案内人
「オマエらよ!」
寺院の本堂らしき、だだっ広い場所である。
「ゲームブックの中に閉じ込められた気分は、どんな感じ?!」
年のころなら十歳くらいの女の子が、小さなこぶしを振り回しながら、可愛らしく怒鳴っている。
はためく黒髪。
うるんだ瞳。
紅潮した頬。
彼女のその短気らしい雰囲気は、不思議なほど不愉快な印象を与えない。
無邪気な熱心さと健気さの現れだと、むしろ心地よく俺は受け入れた。
もっとも、俺のその感情は、彼女の容姿の美しさによって好意的に補正されたものに違いないが。
もしも、学校の同級生だった女子どもが同様に騒いでいたなら、ただただ煩く喧しいだけだったかもしれない。
「努力を惜しみ、お金も出さず、楽して得しようなんて目論んだ、強欲で怠惰なオマエらのふざけた性根、これからアタシが叩き直してやんよ!」
本来なら本尊が安置されるべき内陣の須弥壇に、裸足の彼女は背伸びするような格好で立っている。
ノースリーブの浴衣のような白地の和装姿。
リボン結びの真っ赤な帯が鮮やかだ。
際どいくらいに着物の丈は短く、どこか薄暗い堂内で、彼女の幼い太股がやけに眩しい。
「代償も払わずに、人生を変えるなんて、ありえないんだからね!」
本堂の外陣には、ゲームブックを入手するために無料アカウント登録した、愚かな一群がひしめいている。
痛いところを年下の少女に指摘された後ろめたさが原因だろう。
俺たちは互いに視線をそらして、板張りの床にうっそりと座り込んでいる。
壇上の彼女は、外陣を見回すと、自分の発言の影響力に満足したように、小さな舌でペロリとピンクの唇を舐めた。
そして、声を一段と張り上げた。
「アタシはラン! このゲームの案内人なのよ!」