ゲームシステムの検証がしたいって思うじゃん?
「おっはよー!アルノー君!いい朝だね!」
俺は教室に入るなり、すでに自席に座っていたアルノーに明るく朝の挨拶をした。
昨日は、「後で話がある」とかステファノ君に言われた割には特に声もかからず午後の授業を受けて終わった。
放課後に早速迷宮探索に行こうとしたんだが、魔物の出る階層まで行くなら装備を整えろとか言われて潜れなかった。
そういう事は、前日のうちに言っておいてよねーって感じだよな。まぁ、備えあれば憂いなし。油断大敵火事ボーボーだもんな。
風邪だってこじらせれば死ぬし、ジャンプのタイミングを間違えれば最初のクリボーでも死ぬしな。
「ディレーラは朝から元気だな。……しかもなんだ?なんか埃っぽくないか?」
「わかるぅ? ちょっと朝探行ってきたんだ」
「は? アサタン? なにそれ」
アルノーの席の前の席が俺。
かばんを机の上に放り投げて、椅子を引き出してくるりと優雅に回転しながら座る。後ろ向きに。背もたれをまたぐようにね。これぞ必殺「格好良い椅子の座り方<ちょいワルバージョン>」だぜ。
「朝の迷宮探索。略して朝探だよ」
「なに、ディレーラ朝から迷宮潜ってきたの?」
アルノーが目を丸くして驚いている。そんなに驚くことでも無いんじゃね?
前世の学校だってさ、運動部なんかのやつは授業前に朝練とか言って授業前に部活やってたしな。放課後の迷宮探索がクラブ活動みたいなもんだと思えば、有りだろう?
「朝だと、時間的にも転移陣のあるところまで行けないだろ?そもそもフロアボス倒す時間ないだろ」
「まぁね。二階層の最深まで行って戻ってくるのが精一杯だったよ」
「それ、意味なくねぇか?」
アルノーが呆れたような顔で聞いてくるが、意味がないなんてことはないんだよね。確かめたい事があったのだ。
「昨日さ、先生が『宝箱や仕掛けは一日経ったら復活する』って言ってたじゃん?その『一日』ってのがどういう意味なのか確認したかったんだよね」
「はぁ?一日は一日だろ?」
アルノーは何いってんのみたいな顔で言ってくるが、俺はチッチッチと指と顔を振ってどや顔をしてみせた。アルノーは嫌そうな顔をした。ふははははは。
「一日って言ってもさ、夜中の零時を過ぎたら復活するのか、開けてから二十四時間経ったら復活するのか、夜明けと共に復活するのかわかんないじゃん?」
前世のソシャゲのログインボーナス復活時間がゲームによってマチマチだったかんね。イケラビのゲームでは迷宮の出入りがトリガーになっていたから「一日経ったら」の定義がわからなかったんだよね。
「それで、朝から探索してきたのか……」
「そうだよ!そして、コレが今朝の戦利品でーす!」
ポケットやかばんから薬品瓶やら宝石やらをバラバラとアルノーの机の上に広げてみせる。
「一階層、入り口入ってすぐの隠し部屋から二階層までの全部の宝箱開けてきたんだ♡」
「キモッ」
「一階層の入り口すぐは、昨日の午前中の迷宮見学の後にサイゼ君が開けてただろ。それが、授業前の迷宮で宝箱復活してたってことは、一日ってのは二十四時間じゃないってことだ。だとすると、次に検証するべきは日付の変わる時間や早朝定時なんかの時間によるのか、日暮れや夜明けといった自然現象がきっかけになっているのか、だ」
一階から二階なんて、迷宮的には序盤も序盤。そこから出てくるアイテムなんて値段としては大したこと無いものばかりだ。
でも、まさに「俺達の迷宮探索はこれからだ!」って状態の今なら大いに役立つアイテムである。回復アイテムや、一時的な能力アップアイテムは購買でも買えるものだが序盤の今だと地味に高い。拾えるものは拾っておいたほうが迷宮探索はやりやすい。
いや、伯爵家の息子じゃーんって思うんだけどさ。お小遣いもっと持ってても良いんじゃなーい? って思うんだけどさ。
全寮制だからお金いらないでしょーとかいってお金くれなかったんだよね。姉ちゃんも「迷宮潜ればウッハウハだから学校行っている間はお小遣いなんかいらないよ」とか言ってたし。
あの女、自分が三年生の時の記憶だけで喋っていたに違いない。一年生の潜りはじめはお金ないんじゃーい!
「そこを検証してどうすんの。零時更新だったら、毎日夜中に潜るつもり? 奥に行くほど一人では攻略できなくなってくるんだから、夜中の探索仲間を探さないといけなくなるよ」
「アルノーは……」
「夜はしっかり寝たいタイプなんだよ、俺」
断られてしまった。
「まぁ、朝のうちに回収できる宝箱を回収しちゃえばさ、放課後の探索で寄り道せずにまっすぐに二階層ぬけて三階層からはじめられるじゃん。アイテム回収のために放課後ピンポンダッシュしなくて良いってのはなかなかのアドバンテージになるんじゃないか?」
アルノーの机の上に置いておいたアイテムを掴んでかばんにしまう。そろそろホームルームの始まる時間だ。
「楽しいなぁ、アルノー。迷宮のある生活ってのは楽しくって仕方がないな!」
そう言って前を向いた俺に、アルノーがボソリと何か言った気がした。聞き返そうとしたんだけど、ちょうど先生が入ってきたので聞き逃してしまったんだよね。