1/49
新吉原の朝
新吉原も眠る明け方近く。
部屋から出て、階段を下りると、なにかが私の足を掴んできた。
すでに死んでいる遊女だ。
「……まだいたの?」
私がその女の霊に話しかけると、何処からともなく笑い声が聞こえてきた。
死んでなお気の狂っている女が着物を引きずり、正面にある張見世部屋の前をよぎっていく。
うっかり視線を合わせてしまった。
こちらに気づいた女は、
「あんた、何処の子だい? 此処はいいところだよ」
そう言い、ゲラゲラと笑いながら行ってしまった。
「……いいところなら、貴女みたいな霊が出るはずないじゃない」
そう呟き、私は階段を振り返った。
息を吸って、目を閉じた。
そこに現れる残像を見まいとするように――。
名前ヲ――
名前ヲ 呼ンデ
ソレハ 魂ヲ 縛ルカラ