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咲夜 ――回想――
『なにしてるんだい?』
そのとき、その人は優しい口調で訊いてきた。
階段下で立ち尽くしていた自分に。
『君にはそれが見えてるの?』
その言葉に振り返った自分が見たのは、今まで見たこともないほど、繊細な美貌の男だった。
男は黙って微笑んでいた。
困った子だね、と彼は言う。
そして、困った顔だ、と。
ねえ、と男は階段の上を見て呼びかける。
そこには無表情な桧山が立っていた。
彼女は真っ直ぐに自分を見下ろしていた。
その人は、これから別の大店から嫁を貰う予定の、とある大店の息子だった。
自分の手を引き、此処まで連れてきた隆次は、足許の霊が見えないせいか、ただ桧山だけを見つめていた。




