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あやかし吉原 ~幽霊花魁~  作者: 菱沼あゆ
第一章 幽霊花魁
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同心 小平


「よお、坊さん。

 幽霊花魁の絵は描けたかい?」


 那津がいつもの店で食事をしていると、客の男が声をかけてきた。


 いつの間に、描いてみせることに決定してるんだ? と思いながら、

「いや……」

と答える。


「何が幽霊花魁だ」


 いつの間にか側に居た小平(こだいら)が、そこで、いきなり毒づきはじめる。


「霊なんて居るわけねえじゃねえか」

と言う小平の後ろに男が座って、酒を呑んでいるが、生きてはいない。


 平和な奴だな、と思ったが、少しイラついているようにも感じられた。


「そういえば、辻斬りが出るそうだな」

と言うと、小平は溜息をつく。


「主に吉原帰りの客を狙った辻斬りだ。

 今の時期、女も多いから、女が狙われている。


 まあ、幸い、死んだものは居ないんだが。

 着流しに頭巾を被っていて、顔はわからないそうだ」


「どんな風に斬られてるんだ?」

と訊いたが、


「……なんでお前にそれを話さなきゃならん」

と言ってくる。


「ちょっと気になることがあるだけだ」

「下手人に心当たりでも?」


 そう訊いたときだけは、同心らしい、隙のない目をしていた。


「あるとしたら?」


 こんな与太話を信じるほど困っているのか、小平は黙って、こちらを見ている。


「俺はほとんど寺にこもってるから、よく知らないんだが。

 狙われるのは女ばかりなのか」


「そうだ。

 みな、腕を狙われる」


 腕ねえ、と呟くと、


「おい。話したんだ。

 思い当たる節があるなら話せ。


 ……おいっ」


 答えない自分に、痺れを切らしたように小平が叫ぶ。


 すすけた居酒屋の壁を見ながら答えた。


「いや。

 何故、俺が今、此処に居るのか、考えてるんだよ」


 小平は、はあ? という顔をする。


 これはただの夢なのか?


 何故、俺は江戸に居て、腕を斬る吉原の通り魔の話を聞いている?


 窓から見た外には、もう見慣れてきた江戸の風景が広がっている。


 しとしとと降り続ける雨は、まだ止みそうにもなかった。





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