりません。むしろです。我々が村で買う商品はあなたがたの言い値で払いましょう!」


村人らがざわつきはじめた。喜ばしい表情をうかべている。早速、商談のまねごとを周囲と話し合って、ほくそ笑んでいるグループもいた。


貧しい村はこの商人たちにおおいに好感を持った。庄屋は各世帯が値段を決めることを禁じた。取引価格は話し合いで決めると宣言した。庄屋はがめついが、村の中では頭が切れることは知れ渡っているため、村人は彼の言うことに従った。


それから一両日中に、商人たちは食料を買い求めたいと持ちかけてきた。思っていたよりもとても早く話が来たので、急ぎ彼らは庄屋の家に集まって、一日半以上も売りつける食料の値段について談合した。


その間は買い手たちにひもじい思いをさせるだろうことは何人かはわかっていたが、彼らも構うことはなかった。


村人の提案価格は相場の十数倍もざらで、とても現実に持ち込める内容ではなかった。あきれ果てた庄屋は充分に彼らを説得して価格を決めた。穀物は相場の3・1倍、野菜は1.8倍、貴重な食肉は5倍近い値段を提示した。この価格は庄屋の意向が存分に反映されており、ぎりぎりの瀬戸際を攻めたつもりだった。


ターバンを頭に巻いた使いが庄屋宅にキャラバン側の返事を持ってきた。「払いましょう」と、言うや刹那に村民は歓喜して、次には各々(おのおの)の家へ駆けて行った。価格は決められても、取引自体は自由だった。一刻(30分)もしないうちに、キャラバンの周りには食料を敷物に包んだり荷車に乗せた村の者であふれ返った。


3,4歳ほどの子どもにまで大根を何本も抱えさせる親が何人もいた。より商人たちに近づきたいがための怒号からの喧嘩があちこちで見られので、人間より何倍も大きいキャラバンのラクダや馬がおおいにおびえた。


そのうちの一頭が堪えきれず暴れ馬となったために群衆が雪崩打ち、転んだ運の悪い何人かが大勢に踏まれて死傷した。混乱のために商売は翌日に持ち越された。




翌日の光景は今まで村民が見たことのないものだった。

口伝えだけの村史に「輝かしい栄光」とか、「選民とは我々だ」といった趣旨の言葉が刻まれた。つたない競りの絶叫でこれみよがしに収穫物を商人たちへ掲げると、帰ってきたのは両手が見えなくなるほどの銀貨だった。


村民は貨幣や購入という行為を知っていたが、村ではたいへんに低質な銅貨で行われていて、それですらあまり使ったことはなかった。村の経済は主に食料、布、家具、家畜の物々交換、ときおりは暴力で回っていた。手に入れた銀貨を、村民はひとつひとつ手に取って眺めた。重々しく、輝いていて、麦穂の「黄色」などの価値はそれの前には失せた。


食つなぐだけのような食料で手に入れた銀貨は村をかつてない躁状態にした。村人は銀貨をつかってものを売買したがったが、といっても、今まで彼らのモノの需要はほとんど村内で完結していたため、買う必要があるものは特になかった。


しかし、彼らは富貴の気分をとても欲しており、そのための必要のない贅沢品の需要が急激に高まった。服、調度品、価値もわからない芸術品、果ては遊び用の馬車や牛車などのものを村人は欲しがった。


庄屋は男を十数人ばかりを集めて、最寄りの街まで村人の需要に沿う品物を買い付けに行かせることにした。「帰りは人夫でも荷馬車でも買いつけて村まで運べ!」それが庄屋の念押しだった。


その一行が村から荒野へと出るとき、例の塔のそばを通った。そこであの住人の男が塔の窓から村を眺めているのに何人かが気づいた。


男は村での狂喜乱舞の騒ぎに参加せず、ただいつも通り自分の生活を営んでいた。まず若者たちがはやし立てる。


「おい塔の化け物! こっち面向けろ!」


男は若者たちを見下ろした。男の蔑みの表情がはっきりとわかる高さだったので、男たちはおもしろくなく、全員がなおさら口汚くわめいた。しかし塔の男は何も言わずに、自分の悪口を言いながら荒野へと向かう男たちを変わらぬ表情で見つめていた。




