アルノーが心をえぐってくる
四日目の朝、朝活で三階層まで攻略してから教室へ行った。
宝箱全回収できる最短ルートだけを通って、その経路にいる敵だけを倒す感じでやっと三階層がギリギリ遅刻しない限界って感じだな。
昨日のうちに二十階層まで行ってるから、いきなり二十階層に飛ぶって手もあるんだけど、昨日は接敵無しだったので敵の強さが全くわかってない。
そんななかでいきなり二十階層まで行くのは命がデンジャーなのでやめておいた。
案の定、三階層の敵は二階層の敵より一段強くなっていて最低限の敵とだけ戦っても朝活時間ギリギリになってしまったし、最後の方はちょっと正直ちょっとやばかった。ソロは辛い。
ギリギリだったので、先生がすでに教室に入ってきていてホームルームが始まっている。
「よお、今日はだいぶギリギリだったじゃないか。また朝活か?」
コソコソと後ろからアルノーが声をかけてきた。先生の話し中にコソコソ話すとか青春っぽくていいよな!本当に人見知りなんでこんなことでもウキウキしてしまうんだよな。
「今日は朝活で三階層まで行ってきたぜ。でも、ソロだとこれ以上先はキツイ気がする」
「そういえば、昨日の放課後はどこまで行けたんだ?」
「昨日は、二十階層まで行ってきた」
ここまで、体は前を向きつつ顔を少しだけ横に向けてコソコソと後ろの席のアルノーと喋っていたのだが俺が二十階層と言った途端にアルノーがガタンと音を立てて立ち上がった。
「二十階層だと!? 昨日の放課後だけで!?」
「シー! シー! ホームルーム中だぞアルノー!」
アルノーが立ち上がりながら大きな声で叫ぶから、先生の声もとまり、教室中から視線が集まってしまった。
俺も、コソコソとか言ってられなくなり体ごとアルノーに向けてなだめるように手の平ですわるようにジェスチャーするんだが、アルノーは全然聞き入れない。
「二十階層とは? アルノー君とディレーラ君で二十階層まで攻略したのですか?」
学生の間は身分関係なく平等であるというのが建前としてあるので、学校の先生は生徒の事を家名で呼ばずに名前で呼ぶ。
俺たちの席の脇まで歩いてきていた先生が、俺とアルノーの顔を交互に見ながら静かに聞いてきた。
「いえ、ディレーラがソロで二十階層まで行ったそうです。昨日」
俺が何か言うよりも早く、アルノーがきっぱりとそう返事をした。先生が顎に手を当てて思案顔をしたが、それよりもクラス中の生徒がたちあがりブーイングをしはじめた事が問題だよ。
「はぁ!? 昨日のうちに二十階層まで行ったのか!?」
「じゃあ、昨日全然敵もいねぇし宝もなかったのはお前が独り占めしたせいかよ!」
「ソロで二十階層とか嘘だろ! こっそり伯爵家の騎士か侍従連れてったんじゃねぇのか?」
「なんか、持ち込んじゃイケねぇ兵器持ち込んでんじゃねぇのか」
「顔も良くて強いなんて格好良い! 彼氏になって!」
「クソイケメンが! 爆発しろ!」
「小遣い返せ!」
「独り占めするとかせこいぞ!」
なんか、関係無いことまで言われている気がするけどあっちこっちから一斉に色々言われているので何に返事をすればいいのか、誰に反論すればいいのかわからなくて何も言えなくなってしまった。
愛想もよく出来るし人当たりも良い自信もあるが、俺は基本的に人見知りで人が怖いのだ。こんな一斉に色々言われたら足がすくんでどうしようも無くなってしまう。
伯爵家の長男に生まれて顔もイケメンなんて、生まれたときから勝ち組人生決定だし明らかに陽キャに育ちそうなものなのに、こんなところで前世の記憶が足を引っ張る。
あー、とかうー、とか言って何も言えず、ついにうつむいてしまった俺の前にアルノーが俺に背中を向けて立った。
「そんなに一斉にやいのやいの言ってやるなよ。ディレーラは独り占めしようとしたんじゃなくて友達がいないからソロで潜ってるだけなんだよ。友達になって一緒に二十階層行こうぜって言ったほうが得だぞ」
かばってくれているつもりなんだろうな、アルノーは。でも、アルノーの言葉がグサグサ心に刺さるんだが。
「はい、はい。あー、静かに静かに。うーんと、アルノー君も席にもどって。みんなもいったん落ち着こう」
パンパンと手を叩きながら先生がそう言ってみんなを落ち着かせた。
「え〜一限目は、私の受け持つ王国史の時間でしたね。あーっと、では授業をお休みしてホームルームを延長しましょうか」
先生は教壇に戻るとそういってクラス全員の顔をゆっくりと見渡した。そして最後に俺の顔をじっと見つめる。いやん。はずかしい。
「あ〜、ディレーラ君。えーと、入学二日目に二十階層まで攻略するというのは前代未聞といえる快挙ではありますが、ソレをソロでこなしたとなるとやはり不正を疑われる余地ができてしまいます。どのように攻略したのかを、可能な範囲でみんなに共有することはできますか?」
この、先生の「可能な範囲で」というのは魔法を使う人間に対する配慮なのね。貴族には、門外不出の先祖伝来の秘術ってのがあったりする。魔法使いが排出する家柄にはそういうの多いのね。
だから、ソロで二十階層攻略ってなると家に伝わるなにかすごい技か魔法があるのかも知れないって考えて「可能な範囲で」って言ってくれたってわけ。
ただ、ソレは関係ないんだよね。
「俺が二十階層までたどり着けたのは、敵も罠も宝箱も全部攻略済だったからだよ。えーっと、ワケあってある程度の道順を知っているから、宝箱の無い行き止まりの道を無視して走ったんだよ。二十階層までイケたのはほぼ最短距離を無戦闘で駆け抜けたからだ」
全くつまらない。昨日は結局地下迷宮ランニングをしただけで終わってる。この迷宮探索が楽しみで今生の人生を生きてきたっていうのに。
「入り口から二十階層まで駆け抜けるはやさで攻略しても、すでに攻略済? それは……何かおかしいな」
俺の説明を受けて声を上げたのはアルフォンス殿下だった。
アルフォンス殿下は自席で立ち上がると、ぐるりとクラスを見渡した。
「ディレーラだけではなく、皆に聞こう。それぞれ、昨日は何階層まで攻略した?どんな方法で攻略をしたのか、差し支えない範囲で利かせてほしい」
そうやって、クラス全員の迷宮攻略の進捗を聞き出して統計をだしてみた。アルフォンス殿下が。
俺は、自分への視線が無くなってホッして席に座り、統計結果を興味深く聞いていた。
活動報告にご報告がございますので、よろしければ一読おねがいいたします。