地下迷宮の入り口には浪漫を求めたい
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ヒロインちゃんをアルフォンス殿下に向かって放り投げた後は、結果も見ずにすたこらさっさとその場を逃げ出す。
俺が放り投げたのはばっちり見られてるだろうから、その場に留まっていたら何をするんだ!とかの俺への追及が始まってしまうからね。
それじゃあ出会いイベントのやり直しにならないもんね。その場に俺さえいなければ、「なんなんだあいつは」みたなセリフが一つ追加されるだけで、ちゃんと出会いイベントを遂行できると思うんだよね。
「きゃっ!(裏声)」
「大丈夫かい?…君は?あまり見ない顔だね(作った低音ボイス)」
「あの…最近叙爵されたばかりなので、ご存知ないのだと思います(裏声)」
「あぁ!あの画期的な魔道具を開発して財をなした家だね。そうか、令嬢が居たのだね…(作った低音ボイス)」
「あの、礼儀やマナーがまだ至らないところもあります。不敬があったらお許しください(裏声)」
「構わないよ。…そうだね、何か貴族のしきたりなどで解らないことや困った事があれば頼ると良い。私の名前はアルフォンスだ(作った低音ボイス)」
「えっ!うそ!王子様!?(裏声)」
「何やってんの?ロッティンベルグ」
俺が、結局見られなかった出会いイベントを自分で再現してるところを、級友のアルノーに見られてしまった。
俺の肩を叩きつつ、引きつった顔をしている。
「いや、教室の前でアルフォンス殿下と知らない可愛い女の子がぶつかってたからさ、きっとこんな出会いイベントが発生してるんだろーなーっていう…」
「趣味は自由だけどさ、声に出さずにやった方がいいぞ。できれば人目に付かないところでな」
「ご忠告どーも」
モテない為に変人扱いされても良いのだ。あえて奇人変人を演じてるんだから余計なお世話であるが、忠告は一応聞いておくことにしよう。友情は大事である。
アルノーは同じ第一クラスに所属している男子で、ゲームには出てきていない。いわゆるモブキャラと言う奴なんだが、すごい良いやつなんだ。
入学初日で良い奴も何も無いだろって感じだが、人見知りな俺に声をかけてくれただけで良い奴ポイント一億点だ。
前世でアラフォー独身貴族のアニメゲームオタクなんて人見知りで当然だろう。新しい人間関係作るのが嫌で安月給でも転職しなかったんだからな。
十二年間ディレーラとして育ってきて、貴族の振る舞いが身についたところでこういう所は変われなかった。家から離れて完全寮制の学校に入るなんて怖くて仕方がなかった。いくらゲームで前知識があったとは言えね。
そんな俺に対して、アルノーは寮の部屋が隣同士だなって入寮説明会の時に声をかけてくれたんだよね。そんで、今日も「同じクラスだったな!」ってまた声をかけてくれた。良い奴だ。泣きそうだったよ。
「アルノーはもう寮に帰るのか?」
「あぁ、今日はまだ迷宮探索無いらしいしな。ロッティンベルグも帰りなら一緒に帰ろうぜ」
「おう!ていうか、ディレーラでいいって」
「じゃあ、ディレーラ。帰ろうぜ」
あぁ、なんて良い奴!
寮に戻って、学校で貰ってきた時間割表を壁に貼り、明日の授業の準備をする。
今日はもう出かける用事もないので制服を脱いで部屋着に着替え、ベッドの上に寝転がった。
しかし、せっかくのゲームイベント生視聴のチャンスだったのに惜しいことをしたよな。
さっさと廊下にでて、柱の影から覗いてれば良かったかなぁ?それとも、王子の後ろにくっついてすぐ後からでれば良かったかなぁ?
まぁ、見逃しちゃったものは仕方がないよな。
一応、ゲームは3年間の学校生活が舞台だから、まだまだ丸々三年もある。
これからいくらでも名シーン目撃チャンスはあるよな。
ゲームもスマホもテレビもない世界に転生しちゃったもんだから、それぐらいしかもう楽しみ無いじゃんか?
とか思っていたんだけどさ、そういえばこの世界のお楽しみがあったよね。
そう!迷宮探索だ。
学園の地下迷宮を放課後に生徒たちで探索するんだよね。ゲームでは、解錠するのに謎解きがあったりパズルがあったり道具を駆使したりして深い階層を目指していくんだよね。
この世界の迷宮も同じようにギミック満載だと楽しそうでいいよな。どんな迷宮なのかワクワクが止まらないよね!
そして翌日、早速迷宮探索の説明会があった。ゲームで言うところのチュートリアルである。
「えーっとね。本来は放課後に二人組みを作って潜ってもらうんですが、君たちは最初なので今日は授業の一環として、先生の案内で第一層まで潜ってもらいますからね」
そういって先生の引率でゾロゾロと教室を出て移動する。一年生全員で潜るには狭いので、クラスごとに順番らしい。俺たちは一組なので一番最初だ。
「他の教室は授業中なので、静かに移動するんですよー」
ううーん。全く懐かしい雰囲気だ。小学校とかで、順番に予防接種受けるときとかこんな感じだったよな?
ここも、ゲームだとちゃっちゃと進むんだが、リアルであればそういうわけにも行かないもんな。
「アルノー。俺、迷宮探索めっちゃ楽しみなんだよな。ワクワクしないか?」
こそこそと、隣を歩くアルノーに声をかけたら、人さし指を口にあてて眉をしかめた顔を向けられた。なんだよ、アルノーは真面目君かよ。
迷宮の入り口は学校よりも寮の近くにあった。見た目はなんか、体育館の脇にある用具入れの倉庫みたいな感じだった。
なんかもっとこうさ、迷宮の入り口なんだからロダンの地獄門みたいなのでも良くない?って思うけど、この感想をこの世界の人とは共有できないのはなかなかつらいね。
ゲームだと、「迷宮探索に行きますか?」で「はい」を選ぶともう迷宮に入った所から始まるから、地上にある入り口のデザインは出てこなかったんだけどさ、コレはないよね……
「コレはないわぁ」
「アルノーもそう思う?思うよね!?コレはないよね」
ロダンの地獄門のイメージは共有できなくても、入り口が用具倉庫なのにがっかりする気持ちは共有できるのだね!?
「ああ、地下迷宮はお宝の山だって聞くぞ?こんなちゃちい入り口で大丈夫なのかよ」
アルノーは俺とは違う方向でがっかりしていたようだった。
地下迷宮に浪漫を求めているのは俺だけなのだろうか。
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