キャラバンの長がその塔に気づいたのはそのすぐだった。数日たっていたが、キャラバンの人間はこの村では貴種の扱いを受けていた。村人にとって、これまでもこれからも腐ることのない財を与えてくれたからだった。その中でも長は特別だった。


彼はこの村でただひとつの煉瓦造りの建物のことを村人に尋ねたところ、それにまつわる噂話が次から次へと出てきた。なかにはあきらかに論理の通らないものもあった。


それでも長は塔の男に興味をひかれた。伺おうとしたところ、村人たちから非常に強い力で押し止められた。「なにされるかわかりゃしません!」場の雰囲気が、それまでの滑稽への嘲笑が怪奇への恐怖に代わっていた。


長は仕方なくとりやめたが、その夕方に三人の護衛の傭兵を用立てた。彼らは村のなかを忍び足で移動し塔の扉をたたいた。厚い木の扉だった。


塔の男は白い髭を生やしてはいたが、長が思っていたより顔は若くしわもあまりなかった。「なにかね? わたしはこれから休むんだが」と男は言ったが、不快さはあまりないようだった。


長は自己紹介をした。それから夜中に訪ねた非礼を慇懃にわびて、どうしてもお聞きしたいことがある、ご返答に対してはお金を払ってもいいと言った。長の後ろの傭兵たちは槍を持ち、腰には曲刀をさげたまま、武骨な無表情で立っていた。


「ま、どうぞ」


内に入ると、そこはほとんど納屋だった。錆びた農具、工具、薪、そして乾燥した泥のような塊が広いスペースに整然と積まれていた。見えない奥にもなにかあるようで、歯車が動く音が聞こえてくる。埃っぽさは仕方なしに、その見た目に反して、さらには晩秋のおりだったが、塔内は想像されるよりずっと暖かかった。


二階建てのようで天井にはランプが灯り、部屋の中央にはストーブがあり、薄く燃えていた。ストーブからは金属の煙突が伸びており、一階の天井を貫いていた。


「ほかのお宅でこのようなストーブは拝見いたしませんでした。これはなにを燃やしているのでしょうか?」


「ヒツジの糞だ。わたしの放牧している奴らのものだ。乾燥させて燃やす」


「それは遊牧民の文化ですね! なぜ村の皆さんはなさらないのでしょうかね? 一度、村のお宅にお邪魔したんですが、隙間風がとても寒いし薪はくずの雑木ですし…」


「昔、教えたんだが、やらなんだ」


男は二階に案内した。そこには絨毯が敷かれ、調度品もあるのでここが居住スペースらしかった。二階の真ん中は煙突によって貫かれていて、煙は塔の屋上から排出される構造のようだ。


二階の部屋の隅には大きな本棚があり、みっちりと本が並べられていた。紙より前の羊皮紙時代の本まであった。長は、なるほど、価値がありそうだと思った。


男は座った長に熱いコーヒーをふるまった。この村で差し出されるものといえば水程度だったので、長は一杯のコーヒーですら腹にとても染み入るものを感じた。


「聞きたいことは、なんだね?」


丸いテーブルの反対側に男が座る。ランプの下であっても暗いので、テーブルの上の燭台にはろうそくが灯っている。


「つまり、あなたに興味があってお伺いしました」


「興味というのは?」


「村の人たちはあなたのことをひどく気味悪がっておられます。こんな建物を場違いに作って、誰とも交わらず、たまに自分の耕地や家畜の世話をしに出かけるだけ。扉を開けた時に見える中はうまやのようだ。いったいどんな生活をしているのか、魔術師か化け物か、と」


「構わんがね。妖怪扱いされようが」


「私は違います。話の核はここからです。私はこの塔がこの村にあるのを見てとても違和感を覚えました。酔狂にしては稚拙ですし、狂気にしては立派であなたは理路整然とされています。なぜこれをつくったのでしょうか? それが知りたくてたまらないのです」


