表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやかし吉原 ~幽霊花魁~  作者: 菱沼あゆ
第三章 のっぺらぼう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/49

咲夜の推理


「あら、長太郎、戻ったの」


 咲夜はからくり扉から現れた男を見上げた。


 ちょうど桧山が借りてくれた貸し本を読んでいたところだった。


「あの坊主、まだ桧山の部屋に居た」


 長太郎には珍しく、言いつけるようなことを言うので、なんだかおかしくて、へえ、と笑った。


「ねえ、今日、覗き女の話を聞いたわ。なんで詳しく教えてくれなかったの?」


「何故、俺に言う。

 俺が知るはずもない」


 咲夜は本を閉じて言った。


「一つ目の話の障子にだけ穴が空いていた。

 二つ目以降は空いてない。


 二つ目以降の覗き女の話は、一つ目の話を聞いて妄想を膨らませた女が見たものか。

 或いは、霊」


 長太郎は、またしょうもないことをという顔をしながら言う。


「二つ目の覗き女は、仙田しか見ていない」

と新造の名を上げた。


「増田の代わりに客の相手をしていて、布団に引きずり込まれそうになったときに見たそうだ。

 客は見えていないから、仙田が自分から逃れるために言ったのかと思ったそうだ」


 なるほど、と咲夜は頷く。


「三つ目は八兵衛が見た。

 女が廊下に立ち、部屋を覗いていた。


 声をかけようとすると、逃げた。

 部屋の中に居た連中は見ていない」


「すると、三つ目は、単に穴を空ける前に見咎められたから空いてないということも考えられるわけよね」

と言うと、長太郎は何故か渋い顔をする。


「それは誰の部屋だったの?」


 長太郎の告げた名前を聞いて、咲夜は或る事実を確信した。


「八兵衛さんは、どんな女を見たと言ったの?」

「……町人風の女だそうだ」


「それはこの吉原では異様ね。

 生きてウロウロしてたら、目立つわよね。


 ただ、外に出れば、この桜の季節にはわからないけど」


「咲夜、もう大概に――」


「一つ目は生きた女だった。

 二つ目は霊。


 桂が言ってた。

 仙田は霊が見えるらしいわね。


 遊女で見えるものは多いけど。


 だから、客にはその姿が見えなかった。


 三つ目も霊。

 八兵衛さんも見えるんでしょう」


 そう。

 覗かれた女が問題なのだ。


 その女に霊が見えるかどうか。

 それで決まる。


「そして、覗き女が不寝者ねずのばんの八兵衛さんに捕まったと聞かないということは」


「ふっと女は消えたそうだからな」


「長太郎」

と咲夜は呼びかける。


「部屋を覗いていた女は誰?」


「何故、俺に訊く」


「あんたが逃がしたからよ。


 今、言ったでしょう?

 外を素人の女がうろついていても、今の時期はおかしくない。


 でも、遊郭の中では違う。


 一階の入り口で左衛門が客を見張っているけど、ずっとじゃない。


 隙をついて、町の女が入り込んだ。


 でも、誰にもバレずにまた抜け出すのは、なかなか困難だと思うわ。


 それに、穴を空けて覗いていて、見つかったんでしょう?


 一瞬、怯えて出遅れても、男は女の手前、強がって、誰だと障子を開けたりしたはず。


 不案内な此処で、その女はどうやって逃げたのかしら。


 客は騒いだでしょうね。


 恐らく、その状況で、あんたたち、不寝者に見つからずに逃げるのは無理。


 八兵衛さんはベラベラ女のことを喋っている。


 ならば、何も誰にも語らず、その女を逃がしたのはあんたよ」


 長太郎は溜息をついて言った。


「暇なんだな、咲夜」


「……暇なのよ」

と素直に認める。


「似たような話をあの男が桧山にしようとしていた。

 そのあと、迫られてうやむやになってたがな」

と言う。


「だから、なんでわざわざそういう不愉快な話をするのよ」

「不愉快か」


「当たり前でしょ。

 で、その女、誰なの?」


「なんでお前に答えなきゃならん」


不忍しのばずの出会い茶屋から、あんたが女の人と出てきたって話があるんだけど」


「お前に関係ないだろう」


「逃がしてやったその女じゃないの?」

「だったら、どうする」


「どうもしないわよ。

 私は言いつけたりしないわ。


 だって、あんたとは違うからーっ」


 そう嫌味まじりにわめいてやると、子どもか、という顔で長太郎が見ていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