みんなで朝活
おひさしびりの更新ですみません。
早朝。日の出直後なので朝というにも早い位の時間に、クラス全員で迷宮前に集合していた。
「最終確認だ。昨日、五階層まで行った者の半分は一階から下がっていく、もう半分は五階層へ転移してそこから登って行く。十階層まで行った者は十階層まで転移してそこから登って行く」
アルフォンス殿下の隣に立って、ステファノ君が皆に指示を出していく。なんだろね、同じ歳のはずなのにとっても堂々として立派だ。
前世で大人……というよりおじさんの歳まで生きたというのに「剣と魔法の世界だひゃっほー!! ヒロイン無視して冒険者目指すぜヤッター!!」とか思ってる俺とは大違いだ。
「十五階層まで行ったのは、私とステファノとアルノーか。ディレーラは二十階層まで行ったんだったな」
「はい」
アルフォンス殿下が、こちらを向いて確認してくるので端的に返事をした。メイン攻略対象様だからね。適度な距離感の友人枠に収まりたい。
「君の話の通りなら、朝の迷宮には敵がいる。せっかく二十階層へ転移できるので惜しいだろうがディレーラは私たちと一緒に十五階層スタートだ。登っていって十階層の転移陣を目指す」
「むしろそうして貰えて助かります」
昨日は敵が全然居なかったから二十階層まで潜れたんであって、今の自分の強さでは二十階層の敵にソロで挑むとか自殺行為だもんね。
メイン攻略対象のアルフォンス殿下とその護衛でありやっぱり攻略対象のステファノ君が一緒ならだいぶ心強い。
「かなり早い時間に集まったとはいえ、授業開始までという時間制限付きだ。次の転移陣まで進めなかったとしても、時間をみて戻ってくるように。さぁ! 早速攻略を開始しよう!」
アルフォンス殿下が、パンっと手を打って声を張る。やっぱり人へ指示するのに慣れてるんだろうなぁ。良い声。
クラス全員で「はい!」と良い返事をして迷宮に駆け出した。
入り口の、一番最初の王のメダルのパズルは俺がチャッチャカと解いてドアを開けてしまう。前世でプレイした記憶もあるのでもう絵柄の順番は暗記してしまっているんだよね。語呂合わせで覚える必要すらないんだ。
入り口のドアが開くと、まずは一階から降りて行くチームが飛び込んで行った。サッと三組に分かれて脇道に別れていく。
そうだね、一階だけは敵は出ないけど宝箱あるからまずはそれの回収だよね。
一階上からチームが散り散りになって居なくなった太い道を皆で駆けていく。朝活は時間との勝負なところがあるからね。駆け足駆け足!
「深く潜る事になる殿下達から転移陣を使ってください」
一階の一番奥にある転移陣の部屋に到着すると、委員長がそういって俺たちに道を開けてくれた。アルフォンス殿下が「ありがとう」と言いながら転移陣に乗って、次にステファノ君、アルノーと続いて乗っていく。最後に俺が乗るとステファノ君が転移スイッチを作動させる。
「我が身をその光につつみ、望むべき場所へ運べ!!《転移》」
朗らかに、大きな声で叫ぶ俺。
見送るクラスメイト達と、後ろに立っているチームメイトの視線が痛いが、それがたまらないな。地面の魔法陣から光が溢れ出し、俺達の目の前からクラスメイトたちが消えた。
片手は腰に、反対の手は天を指差すポーズを取っていた俺。だが、魔法陣からの光が消えれば回りは暗い洞窟だ。静まり返った洞窟の中でポーズを取っている変な人でしかない。
「ディレーラさぁ。それ、毎回やるの?」
「格好良いだろ?」
アルノーが背中から声をかけてきた。声の調子から呆れていることがわかる。良いじゃないか別に。迷惑かけてないんだし。
「冗談はさておき、時間がない。準備はいいか? 回復薬はすぐに出せる場所にしまってあるか? 武器はもう出して構えておけ」
「冗談じゃなく、俺は本気なんですが。……回復薬、武器? もうですか?」
ステファノ君が戦闘準備の確認をしてくるが、そんなにかしこまらないとダメだっけ? 通路入ってすぐに接敵ってわけでもないだろうに?
可愛らしく、コテンと首をかしげてアルノーに視線をなげれば「ウザッ」とつぶやかれた。ひどくね?
「ディレーラは忘れているのかな。迷宮には五階層ごとにフロアボスが居るって話を先生から聞いただろう?」
アルフォンス殿下が優しく諭すように声がけしてくれる。優しい。さすがメイン攻略対象。
「ええ、言っていました」
俺が頷けば、それでなんでわからないかな? みたいな顔をステファノ君とアルノーにされる。え?なんで?
「フロアボスを倒して、その背後にある扉を空けると転移陣が解法されるわけだろ? そして僕らは今十五階層の転移陣からやってきて、上層に向かって逆走しようとしているんだよ」
あ、そういうことか。
「いきなりフロアボス戦だ!」
「そういう事。ディレーラ、キミの魔法には期待しているからね」
アルフォンス殿下がぽんと俺の肩を叩く。おお、なんか冒険者仲間っぽくない? 今の。
昨日、一階から二十階まで接敵せずに駆け抜けちゃったからすっかり頭から抜けていた。転移陣からの逆走はいきなりボス戦だ。そりゃ、もう武器を構えてからのドア開けですよね!
腰から杖を取り出して軽く握りしめる。コレは、家から持ってきた愛用の一品。青くてまん丸でツヤツヤした魔石がハマっていてきれいだし太さも長さもちょうど握りやすい。そして魔法威力1.15倍! 微妙! 初期装備だもん!
「殿下、準備おっけーでぇーす!」
「ディレーラはもっと真面目にやれないのか!」
ステファノ君に怒られた。真面目だね。 まぁ、五階層と十階層のボスをすっとばしていきなりの十五階層ボスだからね。
緊張感持って行こう!
「開けるぞ!」
ステファノ君が僕らに声をかけ、転移陣部屋のドアに手をかけた。
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