長はからかう様子もなくそう言った。男は少しうなった。つぎに頭をぼりぼり掻きながら言った。


「それで言うなら、呆れだよ」


長は少し分かりかねた。線はつながってはいるが、ところどころで曲がっている感があった。


「それはこの村のひとたちにでしょうか?」


「そうだ。あいつらのなかに混じっている身が、すこしいたたまれなくなってな。おかしなものを造って、おかしなことを言えば、向こうから遠ざかってくれたよ」


「なるほど。私はこの村の人たちを評価できる立場にはいませんが、わかるものはわかりますよ」 長は笑った。男もはじめて表情をほころばした。


「そういえば、あなたは私たちと取引するおつもりはありませんか? これで…」


長は含み笑いをしながら銀貨を出した。男はそれを受け取った。しかし男は臭い顔をして、そばにあったラタンのケースからフォークを取り出してそれを少し削った。


「とても薄い鉄のメッキだな。しかも硬貨自体は鉛ときている。こんなもんは、よそでは絶対に通じんぞ」


長も承知の上だったので、あっはははと笑った。堀の深い顔なので、笑った表情が際立った。彼自身もこんなにうまく、このクズ同然の偽金にせがねが通じるとは思わなかった。


「ありがとうございました。本当に塔の不思議が気になっていましたが、フタを開ければ…でしたね。ハハハ」


塔の扉の前で、長は礼を言った。男は「いえいえ」と会釈した。長と傭兵が塔から暗い夜道へ足を踏み出したとき、後ろで声がした。


「余裕そうだが見落としがあるし、わたしに手出しはできんぞ」


長は吃驚びっくりしてふりかえった。急いで傭兵が三人とも扉に迫ったが、硬く岩のように閉じているうえに、内側で大きいものが動く物音がした。長は悔しそうに「くそっ!」とつぶやいた。




その深夜に、キャラバンの商人と傭兵は村民を次々に襲った。十以上のグループに分かれて家々を一軒ずつあたった彼らは、眠りこけている住人の鼻と口に特殊な粘土の塊を押し当てた。そのうえで短剣で胸や首を刺した。


彼らは手練れていた。心臓や首の動脈を正確に傷つけ、村民をほとんど寝床から動かさずにあの世へ送った。彼らは数日でたいへん村民に気に入られ村の中を自由に歩けたので、人のいる家は把握していた。効率よく村の人命を奪っていった。


あらかた片付けると、若いグループは嗜虐的な気持ちが芽生えてきて、粘土を押し込むだけに留めた。いきなり何かをされた村民は、順序もわけもわからない危険からのがれようと外へ飛び出した。


しかし、呼吸器に突っ込まれた粘土は水分を含むと膨張して固まる性質があった。なので、あとに回された村人は刺殺されるよりも、何倍も長い時間苦しみもだえて路上で窒息死した。喉を掻きむしってまで空気を求め、血をあたりにまき散らす者も何人かいたが、その分の死への苦しみが増すだけだった。


獣よりも低いくぐもった声を出しながら、粘土を押し込んだターバンの若者に命乞いをする村人もいた。彼は幸運なことに曲刀で首を斬られて空気を一瞬得たが、命を失った。こうして寝ていた村の人間は皆殺しにされた。




キャラバンの盗賊団は、次に村の財を徴収し始めた。家々は貧しかったが、金目のものが何もないわけではなく、ほんのわずかに宝石や玉、真珠が埋め込まれた指輪、髪飾り、耳飾り、アクセサリーを根こそぎ奪った。


村人にふんだんに渡した銀貨仕立ての鉛の硬貨の回収も一応忘れていなかったが、多少の見落としがあっても気にしないつもりだった。


それからどこの家にも少しの家畜はいたので、それらはニワトリや豚は食う分だけ手際よく屠殺して塩漬けし、牛馬は荷役の車に繋いだ。


村の近くには渓谷があったが、丸裸にされた村人の死体はすべてそこに投げ込まれた。数百の生きていない男、女、子ども、老人を村人の所有だった牛馬につなげた車で運び、ある程度に分散させて崖に落とした。


下は岩がごろごろ転がっているような荒場だった。谷の底にはオオカミの群れがやってきて、破裂した肉と内臓をひろって食い、岩についた血を舐めすすった。


すべてが終わると翌日の夕方近くになっていた。財物の詰込みはすぐに終わったのだが、死体と家畜の処理に時間を要した。


キャラバンの中では経験の浅い若者が建物に火をつける役割を担っていて、かやぶき屋根に定例通りたいまつを投げ込もうとした。


しかし、長が慌てながらそれを制した。「今回はやめることにする」 と聞いた若者も古参の者も一様に不思議がった。そしてちゅうほどの成果を載せてキャラバンはまた荒野へと出発した。


