鉱物錬金術師が結婚
ねぇねぇ。鉱物って興味ある?
「ないよ」
えー。そんなのつまんなくない?
「だって、鉱物が話しかけてくるのもおかしいし……」
仕方ないよ~。そういう世界なんだから!
「おまけに敵にも怪物にも……ちっさいおっさんにも追っかけられてる途中なんですが?」
楽しそうじゃない! ちょっと待ってね。わたしが様子を見てくるから。
「鉱物だから表情も何もわからん……。わかるのは黒い石ってことだけか……はぁ」
ただいまぁ!
「早いね」
そりゃそうだもん。鉱物はわたしの場所だし行き来は結構自由なんだよ。
「で、どうでした?」
うーん。追っかけてた人はいなくなったみたい。
「そうか。じゃあ、ボクも出ないと」
怪物もちっちゃいおっさんもわたしが退治しておいたから大丈夫だよ!
「え? どうしたの?」
鉱物錬金って知ってる?
「知らない」
まぁ、鉱物があれば何でもできるってことだよ!
「それを君がしたの?」
そう!
「……錬金術師?」
そう!
「実験が失敗してここの洞窟で鉱物になっているってこと?」
そう!
「ボクを閉じ込めたね」
そう! あ、言っちゃった。
「ここで一番の怪物は君だったのか……」
でも、わたしは君にここにいて欲しいの。
「ボクは居たくない」
でも出さないよ。わたしが許可を出さない限りね。
「むぅ……わかった。で、ボクは何をすればいい?」
ん~。まずはわたしの言う通りにしてわたしをここから解放して! そうしたら、君の言うこと全部聞いてあげる。
「わかった」
じゃあ、スコップでわたしを半分に割って。
「こうかな――ッ!」
そうそう。じぁ――。
「――ご対面だね」
「出てくるの早っ」
鉱物から一瞬で出てきた。
光とかもなくするっと。
本当に錬金術師なのかもしれない格好で。
「あは~。久しぶりの外!」
「よかったね」
「それよりありがと。約束通り君の言うこと聞いたげる」
「じゃあ、ここから出して」
「わかった! でも条件があるヨ」
この期に及んでまだあるか……。
「なに?」
「わたしと結婚して!」
「は?」
何言ってるんだこの人……。
結婚?
いきなりの人にそんな言う必要あるのか?
「だから結婚して!」
「嫌です」
「なんで~!」
初対面で結婚は無い。
しかも、鉱物だった人とは特に。
「もう~。ここから救ってくれた人と結婚するって一千年も前から思ってたことなのに~!」
「一千年ッ!?」
「そうだよ~」
時間の単位がわからん。
意味が分からん。
なんちゅー世界だ。
「もういい! 無理矢理結婚するし。それか既成事実をグヘへ――」
「あーもう。わかった。それ以上近づくな!」
「やった~!」
はぁ、なんか流されたのは彼女の錬金術とやらか?
思ってもいないことを言ってしまった気がする。
奇妙な世界の始まりへようこそ。
鉱物錬金術師のニールと冒険者ノーラットの結婚生活が始まりを迎えることを祝福するかのように洞窟の出口が開かれ天使の街道を二人は歩いた。