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あやかし吉原 ~幽霊花魁~  作者: 菱沼あゆ
第一章 幽霊花魁

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千束の通り魔


蘇方(すおう)さん。

 それ、自分がやっときましょうか?」


 那津が自分のデスクで書類を作成していると、隣の席の児島が話しかけてきた。


 刑事の仕事といっても、書類仕事も多い。


 妻が居ないせいで、家と寺のことでてんてこ舞いになっている自分に気を利かせて、児島が言ってくれたようだ。


 実際には、家と寺と謎の江戸でてんてこ舞いになってるんだがな、と思う自分の横で、児島が、

明野(あけの)さん、まだ意識が戻らないんですね……。

 早く犯人、捕まるといいんですが」

と心配そうに言う。


 自分の管轄で起こった事件だが、被害者の身内ということで、那津は千束の通り魔の捜査には関われないでいた。


「児島」

「はい」


「お前、前世って信じるか?」

 は? と言った児島だったが、すぐに笑い出す。


「信じてもいいかもしれませんね。

 自分、霊とか信じてなかったんですけど。


 蘇方さんと一緒に働いていたら、信じざるを得ないっていうか。


 いつも現場で、人と違うとこ見てるし。

 いつか、猫と一緒に視線が動いてましたよね。


 猫も見えるって言いますもんね」


 いつの間にか、霊の存在を信じていた、と言う。


「だから、前世の存在も蘇方さんと居ると信じてしまうかもしれません」


 人の魂は存在し、生まれ変わる。

 ならば――。


「なあ、児島。

 人間って、生まれ変わっても同じことを繰り返すんだろうかな」


 そう那津は呟く。


「さあ? どうなんでしょうね?

 三つ子の魂百までとも言いますしね。


 前世のことも引きずっちゃうかもしれませんね」

と児島は笑った。


 信じるかも、とは言ったが、あまり本気にはしていないようだった。


『さっさと捕まえてよ、私を殺した犯人。……今度こそよ』


 駆けつけた病院で、明野の生き霊はそう言った。


 今度こそ、か。


 何故、俺は今、あんな夢を見るのだろうか。


 まるで自分の前世に飛び込んだかのような鮮明な江戸の夢を。


 あの世界では、今と同じ、腕を斬る通り魔が出るらしい。


 それも通り魔が出るのは、新吉原の近く。


 つまり、今でいう、この千束の辺りだ。


 犯人の行動も場所も同じ。


 人は生まれ変わっても、同じ行動をとるものなのかもしれない。


 なんせ、同じ魂だ。


 前世と同じことをして、同じ末路をたどる可能性も高いのではないだろうか。


 あの江戸の通り魔の生まれ変わりが、今、この千束で同じ事件を起こしていて。


 明野は前世でも、今生でも同じ犯人に刺されたのかもしれない。


 だが、千束の通り魔があの吉原の通り魔の生まれ変わりなら。


 吉原の通り魔を捕まえられれば、その行動パターンがわかるかもしれない。


 それが現代の通り魔事件の解決の糸口となるのではないか。


 だが、もうひとつ気になることがある。


 自分につきまとう霊が言う、咲夜(さくや)を助けろという言葉だ。


 名前を呼んで、咲夜を助けろと、あの霊は言う。


 あれは一体、どういう意味なのか。


 あの夢を見続けていれば、いつかその答えがわかるのだろうか――?





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