訪れ
ゆっくり行きます。
「おい、坊主・・・。」
おっさんが僕に疑惑の目を向ける。
「ごめん。おっさん。僕は行くよ・・・。」
涙を流すおっさんは僕に、ただただ
「そうか。」
と言うだけだった。昨日までは。
だがしかし、どうだろう。いま、おっさんは泣きじゃくっている。
僕も同様に・・・だ。
僕らは冒険家として同士だった。
古代遺跡を見て、記しを入れていく。
雲の上だって行ったことがある。
時には山で毒キノコを食べて死にそうになったことも・・・。
そうして、今日で5年目。酒を飲みながらおっさんと昔話をする。
あのときはこうだった。あのときあんなことやりやがったな。とか。
でも、そんな時間も風が吹き抜ける様に過ぎていく。
おっさんはもう年だ。この土地でさよなら。
僕はまだ若い。だから、先へ行く。
それが、冒険家としての使命でありプライドの様なものだ。
僕がこれから行く場所は、なんて言えばいいのか・・・うん、そうだ。
この言葉が似合うだろう。
「呪いの大地」
その国は昔、非常に栄えていたそうだ。まさに圧倒的な技術力。
法も確立されていて、民は平和に暮らしていた。
だが、あるとき災いに見舞われる。
というのも、その国の王女様が原因らしいのだが、真実は定かではない。
その国に冒険に行った人は、そこで一生を終えるらしい。
なぜかは分からない。通信機も作動しないらしく、多くの人が行方不明となっている。
そんな国になぜ僕が冒険に行くのか。
単純である。血が騒ぐからだ。
もう、これは病気?宿命?そんなようなものである。
だから
「じゃあ、また・・・。」
そんな短い答えで僕は去る。
涙なんか出てきやしない。
だって、夢だから。「呪いの土地」曰く「終わりの地」は冒険者にとってまさしく終わりにふさわしい冒険。
おっさんの分まで僕は行く。
リュックには少量の干し肉。
どこかで発掘した不思議なランタン。
後は、着替えと組み立て式の竿。
己の財産や履歴を見れる紙、この紙は特別製で、生まれた瞬間に得られるものである。
破れないし水にも浸からない。
そして、最後に、1通の手紙。
この手紙にはこう書かれている。
~いつかあなたが、私のところにたどり着いたときから、私の道は現れ、あなたを導くでしょう。
幾時の時間の後。あなたは必ず私のところに訪れる。
心を失い、全てを定められた世界で。
どうかお元気で。
この手紙があなたのところに訪れることを願って。 アン・ツール・ドイより~
走り書きで書かれたそれは、あるとき光が渡した奇跡。
あの光景は今でも忘れない。
一瞬だが女性の姿を垣間見たが、彼女には半分しか顔がなかった。
少し・・・いや、かなり怖かったが、それでも感動した。
こんな未知に出会えたことにただただ感謝しかなかった。
そのときからだ、僕があの地を目指し始めたのは。
歩く。
歩くって楽しいよね。
移動中はすることがないからどうでもいいことを考える。
歩くって好き。頂まで1歩近づくことがうれしい・・・。
あー、やめやめ。また面倒なこと考えている。
何が歩くだ、ただ疲れるだけじゃないかと自分自身で言い合う様は正直に言って気持ち悪いだろう。
歩き始めて3日目。ようやく関所に到着した。
冒険家はたとえ危険な場所でも行くことを許可される。
終わりの地は、冒険家以外は行ってはいけない禁じられた場所である。
関所のお兄さんは
「また、来たか・・・。」
と独りでに喋る。
まぁ、気持ちは分かる。
死にに行くやつを見るのはあまりよろしいことではない。
やがて、関所を抜け、あの地への橋を渡る。
下は海になっている。もう戻れないだろう。
え?引き返せばいいって?
無理無理。だってほら。後ろを向いたらあら不思議。
橋が消え去っているんだから。
それなのに普通に渡れるこの橋ってかなりすごいと思う。
なんて脳天気なことを考えながらただまっすぐ進んでいく。
やがて、橋の端にたどり着き、土地に足を踏み入れた瞬間。
「ようこそ。」
と低い声が目の前に現れる。
おかしい。さっきまで目の前には何もなかったのに・・・。
そして、一番の特徴としては、目や鼻、口に耳が付いていないことだろう。
「ど、どうも。」
いやーキョドりながらの挨拶ですいません。
「では、これから、あなたの行動を決めていきますね。」
と、よく分からないことを言う目の前の人間?は何やら本に書いている。
そして、その日から僕は目の前の人間?と同じ様になって、この国で当たり前のように生活していた。
大体2年くらい。 ~まったく笑えないよ・・・~
だって、それまでの記憶がないのだから。
あはははは・・・・・。
ゆっくり続きを書きます。