さよなら
ゆっくり行きます。
この双眼鏡は所謂僕らの口や鼻、目や耳の代わりになるらしい。
早速双眼鏡を付ける。そして気づく。
あぁ、そうだ。そうだ、これが感覚だ。すごい、これが匂いだった。
歩く音も聞こえる。
目の前が涙で滲む。そうだ、これが涙だった。
そして、喋る。
久しぶりに聞いた自分の声に、ようやく僕は全てを取り戻した気がした。
だが、
「おぉ、すんごいよこれ、あんたも付けてみなよ。」
と、彼の方を向いた瞬間、我が目を疑うような光景が僕を待ち受けていた。
「え・・・。」
僕がしゃべれたのはここまで。
もう、声が出なかった。
だって、ほら・・・・・。
彼、顔がないじゃないか・・・・・。
叫ぶこともできずに僕は冷や汗を流す。
もしかして、僕もこんな風になっているのだろうか・・・。
突然いやな現実を見せられる。
彼に震える手で双眼鏡を渡す。
「お、おまえ・・・・。」
彼も震えている。
あぁ、そうなんだ。
やっぱりそうなんだ。
この国にいる皆、顔がなかった。
そして、もう1つ双眼鏡があったらしく、付けてみると
「へぇ、おまえ、女みたいな顔してんだな。」
「あんた、盗賊みたいな顔してんだな。」
双眼鏡は透けて、相手の顔がよく見えた。
やはり、この土地は呪われている。
2人してため息をはきながら文句を言い合う。
「それで?この使い方は?」
おちゃらけて聞くしかない。だってまだ怖いから。
「あぁ、それは視点を変えることができるレンズが使われているんだ。」
へぇ、視点ね・・・。
なるほど、そういうことか。
「お、その顔はもう分かったっていう顔だな?」
だが、
―じゃあ行けー
突然そう言われた。
「え?」
―もう、限界なんだ。これ以上設定を破るのは―
「そう。」
―これ以上はイケナイ。また、おまえに制限を付けてしまう―
早く行け!!
そう言われた瞬間走り出した。
突然肩に何かがぶつかる。
それは、彼が持っていたもう1つの双眼鏡だった。
急いでリュックを背負い直して走る。
双眼鏡についているバンドで顔に固定する。
急いで視点を変える。
グルンと1周り見て、道をつなぎ合わせる。
自分を真上から見れる。やはり僕には顔がなかった。
それでも、進むしかない。
錯覚によって道を作る。
ただ、僕は走り続けた。
一瞬だが、何か言われた気がして後ろを向いたが、もうそこには誰もいなかった。
錯覚によって作られた道はやはりまっすぐだ。
目指す場所はもう決めている。
あの城・・・。
絶対あそこに何かがある。
ただそれだけが漠然と胸にささやいている気がする。
やがて、走ることをやめて歩き出す。
周りを見渡すと1つだけ気になる場所が見えた。
人がいる。 誰だろう。
そこまでは、双眼鏡の能力もいらずにたどり着くことができる。
やがてたどり着き、驚く。
「顔が、ある。」
女性は僕の方を見て、微笑んだ。
「やはり、ここにたどり着きましたね。王女様の言うとおりでございました。」
―こんにちは、私はミウ。ミウ・アストラート・イールと申します―
どうやら手紙の本人ではないようだ。
「やぁ、僕はテト。ちゃんとした名前は、うーんと、あー忘れちゃった。
あはは、ごめんね。」
うふふ、と彼女が笑う。
「いえ、いいのです。ですが、そうですか・・・。
もう、そんな時間が過ぎたのですね。フフフ。」
あぁ、すみません。と彼女は話を続ける。
「どうぞこちらへ。少しだけ暇をしてくださいな。」
「えぇ、こちらこそお付き合いいただいて、ありがたい。」
彼女はその場にある階段を上がっていく。
僕もそれに習って後についた。
ゆっくり続きを書きます。




