非モテはとっても楽しいよ!
メダルの扉を潜るといよいよ迷宮の第一階層が始まる。
冒険の始まりだ!と心をときめかせたのもほんの一瞬だけだった。
「はぁい。遅れず付いてきてくださいねぇ。この階層には出てきませんが、二階層からは魔物も出てきますからね、気を付けてくださいね。あ、ここを左に曲がると宝箱のある隠し部屋があります。宝箱は罠や仕掛けと同じで一日経つと復活します。今日は迷宮の説明なのでこのまままっすぐ進みますよー」
先生が全部説明してしまう。ゲームだとワクワクドキドキおっかなびっくり進みながら、物知り優等生なディジーとの会話で迷宮のルールを知っていくところなのに。
まぁ、ディジーはティターニアと同じ第三クラスなので最初に俺と組むことは無いんだけどさ。
「迷宮の宝箱は早い者勝ちで、手にした宝は持ち帰って構いません。自分で使用しても良いですし、不要な物は購買部で買い取りもしています。ただし、宝箱から何を得たのかは学校に報告する義務がありますので注意してください」
ほぼほぼゲームと同じだな。ゲーム内で回復アイテムや武器防具を買うためには金がいるわけだけど、ゲームだとその金は迷宮の宝箱から得たアイテムを売ったりして作ってた。先生は一日経過すると復活すると言っていたが、ゲームでは一旦迷宮から出れば復活していた。
これは、ゲームの方がシステム的に便利になっていただけだろうな。
チュートリアルを兼ねた一番最初の階層なので、道に迷うような複雑さもなく最奥までたどり着いてしまった。
「えーとね。五階層ごとにフロアボスが居ます。それを倒すとここにあるような魔法陣が現れますんでね。帰りは楽チンですよ」
先生は足元にある青く光る小さな魔法陣を手で示した。
直径一メートルほどの光るサークルなので、グループで一度に移動したりは出来なそうだ。
「この魔法陣の上に乗って、壁にある手のひらサイズの魔法陣に学生証をペタッとタッチすれば移動します。上の赤い魔法陣をタッチすれば入り口に、下の青い魔法陣をタッチしたら下の階層に行きます」
足元の魔法陣の他に、壁に手のひらサイズの魔法陣が縦に二つならんで光ってた。なんか、歩行者用信号機みたいだな。
ゲームだと魔法陣に乗ったら「進みますか?戻りますか?」って選択肢がでて選んだら画面転換だったんだよね。
なるほどこんな感じなんだな。魔法の装置!って感じでめっちゃ格好いいじゃんね。
「先生質問です!」
「はい、アルノー君」
ズビシッと元気よく手を挙げたアルノーを先生がゆるゆると指をさす。対比が面白いな。
「毎日一階層から潜ってたら時間が掛かってしまうと思うんですが、攻略済の階層を飛ばしたりは出来ないんでしょうか!」
あー、なるほど。
ゲームだと一階入り口の魔法陣に乗って「何階層に行きますか?」って質問と、クリア済の階層が選択肢として表示されるんだよね。それで選んだ階層に飛べるんで、当然ここでもそうだと思って疑問にも思わなかったわ。
「良い質問ですねぇ。入り口にある魔法陣から、一度利用したことのある各魔法陣へと転移が可能になっています。魔法陣は五階毎にあるので、三階まで下って帰ってきてしまうと、翌日はまた一階から始めなければなりませんが、五階まで頑張って魔法陣で戻ってきていれば、次の日は五階からスタートできるわけです」
「ありがとうございました!よくわかりました!」
だいたいゲームと一緒だ。
であれば、レベル差で敵が倒せないという問題はあるが、攻略対象全ルートクリアするのに死ぬほどこの迷宮を周回してマップを覚えている俺にはだいぶ有利なんではないか?
ここにくるまで、先生が「今日は寄り道しないけど、あっちはああなってるよ」みたいな解説を聞いてもマップが変わってると言うことも無さそうだった。
デブになるために甘い物を食べまくって増えた魔力と、そのせいでスパルタ教育をうけさせられた魔法で、序盤のスタートダッシュでクラスメイトに差は付けられそうだ。
「クフフフフフ」
「ディレーラ、笑い方気色悪い」
非モテの為に気色悪い笑い方を研究したからな!あと十二種類ぐらいバリエーションあるんだぜ。
しかし、思わず笑いがこぼれるほどに楽しみで仕方がない。前世でなんで死んだのか思い出せないけど、アニメとゲームオタクだった俺がこんな楽しい人生に生まれ変われるなんて本当にラッキー!
「先生!まだ午前の授業時間は余ってます!このまま次の階層も行きませんか!?」
アルノーに倣って俺もズビシッと元気よく手を挙げて提案する。二階層からは弱いけど魔物が出る。つまり、戦闘があるんだよ!
魔力吸収石を握って素振りしてた魔法の練習じゃなく、本当に魔法が撃てるんだよ!オラ、わくわくしてきたぞ!
「残念ながら、ココから先は二十歳を超えた大人が入れない様になっています。なので、先生は引率ができないんですねぇ。なので、この時間に先には進みませんねぇ。放課後のお楽しみとしてください」
んんん?
この先は大人が入れない?
「それは、そう言う校則だからとかそう言うのですか?」
「いいえ。物理的に、魔法的に入れないんですねぇ。魔法陣に乗っても、大人は下の階層が選べませんのです。迷宮七不思議の一つなんですねぇ」
特にゲームでそんな話は無かったと思う。けど、確かに探索パートナーとなる攻略対象に先生などの大人は居なかったな。
恋愛シミュレーションゲームなら『大人の男』枠があっても良かったはずなのに。ゲームには特に説明が無かったし、学生同士の攻略対象が大勢居たし「本当に学生かよ?」みたいなヤツも居たので気にはしてなかったんだけどな。こんな理由があったとは。
ただ、この先は大人が入ってこられないとなると万が一の時に大人が助けに来られないということだよな。あんまり無理して大怪我したり死んだりしたら洒落にならないんじゃないか?
そのへんの安全対策ってどうなっているんだろう?先生に質問してみようかと思ったが、ちょっと思考に沈んでいたらもう周りは半解散みたいな雰囲気になっちゃってた。ざわついてるし後で良いか。
その後は、一階層内をそれぞれで探索してみましょうという事で昼まで自由時間になった。
宝箱のある隠し部屋にチャレンジしてみるヤツや、右手の法則で端から端まで歩いてみるヤツ、魔法陣で入り口と一階層奥を行ったり来たりしてみるヤツと様々だった。
俺は移動用の魔法陣の真ん中に立ち、学生証を制服の内ポケットから取り出して人さし指と中指の間に差し込む。
俺的格好良いカードの持ち方だ。
「我が身をその光につつみ、望むべき場所へ運べ!!《転移》」
叫ぶと共に、ズビシッっと学生証を壁の赤い魔法陣にかざせば、足元の魔法陣が光りだして身を包む。
目の前の景色が歪んで消える直前、呆れた顔をしてこちらを見ていたアルノーと目があったのでウィンクしてみせた。
厨二病は楽しい。非モテを目指そうと考えてからは厨二病を発症させるのに躊躇などなくなっているんだぜ!