何かがおかしい迷宮攻略
統計の結果は以下の通り。
五階層まで行ったのが半分
十階層まで行ったのがもう半分。
十五階層まで行ったのは、アルフォンス殿下とステファノ君のコンビと、別のクラスの友人と一緒に潜ったアルノーだけ。
二十階層まで行ったのは俺だけだった。
「五階層まで行った者たちは、前情報無しで潜った者たちだな。手探りで道を探しながら進めばまぁそのぐらいのスピードかも知れないな」
話をまとめれば、十階層まで行っているクラスメイトのほとんどは上に兄か姉のいるヤツだった。つまり、迷宮の地図なり攻略法なりを上の兄弟から聞いていたヤツってこと。
それでもはじめての迷宮なもんだから、次の角で敵と遭うかもしれないとか考えながら慎重に足をすすめれば接敵なしだとしても放課後から夕食までの時間では十階層が限界ということなのだろう。
十五階層まで行ったアルフォンス殿下・ステファノ組とアルノーと友人組は、最初は慎重に進んでいたが、途中から敵が出ない前提で宝箱も無視して最短ルートで先に進んだんだそうだ。
接敵したら、それ以降は宝箱も探しに行こうってことにしていたのだそうだ。あったまいいね。敵がいるってことは未攻略ってことになるからな。
「本当は、上の兄弟からの情報提供も学校としては推奨されていないんだよね。教育の一環としての迷宮探索だから、自分の力で道を切り開こう! とかなんとか」
「えー。じゃあ十階層まで行った奴らもズルくねぇ?」
「ズルくねぇよ。しっかりした攻略情報聞いてるわけじゃねぇんだから」
「そうよー。兄様も、はっきりした地図くれたわけじゃないから結局私達もハズレ道行ったりしてるし」
クラスメイトたちがザワザワと統計結果についてああだこうだと会話をしはじめた。
そういえば、俺も姉ちゃんからはほとんど攻略情報聞かされてない。そのうえ親からの小遣いまで姉ちゃんのせいで減らされてる。
だいたい、敵のポップが一日一回しかないのに学校の生徒全体で一つの迷宮を攻略するっていうのが無理あるんじゃないのか。
常に一番乗りが敵や宝をとっていってしまうし、出遅れたら敵も宝も取りこぼすし、全然接敵出来ないままだったら経験も積めずに強くなれないじゃないか。強くなれなければ、また他の奴らに先んじられてしまう。悪循環だ。
俺がソレを指摘すると、先生がそれについては説明してくれた。
「あ〜っとね、不文律ではあるんですがね、攻略済フロアより上はねぇ、えー、繰り返し攻略しないのがルールっということになっているんですよ。そもそもね、どこまで潜ったのかというのが成績に付けられるんですから、どんどん下に進んだほうが良いんです。掛け算まで授業が進んでいるのに、毎時間足し算の復習からやっていては授業が進まないのと同じですね」
「でも、一年生だけでも百人ほどいるんですよ。この百人はつい先日の入学式からいよーいどんではじめたんですから、どんくさければとりっぱぐれたりするヤツも出てくるんではないですか?」
先生の説明に、別の生徒が手を上げてそう質問した。たしかにな。
ゲームだと、迷宮内で別の攻略者コンビとすれ違うというイベントがあったのが、すれ違いイベントの後にその先に進んでもちゃんと敵はいたし宝も残されていた。でも、ソレはゲームだからなんだよな。
実際は、向こうから来た友人のライバル攻略者とすれ違ったんならその先にはもう敵は居ないし宝も無いはずなんだよな。
やっぱり、ゲームは主人公の為になんでも用意されているんだし、この世界の住人になってしまうとなかなかご都合主義とは行かないよなぁ。
「うーん。そもそもですね、え〜と、迷宮はとても広いんですよ。接敵がない状態でも全通路をくまなく歩けば一日で五階層までしか行けないぐらいには、物理的に広いんです。例えば一年生が入学式の翌日に百人全員がいっせーのせで迷宮に突入したとしても、西に進む人、東に進む人、まっすぐ進む人、それぞれが接敵したり罠の解除に取り組んだりすることになるはずです。一人が総取りなんてことは、ありえません。たしかに、第一階層と第二階層あわせても、百個も宝箱はありませんが、敵の討伐報酬としての宝石ドロップがありますからね、全くの無報酬で終わるということもないはずなんですが」
自分で言いながら、先生はうーんとうなりながら顎に手を置いて考え込んでしまった。
たしかに、迷宮は広い。底に行くほど広くなっていくが、だからといって序盤が狭いということもない。
いうても、ゲーム中は慣れたフロアならBボタン押しながら進めばダッシュ移動になって時間短縮になるし、接敵してもカップラーメン食べながらAボタン連打してれば倒せたりしていたので、時間がかかったという意識はなかったけど。
実際は、朝活の一時間では宝箱回収の最短ルートを駆け抜けても三階層までしかいけてないわけだしな。迷宮は広い。敵も五階層ぐらいまでは強さが変わらないので、人が沢山いるなと思ったらそのフロアは素通りして次のフロアに行ってしまってもいいのだ。
そう考えれば、クラス全員が宝も接敵もしないまま一日が終わるというのはどうにもおかしい。
「みんな、私から提案があるんだがいいだろうか」
先生が黙り込んだのをみて、アルフォンス殿下が片手を軽く上げて発言をした涼やかでよく通る美声に誰もが顔をそちらに向けた。
さすがメイン攻略対象は顔だけじゃなくて声の美しさも違うな。
アルフォンス殿下は、皆の視線をあつめたままゆっくりと机の間をあるいて教壇の脇まで移動した。
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