「長よ、なんで今日に限っては火ィつけないんだ?」


馬車に乗っている傭兵のかしらと役割を与えられていた辮髪(べんぱつの大柄な男が馬上の長に話しかけた。金属の胴鎧を着ており、馬車のなかには彼の偃月刀があった。


辮髪は長から一番の信任を得ていた。長は、彼に塔をあごで差した。辮髪には何の変なところもない塔に見えた。


「あの塔の窓の隙間から狙撃銃が狙っているんだ」 辮髪は驚いた。


「塔を出たあとに気がついた。といっても、狙っているだけで誰か殺られたわけじゃねえ。仕事前に言ったよな? あれはやめとくと。みんな残念がったが、ずっと銃口が俺たちに向いてたんだぜ」


「でもあそこの野郎を始末しないと、俺たちのことが露見する」


「しかし、塔は忍び込むには隙がないし、攻め落とすにも俺たちは軍隊じゃないから、攻城兵器なんて持っていない。となると、入り口のドアをたたき破るしかないが、狙い撃ちにされるだけだ。これまでスマートなやり方に慣れてきたあいつらだ。一方的に殺るのはよくても、一方的に殺られるのはまっぴらなはずだ」


長は悔しそうに顔をゆがめた。そして辮髪に弁明するように言った。


「証人は出したし、とった金目のものもわずか。ながらく獲物にありついていなかったから、止む無しにこんなしけた村で妥協したが…散々だったな」


長はまた憎々しげに、遠景にほんのうっすらと村に佇む塔を振り返った。




二十日たって、村の外へ買い出しに行った若者の一人が戻ってきた。這う這うの体だった。身体全体から肉が脱けた骸骨のようになって、腕には矢が刺さっていた。ともに誰もおらず彼しかいなかった。


大きな城壁のある街の市場にまで行った一行だったが、本物を知っている者なら簡単に見分けられる鉛の硬貨が通じるわけはなく、その日のうちに街から追い出された。


司法のやっかいにすら惜しまれるほどに幼稚な犯罪と呆れられたためにそのまま直帰するはめになったのだが、むしろ彼らのためにはならなかった。


若者たちは片道分とすこしの食料しか持参していなかったためにたちまち飢えた。街へ引き返そうと意見があったが、もう彼らには街に住む人間の非情がトラウマとして強く残ったので、金がなきゃ何もしてくれない、このまま村に戻るしかないと結論づいた。


そんなことはないのだが、どの者も村から外の世界をまったくしらなかったので、いったん学習したものは彼らの揺るがしがたい真実だった。


水場もまばらだったが、飽食に慣れきった腹の悲鳴は収まらなかった。弱りきった彼らを荒野のオオカミがたびたび襲撃し、飢餓と恐怖は極まった。


残り4人の時点で仲間同士を食べあうといった議題が真剣にでたため、この若者は食われるのを恐れて駆けて逃げた。若者は自分以外の男の様子から、共食いは間違いないと思った。


生草と土の下に住む虫とを食いながら若者は村を目指したが、途中で村にいたキャラバンに会った。彼らは矢を射掛けてきた。一矢を食らいながらも必死で逃げて岩場の陰に隠れて難を逃れた。彼はこれほどの悪意に遭遇したことはなかったので、その夜は岩の陰で一晩ずっと震えていた。


帰ってきた若者は村の中に誰もいないことに気が付いた。家畜すらおらず、それぞれの家の寝具には血が染みついていた。役立たずの偽金はわりあいあったが、それ以外の金目のものは何もなかった。


わずかな気力で人を探しとおした若者は、呆とした顔で幾時間も村の広場に腰掛けた。風の音、古くなったかやぶきがこすれる音以外にはしんとしていた。


この村の人間の発声は怒鳴り声に近かったので、彼のほかに一人でもいれば往時を偲ばせることはできたが、もはやそれも叶わなかった。


若者はふいに右腕の矢を見た。そのさきの方角も見た。違和感を覚えたので少し記憶を探ると、あの塔がなかった。


急ぐわけでもなく村のみちを進んで塔があったはずの場所に行ったところ、塔は消えていた。ただその地面には大きな穴が、塔の面積ほどに空いていただけだった。

個人的に「旅のラゴス」の世界的なイメージで書きました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